魔剣Ⅱ⑬
フィリシアの墓地管理への就職が決まり、食事の最後の方でレミアが起き出してきたので、フィリシアの今後の事を聞かせると、レミアはことのほか喜んだ。
どうやら、レミアはかなりフィリシアを気に入っているらしい。
「じゃあ、フィリシア、住む所は私の今住んでいる家に一緒に住む?」
「え、いいんですか!!」
「もちろん、一軒家に一人だけだと妙に寂しいのよ。部屋も余ってるしね」
「ありがとうございます」
美少女同士の和気あいあいという姿は正直、癒やされる。フィアーネも絡めばそれは、もう素晴らしい光景になるのだろうけど、フィアーネは少し目を離した隙にまたしても妄想の世界に足を踏み入れている。
フィアーネは残念美少女、レミアは元気系美少女、フィリシアは正統派美少女といった感じだ。
そんな時に、50歳半ばの容姿(なにしろヴァンパイアなので見た目通りの年齢とは限らない)を持つ執事が、フィアーネに来客をつげる。
「みんな、儀式を行う呪術師の方が見えたらしいわ。とりあえずフィリシアの解呪をしちゃいましょう」
フィアーネの提案に三人は頷く。特にフィリシアは期待に充ち満ちた瞳をしている。
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解呪の儀式は滞りなく終わり、晴れてフィリシアの呪いは解けた。
アレンとレミアが恐怖を押さえる腕輪を外してもまったく恐怖感がなかったことから、解呪は成功したらしい。
その事を告げるとフィリシアの瞳から涙があふれてくる。
「うう・・・ありがとうございます・・・ありがぅ・・・グスっ・・・うぇぇ」
よほど嬉しいのだろう、今まで呪いのおかげでまともな人間関係を築くことが出来なかったのだ。フィリシアはずっと人と仲良くしたかったのだ。他愛のないことで笑い合い、みんなで食事をとり、今日一日のことを語り合う。そんな当たり前の生活をしたかったのだ。そして、当たり前の生活を手に入れる事が出来るようになったのだ。
勿論、それらを手に入れるにはフィリシア自身が動かなくてはならない。だが、呪われた身では動けば動くほど恐れられ、忌避された。努力とかそういう問題ではなかったのだ。だが、今呪いは解かれた。努力の問題になったのだ。これから先は自分の努力次第だという事になったそれだけでフィリシアは満たされた気分だった。
「それじゃあ、もう一つの問題をここで片付けよう」
アレンの言う問題とは『魔剣セティス』の事である。
フィリシアにとって、魔剣セティスは自分に呪いをかけた憎むべき魔剣であるが、同時にここまで自分と苦楽を共にしてきた相棒でもある。もちろん、魔剣ヴェルシスと違い魔剣セティスには自我はない。フィリシアにとっては魔剣セティスは複雑な存在であったのは間違いない。
呪いが解かれ真っ新になったフィリシアがもう一度、魔剣セティスにふれた場合、呪われる可能性もある。
そのため最も安全なのは二度と魔剣セティスにふれないことだ。ジャスベイン家の倉庫に保存してもらうのが一番都合が良い。
もしくは、呪いをコントロールする方法である。フィリシアが自分で呪術を修め、魔剣を上回る力を身につけるという方法だ。こちらもいきなりは無理なので、一時ジャスベイン家に預けるという形を取ることになる。
「フィリシアは、どっちがいい?」
「・・・」
フィリシアは無言で魔剣セティスを見る。
「私はもう、魔剣セティスにふれない方が良いと思います。魔剣セティスはジャスベイン家に収めていただきたいと思います」
フィリシアはしっかりとした口調でアレンに告げる。アレンはそれに対して頷いた。
「フィアーネ、済まないが、魔剣セティスはジャスベイン家に預けたいと思う。それでいいか?」
「いいわよ、魔剣セティスは当家が預かるわ」
「ありがとうございます。フィアーネ」
「うん、良いのよ」
魔剣セティスはフィアーネが手に取り、そのまま宝物庫に安置されるようだ。
さて、これで、魔剣セティスの件は片づいた。
あとは、もう一つの厄介事を片付ける必要がある。
・・・感想文だ。
そのあと、アレン達四人は、ジュスティスに向けダンジョンの感想文に取りかかった。
アレン、フィアーネ、フィリシアは真面目に書いたのだが、レミアは、ジュスティスの美味しいところを持ってかれた恨みをつらつらと書きしるし、5枚中4枚半を恨みに費やしていた。これを読んだジュスティスはさすがにちょっとへこんでいたらしい。
こうして、すべての仕事を終え、アインベルク邸に戻ったのは次の日の午前中であった。
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魔剣セティスに関する出来事が終わって三日後、アレンとレミア、フィリシアの三人は墓地の見回りに来ている。
今日がフィリシアの初仕事日である。
魔剣セティスを手放した事による心配された戦闘力の低下も目立つほどでもなく、安定してアンデットを刈っていた。
「ねぇ、アレン」
「なんだ?レミア」
「フィリシアさ・・・」
「フィリシアがどうした?」
「今日から呪術の勉強を始めてるわ」
「・・・そうか、やっぱ目的は・・・」
「そういうこと・・・」
フィリシアにとって魔剣セティスはやはり相棒なのだろう。自分に多くの苦しみを与えたが、それと同じくらい苦楽をともにした相棒なのだ。その相棒を手放したがやはり一抹の寂しさがあるのだろう。
【主様・・・私はずっと主様のそばにおりますぞ】
突然、魔剣ヴェルシスがアレンに語りかける。せっかくのセンチメンタルな気分に浸っていたのをぶちこわした。
「いや、お前はずっとそばにいなくて良いよ」
【そ・・・そんな・・・】
「アレン・・・いくらなんでも魔剣が可哀想よ・・・」
【レミア殿・・・なんとお優しいお言葉・・・】
「じゃあレミア、このナマクラいるか?」
「いや、いらないわ」
即答で断られ魔剣ヴェルシスは泣いているようだった。
いつか、フィリシアが魔剣セティスを振るう時がくるのだろう。何だかんだ言って、魔剣セティスを振るうフィリシアは美しかったし、魔剣セティスもフィリシアのもとにあるのがしっくりきていた。
そんな事を思いながら、今夜も墓地の見回りを行った。
これで、やっと魔剣Ⅱは終わりです。
次回投稿から新しい話です




