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神殺(かみごろし)⑪

「ここまで大した事の無い相手とは思わなかったわね」


 フィリシアの言葉がフォルベルのプライドを傷つける。もちろん、フィリシアは意図的に行っているのだ。今までの言動、行動からフォルベルは自尊心が高く、人間を蔑んでいるのは間違いない。その蔑みの対象である人間に自尊心を傷つけられれば、さらに冷静さを失わせる事が出来ると考えたゆえの行動である。


「弱いわね……というよりも人間を見下していてこの体たらく……どこまでも無様な生物ね」


 フィリシアの言動の意図を察しているレミアもフィリシアの言動に乗っかかる。


「くそがぁ!!」


 フォルベルは怒りの咆哮を上げ、掌をレミアとフィリシアに向けると衝撃波を放つ。体の動きなどからいつ、どのような攻撃を放つつもりなのかは丸わかりであり、レミアもフィリシアもまったく脅威を感じない。


 フィリシアは一歩進み出ると魔剣セティスの鋒を衝撃波にかざした。放たれた衝撃波が鋒の部分から裂けていき、鋒の後ろにいたレミアとフィリシアにまったく影響を及ぼすことはなかった。それは波が岩にあたって砕け散る様に似ていた。

 フィリシアは魔剣セティスの鋒に魔力で螺旋状の力場をつくると衝撃波を削り取ったのだ。言葉にすると単純であるが、力場の形成、高速で飛来する衝撃波をピンポイントでとらえる技量、そして何よりも対処を誤れば、間違いなく即死する攻撃に対してそれを恐れる事無く実践できる胆力、いや自分の技量ならば可能という絶対の自信が神業を現実にしたのだ。


「な、何をやった!!」


 自身の放った衝撃波があっさりと無力化された事にフォルベルは狼狽する。フォルベルの狼狽を見て、フィリシアは小さくため息をついた。その態度がさらにフォルベルのプライドを傷つける。


「何をやったって……見て解らない程度の実力しかもたないあなたが説明して解るわけ無いでしょう」


 フィリシアは冷たく言い放つとフォルベルに斬りかかった。それは静から動への瞬間的な転換であった。フィリシアの初動は完全なまでに察知されないほど隠されており、フォルベルが気付いた時にはすでに肩口にフィリシアの剣が食い込み始めていたのだ。

 

 シュパァァァァ!!


 フィリシアの剣がフォルベルの肩口から入り一気に振り下ろされる。フィリシアの斬撃は“斬る”という行為を芸術の域まで高めたかのように美しい。


「が……」


 フォルベルが斬られた事に気付いた時には傷口から鮮血が舞っていた。


(か、神である俺が……こ、こんな)


 フォルベルが殺されるという恐怖を自覚したのは、この段階からであった。今までは自分の攻撃を避けていたために当たりさえすればという意識があったのだが、今回の攻防では自分の衝撃波をフィリシアはその場から動くことなく余裕でいなしたのだ。自分の攻撃はこの二人に通用しないという事がこの段階で決定した以上、余程の阿呆あほうでも勝ち目が無いと気付くというものだった。


 フィリシアがフォルベルの肩口を斬り裂いた瞬間にレミアもまた動いていた。レミアの逆手に持った双剣の一本の斬撃がフォルベルの左目を斬り裂き、そのままの勢いで側頭部まで斬り裂いた。


 突如、左目に激痛が走り視界が失われた。苦痛と混乱、そして何よりも圧倒的な恐怖がフォルベルの心を急速に覆っていく。


「ひぃぃぃぃぃ!!」


 フォルベルの口から恐怖に支配された声が漏れる。それは今までフォルベルが嬲り殺してきた人間達が発するものと何ら変わらなかった。フォルベルはその声を聞く度に人間への侮蔑を強めてきた。自分ならばそのような惨めな事はしないと思っていたのだが、それは結局の所、死の恐怖にまともに向き合ってこなかった故の傲慢さであった。別の言い方をすれば無知なだけだったのだ。


「さて、ここまでやれば少しは話す気になったでしょう」


 フィリシアの言葉にフォルベルは呆けた表情を浮かべながら残った眼でフィリシアに視線を向ける。


「がぁ!!」


 フォルベルは苦痛に満ちた叫び声を上げるとその場に倒れ込んだ。レミアがフォルベルの足首を切断したのだ。


「話す気がなければそれで良いわ。容赦はしないから」


 フィリシアが倒れ込んだフォルベルに向けて冷たく言い放った。フォルベルは恐怖に覆われた眼でフィリシアに視線を移す。倒れ込んだフォルベルにはもはや反抗の意思はないようにフィリシアには思われる。


「さて、イベルは現段階でどれぐらいの力を取り戻しているの?」

「……」


 フィリシアの問いかけにフォルベルは沈黙で答える。自分の敬愛する主の情報を売るつもりは無いようだ。だが、レミアもフィリシアもそのような反応は想定している。想定していると言う事はその場合の対処も決めていると言う事だ。

 その対処はもちろん苦痛を与えること。わざわざ、フィリシアが前もって“容赦はしない”と警告していたのに、わざわざやるという事はそれ相応の覚悟があるのは間違いない。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 フォルベルの口から絶叫が放たれる。レミアが背中に容赦なく剣を突き立てたのだ。同時にフィリシアも左腕に剣を突き刺した。二人の行動にはまったく躊躇というものが感じられない。


「待ってくれ!! 言う言う!!」


 フォルベルの口からあっさりと方針転換する言葉が紡ぎ出されるが、レミアとフィリシアはフォルベルの言葉を無視する。レミアは再びフォルベルの背に剣を突き立て、フィリシアはフォルベルの右腕を斬り落とした。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 俺の俺のうで……」


 フォルベルの苦痛に満ちた言葉を聞きながら、フィリシアは表情を一切変えずに剣を振り上げる。もちろん、レミアとフィリシアがフォルベルを痛めつけているのは、心を折り情報を聞き出しやすくするためである。


「お願いします!! 許して下さい!! 何でも話しますから!!」


 声の限りにフォルベルが叫ぶ、フィリシアは振り上げた剣を容赦なく振り下ろし、フォルベルの右肩を斬り裂く。


「調子に乗るからこんな目に遭うんですよ? あなたが話して解るほどの知性を有していなかった事が悲劇を生んだんです」


 まったく悲劇と思っていないような口調でフィリシアが言う。今までのフォルベルであれば激高していた事だろうが、現在はとてもそんな事は言えない。


「さて、さらなる悲劇、悲運に見舞われたければお好きにどうぞ。私達はあなたが嫌いですし、死ねば良いと思っています」


 フィリシアの言葉にレミアは苦笑する。フィリシアは清楚な容姿と礼儀正しい口調から虫も殺さないようなイメージを持たれるのだが、敵対者には一切容赦しないのだ。魔剣に呪われた時からの行動原理であった。


「それでは、質問に戻りましょう。イベルの力は現段階でどれほど戻っているのですか?」

「大……体……6~7割と……いう所で……す」


 フィリシアの言葉にフォルベルは今度は素直に答える事を選択したらしい。


「そう、それじゃあ。あなたのような働き蜂はどれぐらいいるの?」

「イベル様が……召喚……し……たのは、俺を……いれ……て、四……体です」


 息も絶え絶えにフォルベルが言う。


「その中にルベルシア……か、ルデオンは入ってるの?」


 そこにレミアが質問する。イベルがアレンにちょっかいを出し、その時にアレンが斬ったという下級神の名前だ。レミアとすればそれほど深い意味があったわけでは無い。四体の中にルベルシアが入っていれば残りは二体という事になるため、数を確認するつもりだったのだ。

 ところが、フォルベルの変化は急激であった。先程よりも激しく体を震わせているのがわかる。その急激な変化にレミアとフィリシアも驚いた所だった。

 フォルベルの視線の先をレミアとフィリシアが見ると二人の男が立っているのに気付いた。


「グラ……ム…ス……様、ケイ……ラ様」


 フォルベルの口から男達の名と思われる言葉が発せられた。



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