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神殺(かみごろし)⑬

 レミアとフィリシアは剣を構えてからゆっくりと歩き出す。途中で呆然としているキュギュスが目に入るが完全に無視をしていた。現在相手にすべきはグラムスであり、キュギュスなどでは無いのだ。

 もちろん、キュギュスに行動制限の術の効果が無いことを知っているために完全に意識から外すという事をするわけではない。


「逃げても良いですよ……」


 フィリシアの口から逃亡を勧める言葉が発せられる。グラムスが反論しようと口を開きかけた時にフィリシアがさらに言葉を続けた。


「すぐに捕まえて殺しますけどね」


 続けられた言葉はフィリシアの苛烈な意思をグラムスに知らしめるものであった。グラムスにはもはや先程までの余裕は一切無い。レミアとフィリシアという神を殺す事の出来る実力の持ち主が人間にいること自体信じられない事だった。

 自分達と同等のルベルシアが人間に斬られた事にも衝撃を受けたのは事実であるが、人間如きに敗れたルベルシアの敗因を調べるような事はせずただ、無様を晒したルベルシアを侮蔑しただけだった。

 だが、今まさに自分達が侮蔑したルベルシアと同じ状況に置かれていることにグラムスは理解した。


(こいつらの身体能力、魔力量は俺達に及ばないはずだ。だが、なぜ俺達神が敗れるのだ!?)


 グラムスのこの疑問は、戦闘に対する思想の差である。レミア、フィリシアというよりもアレン達は誰しもが注目しがちな膂力、スピード、技の精密さだけでなく、呼吸、視線、意識、言葉などの他の要因も戦闘に組み込んでいるのだ。

 そのため、身体能力や魔力で上回る他の種族を撃破することにできるのだ。もちろん、身体能力、魔力もアレン達は人間の中でずば抜けているのだが、あくまでも人間という種族の範囲内にすぎない。


 グラムスはギリッと歯ぎしりをした瞬間にフィリシアの姿が消える。グラムスは凄まじい実力者である事を察するとレミアとフィリシアに意識を集中していた。いや、より正確に言うと現在二人が立っている場所にいる二人に意識を集中させたのだ。

 フィリシアは初動を読ませず一瞬で最高速度に到達した動きによることで、グラムスの知覚から抜け出したのだ。


 フィリシアの斬撃が放たれたのは、グラムスの足であった。相手が実力者の場合に足、腕をまず狙うのはアレン達の基本戦術である。


「く……」

 

 グラムスがフィリシアを知覚したときにはすでに斬撃が放たれており、グラムスは回避しか選択肢がなくなっていた。グラムスは後ろに跳ぶことでフィリシアの斬撃を躱す事に成功したが、当然ながらそれで終わりではない。

 レミアもまたフィリシアが動いた一瞬後には動いていたのだ。レミアが狙ったのはグラムスがフィリシアの斬撃を躱した後だ。フィリシアの斬撃を躱すと思われる場所を読み、先周りし、そこで待ち構えるというものだった。

 そして、レミアの予想通りの場所に、フィリシアの斬撃を躱したグラムスは飛び込んできたのだ。レミアはグラムスの延髄に向かって斬撃を振るう。


 キィィィィィン!!


 グラムスは手にしていた剣を背中にやりレミアの斬撃を受け止める事に成功する。だが、すぐさまレミアは次の一手を打つ。レミアの左回し蹴りがグラムスの側頭部を狙って放たれたのだ。


 バギィィィ!!


 グラムスは左腕を上げレミアの左回し蹴りを受け止める。受け止められると同時にレミアは次の一手を打つ。残った右足でそのまま後頭部を蹴りつけたのだ。


 ゴガァァァァァ!!


 さすがにこの三手目を受けきることはグラムスも出来ずにまともに後頭部に受けたグラムスは今度はフィリシアの方向に蹴り出されたのだ。フィリシアが戻ってきたグラムスの首に斬撃を放つ。


 キィィィィン!!


 グラムスがフィリシアの斬撃を受け止める事が出来たのはもはや奇跡に近かった。フィリシアは鍔迫り合いをするのではなく膝を抜きそのままの力で身を沈めると今度は腹部に斬撃を放つ。

 グラムスはその斬撃を横に飛んで躱すと一端間合いをとるためにそのままさらにバックステップをとる。


 間合いをとったグラムスは突如、首筋にゾワリとした感覚を感じると何が起こるか考える事無く左側に跳んだ。一瞬前までグラムスの首のあった箇所にレミアの双剣が走ったのをグラムスは視界の端にとらえた。


(転移魔術……だと? こんなピンポイントで都合良く拠点を?)


 グラムスはレミアの用意周到さに戦慄する。ここまで状況を読んで転移魔術の拠点を設けるなど尋常ではない。少なくともグラムスには絶対に出来ない事であった。


(あの顔……上手い具合に勘違いしてくれたみたいね)


 一方でレミアはグラムスがミスリードをしてくれたと見て、心の中でニヤリと嗤う。グラムスはレミアがありとあらゆる場所に転移魔術の拠点を設けていると考えてくれたようであるが、実は転移魔術の拠点を設けているのはそれほど多くはないのだ。

 だが、ほぼ必ずグラムスの背後をとれる箇所に転移魔術を設けているのだが、戦闘中のグラムスはその事に気付く余裕はないだろう。


 グラムスはレミアが転移魔術を使用することに気付いた事で、レミアがいつ転移魔術を使用するかわからない事で、意識を外すことは出来ない状態になった。一見それは正しいのだが、別の言い方をすればフィリシアへの注意を怠るという結果になってしまうのだ。

 

 グラムスを追ってレミアとフィリシアは同時に動く。二人がまたも驚異的な速度で間合いを潰すのを見て、グラムスは恐怖で顔を歪ませる。グラムスはそのまま間合いをとるために背後に跳んだところで、呆然と立ちすくむキュギュスの姿が目に入る。


(これだ!!)


 グラムスはキュギュスを利用して一息つくことを考えるとキュギュスの元に向かう。レミアとフィリシアを裏切ったキュギュスはあっさりと裏切りを看破されてしまった。その後にレミアとフィリシアの戦いぶりを見て、格の違いを見せつけられてしまい完全に思考が停止していたのだ。

 グラムスはキュギュスの背後に回り込み、そのままレミア、フィリシアに向かってキュギュスを押した。キュギュスは一歩を踏み出した所で腹部に異物が刺し込まれるのを感じた。差異込まれた異物はキュギュスにあり得ないレベルの苦痛を発生させる。

 この異物とはもちろんフィリシアの持つ魔剣セティスだ。フィリシアは進行方向に入り込んだキュギュスに構わず突きを放ったのだ。いや、より正確に言えばキュギュスを死角にして、グラムスを貫くつもりだったのだ。


 グラムスはレミアとフィリシアがキュギュスを躱すと思っていたのだ。だが、フィリシアは一切の躊躇なくキュギュスの腹を貫きその背後にいたグラムスまでまとめて剣で貫いたのだ。


「がはぁ……」


 グラムスの口から苦痛の声が漏れる。そして声が漏れた一瞬後にグラムスの背中と延髄に衝撃と熱が走る。転移魔術で背後をとったレミアがそのまま延髄と背中を斬り裂いたのだ。レミアもまたキュギュスの体によって作られた死角を利用して転移魔術の瞬間をグラムスに悟られないようにしたのだ。


「バ……バカ…な」


 グラムスの口から信じられないという声が漏れる。フィリシアが剣を引き抜くと支えの無くなったグラムスとキュギュスはそのまま地面に倒れ込んだ。倒れ込んだままグラムスは、虚ろな目でフィリシアを睨みつけながら言う。


「ぶ、部……下を……捨てると……」


 グラムスは非難の声を上げるがフィリシアは容赦なく剣を振り上げ、グラムスの首を落とした。


「私の中ではこいつは部下どころか駒ですら無いのよ。だからそんな言葉で責めてもまったく心には響かないわ」

「まったく、偉そうな事を言ってるのに、所々が本当に甘いわよね」

「そうね。全知全能なんてあり得ないんだからもう少し謙虚になるべきよね。多分この方はレミアに何を仕込まれたかまったく気付いてなかったわよね」


 フィリシアの言葉にレミアも苦笑する。レミアは手をかざしてグラムスの死体に仕込んだ転移魔術の拠点を解除する。レミアはグラムスの後頭部を蹴りつけたときに転移魔術の拠点をグラムス自体に仕込んだのだ。

 以前アレンと戦った時にアレンの服に仕込んだものとほぼ一緒であるが、あの時は緊急避難のためだったので10メートル先に転移するように設定していたのだが、今回は攻撃が目的だったので、拠点から1メートルの距離に転移するように設定していたのだ。

 自分の体に転移魔術の拠点が設定されていても戦闘中であったためにそれに気付かないのだ。


「さ、それじゃあ後始末して帰るとしましょうか」

「うん」


 レミアとフィリシアはそう言うと息も絶え絶えのフォルベルに視線を移す。その視線をフォルベルは見たとき体の芯から震えるのであった。



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