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結界②

「おい、親父……今なんて言った?」


 ジュセルの声が自然と低くなる。魔導院の魔術師と一緒になって結界を張るなどジュセルにとってストレスがたまる未来しか考えつかない。そんなジュセルの心情を逆撫でするようなエルヴィンの呑気な声と内容がジュセルの耳に入る。


「お前が魔導院の連中と結界を張りに行くんだ。頼んだぞ」

「嫌に決まってんだろ」

「どうしてもか?」

「当たり前だろ。何で魔導院の連中と行かなきゃならないんだ」

「ふむ……」


 ジュセルの再三の抗議にもエルヴィンの余裕を崩すことが出来ない。エルヴィンは懐から一通の手紙を取り出すとジュセルに渡す。と言ってもジュセルはボーラボーラに足をとられたまま地面に転がっているという状態のために見せると言った方が正確だった。

 手紙を見せられたジュセルの顔に諦めの表情が浮かんだ。見せられた手紙には王家の封蝋が施されており、その事がジュセルに差出人が誰か察したのだった。もちろん差出人はジュラス王である事は間違いない。言わば勅命と言うわけだ。


(本当に根回しは抜かりないよな……)


 ジュセルは心の中で毒づく。ジュラス王の勅命を無視できるほどジュセルの神経は図太くないのだ。エルヴィンと違ってジュセルは常識人なのだ。


「よしよし、納得してくれたようで助かるよ。ジュラス様々だな」


 エルヴィンの嬉しそうな声にジュセルの気分は対称的に沈んでいく。


「わかったよ。やるよやれば良いんだろ!!」

「うんうん」

「でも明日からの学校どうするんだよ」

「心配するな。もう既に許可をとってる」

「何でこんなに行動力あるんだよ……」

「さ、明日の朝8時に魔導院に来いよ。あ、そうそうアレン坊や達には連絡してるから、そっちも安心してくれ」

「……おい」

「じゃあ、父さんはそろそろ帰るから明日遅刻すんなよ」


 エルヴィンはそうジュセルに告げると転移魔術を展開すると煙の様に消える。本来、このテルノヴィス学園には、転移魔術による侵入を防ぐための結界が張られているが、エルヴィンには関係が無いようである。


「はぁ……きっと凄いところに行かされるんだろうな」


 ジュセルが小さく呟いた。



 *  *  *


 翌朝、ジュセルはテルノヴィス学園の寮を出発する。どこに結界を張りに行くか現時点で知らされていなかったために、一応の準備をあれから行ったのだ。といっても街に出て、魔石と携帯食を仕入れるぐらいしか出来なかったのだが。


 学園を出た所で転移魔術を展開すると一気に王城の近くに転移する。王城に転移が許されているギリギリの地点である。魔導院は王城内の施設にあるために、直接転移するという事は出来ないのだ。


 少し歩くと王城に到着する。到着したジュセルは衛兵に通してもらうように許可をもらう事にしたのだ。すでに王城に用事のある人達が並んでおり、ジュセルはその列の最後に並んだ。

 昨日、もらったジュラス王の封筒には、王城の入城許可書も同封されており問題無く入る事が出来るだろう。まだ、約束の時間まで40分程なので遅刻することはない。


 しばらくするとジュセルの順番になり、衛兵に名前と入城目的、許可書を見せるとあっさりと通してもらう事になった。


「でも、君許可書があるんなら別に並ばなくて良かったんだよ」


 担当者の青年がジュセルに言う。


「え?」

「いやね、君はどうやら魔導院に何らかの仕事で来たんだろ」

「はい」

「と言う事は使用人専用の通用口があるからそこから入城できたんだよ」

「え、そうだったんですか」


 ジュセルが驚くと担当者の青年はニッコリと笑って頷くと優しく言葉をかける。


「うん、次回からはそっちに回りなさい。そうすればもう少し朝に余裕が出来るからね」

「ありがとうございます」

「良いってそれじゃあがんばってね」

「はい」


 親切な担当者にジュセルは頭を下げると入城し魔導院に向かって歩き出す。その足取りは軽い。親切な人に親切にされた事でジュセルの機嫌はかなり上向きになっていた。今日一緒に仕事をする魔導院の魔術師がどんな性格かわからないので、少しばかり気が重かったのだ。


(いや~やっぱり、親切な人に会うと心が安らぐよな)


「そこのお前、待て!!」


 そんな事を考えていたジュセルに鋭い声で制止をかける者達がいた。ジュセルは振り向くと騎士服に身を包んだ二人の男がいる。状況から考えて近衛騎士に尋問を受ける事になったらしい。


「はい、なんでしょうか」


 ジュセルは立ち止まり近衛騎士にきちんと応対する。その態度に近衛騎士達は幾分、警戒を和らげる。


「お前はここで何をしている」


 近衛騎士の一人がジュセルに問いかける。口調、視線から確実に詰問調であるが、ジュセルはその事に対して一切不快な気持ちはない。逆にこのままジュセルを見逃すような事をする方がよほど問題であると言える。


「はい、実は仕事の関係で魔導院の方に用がありますので向かっている最中です。こちらが入城許可書になります」


 ジュセルは淀みなく近衛騎士達に告げると入城許可書を近衛騎士に提示する。片方の近衛騎士が入城許可書を手に取り確認する。確認が終わった時にはすでにジュセルへの警戒はなくなっていた。


「確認した。呼び止めて済まなかったな」

「いえ、お仕事お疲れ様です」


 近衛騎士にジュセルが返答すると、二人の近衛騎士は少しだけ微笑む。ジュセルは近衛騎士達に頭を下げると魔導院へと再び歩き出す。


 近衛騎士達と別れてすぐにジュセルは魔導院の建物前に立っている。ジュセルは迷わず扉を開け中に入ると建物内部では、すでに数十人の魔術師達が活動をしていた。


「何か用か?」


 一人の魔術師がジュセルを見つけるとジュセルに声をかける。ぶっきらぼうな口調であるがそれほど不快ではない。


「あ、本日こちらの方と一緒に結界を張る事になっているのですが、担当者の方を教えていただけますか?」

「ああ、そんな話があったな。ちょっと待ってくれ、お~いディクト~」


 魔術師が振り返り声をかけると一人の少年がこちらに歩いてくるのをジュセルは見た。


「どうしたんです?」

「今日お前、結界を張りに行くという話だったろ。そのメンバーが来てるぜ」

「あ、そうなんですか。君が応援?」


 ディクトと呼ばれた少年はジュセルを見る。ジュセルはその少年の視線から自分が値踏みされている事を察するが嫌な感じを受けないのはディクトに悪意が無いからであろう。


「はい、今回参加させてもらう事になりました。ジュセル=ミルジオードです」


 ジュセルはディクトに一礼する。顔を上げた時にディクトも挨拶を返した。


「こちらこそ、ディクト=フェリムです。よろしく」


 これがジュセルとディクトが交わした第一声であった。


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