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神殺(かみごろし)⑩

「レミア様、フィリシア様!!」


 戦いの場に駆けつけた体を装い、キュギュス達四人はレミアとフィリシアに声をかける。キュギュス達はレミアとフィリシアの背後についた。敵意などを向ければ一瞬で企みが看破されるために細心の注意を払う。


「あなた達ではこいつの相手は無理よ。下がりなさい」


 レミアの言葉にキュギュスが異を唱える。


「しかし、レミア様とフィリシア様ばかり戦わせるわけにはいきません。我々も助太刀をさせていただきます」


 キュギュスはそう言うとレミアの前に移動する。同時にアシュレがフィリシアの前に庇うように移動した。ルカとビアムはそのままレミアとフィリシアの背後で剣を構える。


「わかったわ。それじゃあ、あなた達の力を当てにさせてもらうわね」


 レミアの言葉にキュギュス達は頷くとフォルベルに視線を移す。


(今までの借りをまとめて返してやるぞ)


 キュギュスはレミアが動こうとした瞬間にレミアへの斬撃を放つつもりだった。いかにレミアとフィリシアが超人的な実力を有していようとも、行動制限の術のために一切の敵対行動をとることが出来ない自分達の反逆を想定しているとは思えないとキュギュス達は思っていたのだ。

 これはある意味、希望的観測に基づいての企みである。すなわち、レミアとフィリシアが反逆を想定していないという希望的観測だ。そしてこの希望的観測は次のレミアの言葉で粉々に打ち砕かれてしまった。


「まったく、神と言っても本当にセコイ手しか使わないわね」


 心底呆れたような声色にキュギュス達は心臓を鷲づかみにされたかのような気持ちになる。レミアの言葉に今度はフィリシアが続ける。


「駒に裏切らせて漁夫の利を狙うなんて、さすがはイベルなんかに仕えるゲスな神ね」


 フィリシアの言葉を聞いた時、キュギュス達の心に絶望が一気に膨れあがった。レミアとフィリシアの言葉は完全に自分達が裏切っている事を把握している事を示している。つまりこの段階で奇襲など成功するわけがないことを知らしめていたのだ。

 そして、キュギュス達と同様に驚愕の表情をフォルベルもまた浮かべていた。赤髪、緑髪の男達を吸収したときに、キュギュス達が裏切る手はずであるという記憶も同時に吸収していたために、内心上手くいくと考えていたため、それが見透かされていた事がわかったからだ。


(な、なんとか取り繕わなければ……)


 キュギュスが口を開こうとした瞬間にレミアが先に口を開くことでキュギュスの言い訳を封じた。


「くだらない言い訳など必要ないわ。私達は確かな根拠があってお前達が裏切っている事を知ってるの」

「そ……そんな」


 レミアの言葉にキュギュス達は行動を起こす。レミアとフィリシアの背後にいるルカとビアムが斬りかかったのだが、レミアとフィリシアは二人の斬撃を視界に入れることなくそれぞれの武器で受け止める。


「な……」

「そ、そんな馬鹿な」


 ルカとビアムはレミアとフィリシアと自分達とのあまりにも離れた実力差にさらに絶望の度合いを高めていく。


「まったくこれ以上無いタイミングで最悪の選択をする連中ね」


 フィリシアの言葉にキュギュス達は震え上がる。


「もし、今回の不始末を許して欲しいのであればフォルベルを戦いなさい。そうすれば許してあげるわ」


 レミアの言葉にキュギュス達は一斉に震え上がった。レミアの言葉はどう考えても事実上の死刑宣告に他ならないからだ。

 そこに、仲間に裏切らせてレミアとフィリシアを楽に倒す算段をつけていたフォルベルが動く。


 レミアとフィリシアは武器を構えるとフォルベルを迎え撃った。キュギュス達はもはや相手にしていない。フォルベルの方に気を配るのは当然であったからだ。フィリシアは自身に放たれた拳をあっさりと躱した。だが、フィリシアの後ろにいたビアムはフォルベルの拳をまともに受ける事になった。


 本来であればビアムは自分がいつ死んだか解らないままに命を散らしていたのだろうが、死の間際にあって極限にまで集中していたビアムの感覚では、妙にゆっくりと時間が流れていた。フォルベルの放たれた拳が少しずつ迫っているのを呆然と見ていた。見えているからと言って早く動けるというわけではないのだ。当然、フォルベルの拳がビアムの顔面にめり込む感覚をビアムは感じるがもはやどうすることも出来ない。

 頭蓋骨が砕けていく音をビアムは確かに聞き、意識の中で絶叫を放った。そこでビアムの意識は途切れる。


 フォルベルの拳により頭部を粉砕されたビアムの死体は地面を転がったが、誰もその死体に興味を示さない。いや、その暇が与えられなかったというのが本当の所だろう。


 フォルベルは次に裏拳を振り回してレミアに叩きつけようとするがレミアは後ろに跳びあっさりとその裏拳を躱した。


「ひぃぃぃ、助けてくれぇぇぇぇ!!」


 フォルベルはルカの顔面を鷲づかみにすると距離をとったレミアに投げつける。レミアは投げつけられたルカをまともに受け止めるのではなく顔面を支点にしてくるりと一回転させるとそのまま自分の目の前に置いた。ルカにしてみればまったく衝撃もなく地面に下ろされ混乱していたが、レミアが助けてくれた事に感謝の念を送ろうとしたが、それは叶わない。

 なぜなら、フォルベルはルカを投げつけると同時にレミアに向け衝撃波を放っていたからだ。

 ルカの背後から凄まじい衝撃が襲い、ルカの体はその凄まじい衝撃波により引き裂かれる。当然、その背後にいたレミアも一緒に吹き飛ばすつもりで放った衝撃波だった。


「ぐ……」


 しかし、衝撃波を放ち終えた瞬間にフォルベルの口から苦痛の声が発せられた。レミアが転移魔術でフォルベルの懐に潜り込むと双剣を振るってフォルベルの脇腹を斬り裂いたのだ。レミアは裏拳を躱すために後ろに跳ぶ前に転移魔術の拠点を設けていたのだ。

 レミアがルカを飛んでくるルカを一回転させ怪我もなく地面に下ろしたのは別にルカの身を案じたためでなく、ルカの体で死角をつくり転移魔術の発動の瞬間を気付かせないためであった。


「レミア、一気に決めるわよ」


 フィリシアの言葉にレミアも頷く。レミアとフィリシアがほぼ同時にフォルベルに斬りかかった。レミアとフィリシアは、すれ違い様にフォルベルの体を合わせて五十を超える裂傷をつける。フォルベルの頑強な肉体が致命傷を与えるに至らなかったが、明らかに深手を与えたのは事実だ。


「くそがぁぁぁぁ!!」


 フォルベルはアシュレの体を掴みあげると足首を掴んで振り回し始める。かつてフィアーネがゴブリンの体を振り回し敵にぶつけるという事をしたのだが、これはフォルベルバージョンというべきものである。


「ひぃぃぃぃぃ!!」


 振り回されるアシュレは最初は叫び声を上げていたのだが、やがて遠心力のために頭部に血が集まると眼や耳から血が溢れ出してきていた。当然だがそのような段階では意識を保つ事は不可能でありアシュレはとっくに気絶している。気絶した事はアシュレにとっては幸運だった事だろう。なぜならば恐怖と苦痛から解放された事を意味するからだ。


 フォルベルは高速でアシュレの体を地面に叩きつけ地面を抉り土をレミアとフィリシアに飛ばした。その際にアシュレの上半身は粉々に砕けており土と共にレミア達に放たれていた。

 レミアは【土壁アースウォール】を展開して、飛んでくる土砂とアシュレの肉片を防いだ。レミアとフィリシアの前に発生した高さ2メートル、幅5メートルの土の壁にはレミアの魔力が込められており放たれた土砂と肉片を防ぎきることに成功したのだ。


 レミアは発生させた土の壁を解除すると形成されていた土の壁はボロボロと崩れ去り、壁の向こうにいたレミアとフィリシアが姿を見せる。フォルベルは憎々しげに二人を睨みつけた。


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