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神殺(かみごろし)⑨

 変貌したフォルベルに嘲りに対してレミアとフィリシアは、それぞれ剣を構える。その表情、雰囲気には一切の恐怖は現れていない。


「リオキル、オルカンドを助けてやりなさい」

「はっ!!」


 フィリシアの命令にリオキルは返答すると吹き飛ばされたオルカンドの元に駆け出す。オルカンドは魔人という強靱な肉体をもっていたためにかろうじて即死を免れたのだが、このまま治療を行わなければ絶命するのは確実なほどの痛手だったのだ。


「オルカンドはこれで大丈夫ということで……私達はこっちを相手にしましょう」


 レミアはニヤリと嗤いながらフォルベルに双剣の一本の鋒を向ける。


「ふん……人間如きがこのフォルベル様に立ち向かうか。すぐに報いをくれてやる!!」


 フォルベルは二人に向け殺意を叩きつけるとそのまま攻撃に移った。フォルベルの速度は先程とは比較にならないほど上がっている。ほぼ一瞬でフォルベルはレミアとフィリシアの間合いに飛び込むと拳を振るう。

 

 ゴゥ!!


 凄まじい拳圧がレミアとフィリシアを襲うが、レミアとフィリシアはその拳をヒラリと躱した。フォルベルの拳から放たれた拳圧はそのまま建物を粉砕する。威力の凄まじさはその巨体から十分伺いしれていたが、それを目の当たりにしたという感じだった。


(速い……)

(身体能力はさっきとは比較にならないというわけね)


 だがレミアとフィリシアはフォルベルの一撃を目の当たりにしても動揺することなく果敢に斬りかかった。


「じゃあ、いくわよフィリシア」

「うん。これからが本番というわけね」


 レミアとフィリシアは、お互いに言葉を掛け合うとフォルベルの間合いに飛び込み剣を振るう。当然ながらレミアもフィリシアもそれぞれの武器に魔力を通し、強化しての斬撃である。

 魔力操作による強化、二人の斬撃の技量が合わされば、例え鉄柱であってもまるで細い木の枝を斬るように切断することが可能だろう。


 フィリシアに向けてフォルベルが拳を放つ。先程同様に凄まじい威力を思わせるのだが、フィリシアはフォルベルの拳をあっさりと躱すとそのまま斬撃を振るいフォルベルの脇腹を斬り裂いた。


「な……」


 フォルベルの表情に動揺が浮かぶ。人間であるフィリシアが神である自分の拳を躱した事に対して驚いたのだ。


(人間如きが俺の速度を上回るだと?)


 フォルベルの洞察は実際の所、正しいとは言えない。実際にフィリシアとフォルベルがどちらが速度が速いかと言えば確実にフォルベルに軍配が上がるだろう。フィリシアが速く動いた訳ではなくフィリシアが無駄なく動いたというのが正しい。

 どんなに速く走れても回り道するのと一直線に走るのとでは目的地に到着するのはどちらが早いかを考えればすぐにわかるだろう。

 レミアとフィリシアから見て、フォルベルの動きは無駄が多すぎるのだ。確かに放たれた拳の速度は凄まじいが、筋肉の動き、打撃を放つという意識が、レミアとフィリシアにしてみれば見え見えであり躱す事など何の問題もないレベルであった。


「よ……」


 フォルベルが動揺したところに今度はレミアが斬撃を放つ。レミアの斬撃は一瞬でフォルベルの左腕を斬り刻んだ。


「ぐぁ!!」


 フォルベルの腕は斬り刻まれたが、切断までには至らない。フォルベルの硬い皮膚と分厚い筋肉、そして強固な骨とここまで揃えばレミアの斬撃であっても切り落とす事は出来なかったのだ。


「う~ん……斬り落とせたと思ったのにな」


 レミアは切り落とせなかった事に対して残念という表情を浮かべていたが、まったく落胆している様子は見えない。フォルベルから間合いをとり再び仕切り直しを行うつもりのようだった。


「ま、いいか。何度も斬り刻んでいけばそのうち落とせるでしょ」


 レミアの言葉にフォルベルは怒りの表情を向ける。口を開きかけた所に今度はフィリシアが斬りかかった。フォルベルのただ身体能力を頼んだ動きではない。修練と数々の戦いの結果、身につけた無駄を一切排除した動きだ。


 フォルベルが気付いた時にはすでに間合いに入られている。いや、より正確に言えばフィリシアの斬撃がフォルベルの皮膚を斬り裂いた時にフォルベルはフィリシアに斬られた事に気付いたのだ。

 フィリシアの斬撃はフォルベルの腹を斬り裂いたのだ。だが、フォルベルの肉体の頑強さが致命傷にまで至らなかったのだ。


 フォルベルは跳躍し、レミアとフィリシアから二十メートル程離れた場所に着地する。一端距離をとる事を選択したのだ。これはフォルベルの中にレミアとフィリシアに対する恐怖が芽生え始めた事を示す証拠であったろう。フォルベルは無意識のうちにレミアとフィリシアを恐れ始めていたのだ。



 *  *  *


 レミア、フィリシアとフォルベルの戦いを見ている者達がいた。それはアインベルク家の駒と呼ばれる者達だ。


 キュギュス、アシュレ、ルカ、ビアム達である。この四人は、赤髪、緑髪の男と出会い取引をしたのだ。本来であればこの四人には行動制限がかけられていることでレミアとフィリシアに敵対する行動をとることが不可能のはずなのだが、赤髪、緑髪の男は行動制限の術式を押さえ込むという新たな術式を展開することで、行動制限の術式を封じ込めることに成功したのだ。


 赤髪の男は、行動制限を一端押さえこむ事が出来た事を確認すると、取引を持ちかけた。その取引とはレミアとフィリシアの身柄の拘束、もしくは命を差し出すことだ。成功の暁には、完全に行動制限の術を解除するというものであった。


 もちろん、レミアとフィリシアの実力を知る彼らとすれば二の足を踏んだのだが、男達は“行動制限がかかっているために裏切ることはないと油断しているのだから不意をつけば勝てる”という言葉によって四人はその気になったのだ。


 一度、その気になった四人は復讐のためにレミアとフィリシアの二人の体を要求する。最終的に引き渡すにせよ、あの二人を陵辱し、精神的に痛めつけてから引き渡さなければ今までの溜飲は下がらないと主張すると赤髪、緑髪の男達は快諾することにしたのだ。


 そして機をうかがいレミアとフィリシアの不意をつくタイミングを計っていたのだ。


「あ、あれに向かうのか……」


 ビアムの震える声に他の三人もゴクリと喉を鳴らした。レミア、フィリシアと変貌したフォルベルとの戦いを見て、レミアとフィリシアの超人的な強さを目の当たりにして、不意を衝いたぐらいで本当に二人を斃せるのか自信が急速になくなっていったのだ。


「だが、あの相手ぐらいの強さがないと絶対に不意討ちなんて成功しない。そもそも今しか呪いが押さえられないから反抗するのは今しか出来ない」


 アシュレの言葉にキュギュスとルカも頷く。今までのレミアとフィリシアが自分達にどのような態度で接してきたという屈辱を晴らすことが出来るのなら多少のリスクは眼をつむるつもりだったのだ。

 

「どのみち、このままの扱いなら遅かれ早かれ使い潰されるだけだ。俺達は道具じゃないんだ!!」


 ルカの言葉は他の三人の心に響く。このセリフをアインベルク関係者が聞けば自分達のやって来た事を棚に上げて被害者面をするこの四人に対して絶対零度の視線を向ける事だろう。若しくは聞く価値は無いと拳で黙らせる事になるかのどちらかだ。


「ルカの言うとおりだ。あいつらにこれ以上玩具にされるのは御免だ。覚悟を決めろ!!」


 キュギュスがそう言うと、ちょうどフォルベルが跳躍し間合いをとったところであった。


「いくぞ……」


 キュギュスが他の三人に言うと戦いの場に向かって駆け出し、他の三人もそれに続いた。


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