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神殺(かみごろし)⑮

 事後処理を終えてレミアとフィリシアがアインベルク邸に戻ってきた時、すでに日が沈んでいた。


 レミアが転移魔術で冒険者ギルドに事情を伝え、全員でエルヴィンの家に転移し、フォルベルとグラムス、ケイラの死体をエルヴィンに渡すと殊の外喜ばれた。


 エルヴィンはニヤニヤとしながら『神か……何に使おうかな』というマッドサイエンティスト的な事を口走りフォルベルの絶望の表情はより色濃くなっていた。


 レミアとフィリシアがアインベルク邸に戻った時、すでに食事を終えていたアレンは二人の食事をキャサリンに指示するとサロンで事の次第をアレンに報告する。サロンにはアレン、フィアーネ、カタリナ、レミア、フィリシアの五人がいる。


 一通り二人の報告を聞いてからアレンが口を開いた。


「そうか、二人ともとにかく無事で良かった」


 アレンの声には安堵の感情が込められており、レミアとフィリシアは微笑む。アレンが自分達を気遣ってくれているという事が嬉しかったのだ。


「でも、レミアとフィリシアは神を蹴散らすなんて本当に凄いわね。本当に人間なの?」


 フィアーネの言葉にレミアとフィリシアは苦笑する。正直なところ、今回相手にした神を名乗る連中を斃す事などフィアーネであれば苦も無くやってのけることだろう。


「そうは言ってもね。神といっても戦闘技術が限りなく稚拙だったのよ。あれじゃあね」


 レミアの言葉にフィリシアも頷く。


「レミアの言う通りよ。力とか速度とかは間違いなく私達よりも上だったわ。でも、技術が伴っていないので結果的に圧勝できたのよ」


 フィリシアの言葉にアレンが頷くと言葉を紡ぐ。


「レミアとフィリシアの言うとおりだ。神の戦闘技術の稚拙さは正直な所呆れるレベルだぞ」

「う~ん……そんなものかしら」

「ああ、おそらく神という種族は強いから、あんまり戦闘技術が発達しなかったんだと思う」


 アレンの意見に全員が首を傾げる。


「神の身体的能力は実の所凄まじく高い。その身体的能力の高さ故に技術を使うまでも無く勝利を収めてきたんだろう。そうなればわざわざ戦闘術を発達させる必要はないだろう」


 アレンの言葉に全員が納得する。確かに必要が無ければ技術の発展は行われないだろう。神にとって身体能力だけで勝利を収める事が出来るのならわざわざきつい鍛錬を行う事など無いだろう。


「なるほどね。人間は必要があるから戦闘技術を磨いたという訳ね。そしてその戦闘技術によって神を凌駕したのね」

「そういうことだ。だが、神を凌駕する戦闘技術を持つ者は限られているから、神は混乱してさらに狼狽えた結果、ぼろ負けしてしまったというわけさ。多分、正常な状態であっても二人なら勝てるだろうけど、話にきくほど楽勝というわけじゃないよな」


 アレンの言葉に全員が頷く。レミアもフィリシアも完全に同意のようだ。


「アレンさんの言うとおりですね。勝者は努力を放棄する事が往々にしてありますからね」「ああ、意外と成功体験というのは人の思考を縛る」

「確かにそうね。今回、神を斃したけど次回は神が鍛えてくる可能性があるわね」

「となると私達は新しい術、技を開発する必要があるというわけね。とりあえずホムンクルスの誕生を急がないと」


 アレン達の会話は神という強大なはずの者を斃した事に対する喜びはほとんどない。討伐したレミアとフィリシア自体がそれほど誇らしげにしていないのだから、当然なのかも知れない。

 

「でも、今回の件でわかった事がいくつかあるな」

「まず、イベルは力を取り戻しつつあるという話ね。といっても力を取り戻して一体どれほどの強さになるかわかんないわ」

「そして、イベルの部下の神がどれほどいるかという事ですね。エルヴィンさんがフォルベルから聞き出してくれるでしょうからその情報待ちですね」


 アレンの言葉にレミアとフィリシアが即座に返答すると全員が頷く。そこにフィアーネが続ける。


「私はイベルが一人で襲ってきてもこのメンバーなら十分に勝てると思うわ」

「確かにそうだな。フィアーネの言う通りここにはいない、アディラ、アルフィス、ジュセル、ジェド達、ウォルターさん達、ジェスベルさん達とそうそうたるメンバーが揃っているからな。でも……」


 アレンは頼もしい仲間達の名前を挙げるが、手放しで喜んでいるわけで無いようだった。アレンの心配に対してフィアーネが代弁する。


「魔神とイベルを同時相手取る事になった場合を心配しているんでしょう?」


 フィアーネの言葉にアレンは微笑みながら頷く。同時にレミア、フィリシア、カタリナもアレンの心配の内容を解っていたようだ。


「結局はそこだ。奴等を同時に相手取る事は出来るだけ避けたいところだ。と言いたいが、まず共闘することだろうからそれに対処する事を考えた方が良いのかもしれないな」

「その方が面倒が無くて良いと思います。想定しておけば狼狽えることもないでしょうからね」

「そうね。それはアレンにかかってるわ」


 レミアの言葉にフィアーネ、フィリシアが大きく頷く。


「確かにそうね。アレンにかかってるわ。想定外の事が起こった時にアレンが取り乱す事無く冷静に指示を出してくれれば私達の動揺はおさまるわ」

「その通りですね。私達はアレンさんがいる限り勝利を疑えないんですよ」


 レミアとフィリシアの言葉にアレンは気恥ずかしそうに笑う。その様子を見て、婚約者達も微笑んだ。サロンに甘い雰囲気が満ち始めたのを止めたのはカタリナの咳払いである。


「あのね……愛の劇場は私のいない所でやってね。私も同じ空間にいるという事を忘れないでよ」


 カタリナの“ジト~”とした視線を受けてアレン達は気まずそうにするがただ一人、ニンマリと笑っている者がいた。もちろんそれはフィアーネだ。


「そんな事言って~カタリナだってジュセルと結構いい仲になってるじゃない♪」


 フィアーネの落とした爆弾にカタリナは真っ赤になって狼狽えた。過酷なはずの戦闘においてもほとんど狼狽えないカタリナがここまで狼狽えることは珍しい。

 実際にカタリナとジュセルはかなり仲が良いのは事実である。しかし、アレン達がみたところ“友人以上、恋人未満”といったところだった。


「わ、私とジュセルはそんな関係じゃにゃいわよ!!」


 カタリナが動揺のあまり噛んでしまった事をアレン達は苦笑しようとするが何とか思いとどまる。あまりからかいすぎるとカタリナが怒り出す可能性があったからだ。


「そう、私はお似合いだと思うんだけどな♪ ジュセルだってカタリナの事意識してるわよ」

「そ、そう? じゃなかった、私とジュセルはそんなんじゃないの!!」


 フィアーネの言葉にカタリナは一瞬だが明るい表情を浮かべ、すぐさま平静を装うように心外だという表情をつくる。

 その行為こそがカタリナがジュセルに対して好意を持っている証拠なのだが、やはりここでは言わないでおいた。そしておそらくジュセルに同じ事を言ってもカタリナと同じ反応をする事が予想できる。


「フィアーネもその辺りで止めておけ。カタリナが困っているだろう」


 アレンの言葉にフィアーネは少し舌を出して照れたような表情を浮かべる。


「さて、それじゃあ。レミアとフィリシアは今夜はゆっくり休んでくれ。俺達は墓地の見回りに行ってくる」


 アレンがレミアとフィリシアに休むように伝え墓地の見回りに向かう事を告げる。その言葉にレミアとフィリシアは首を横に振る。


「アレン、私も行くわ」

「もちろん私も行きます。あの程度の連中を相手にしたぐらいでは疲れませんよ」


 レミアとフィリシアの言葉にアレンは微笑む。二人の心情を理解しているために断るような事はしない。レミアとフィリシアは結局のところ、アレンと少しでも一緒にいたいだけなのだ。


「それじゃあ、二人が食事を取り終えたら出発という事でいいな?」

「うん」

「それで良いわよ」


 アレンがそういうとフィアーネとカタリナも了承する。それを見てレミアとフィリシアは微笑んだ。


(それにしても……このメンバーって本当にすごい実力者よね)


 カタリナはアレンと婚約者達の楽しそうな様子を見て思う。


神殺(かみごろし)が四人中三人……しかも、フィアーネも出会っていないだけで神が敵対すれば間違いなく斃してしちゃうのよね。ひょっとしたらアディラも……)


 カタリナはアインベルク家関係者の異常な戦闘力に思い至ると少しばかりやり過ぎでは無いかと思ってしまう。

 このメンバーに敵対する限り魔神と邪神にあまり楽しい未来が訪れるとはカタリナにはどうしても思えなかった。

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