表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
490/602

神殺(かみごろし)⑤

 キュギュス達一行は、先に放たれた運ぶ猟犬(ハラーハウンド)を追って走っている。一切の敵対行為を封じられている彼らとすればレミアとフィリシアの命令に異を唱えることは決して出来ない。たとえ、心の中でどんなに拒んでいてもだ


「さっきの悪魔達と戦えば……」


 ルカの呟きにビアムの顔が恐怖で歪んでいく。ルカとビアムは戦闘力でキュギュスとアシュレに劣る。そして先程の悪魔との戦闘力の差も十分に察していたのだ。


「悪魔なんかに俺のような凡人が戦って生き残れるわけがないじゃないか」


 ビアムのぼやきに対して他の三人は何も答えない。答えても意味がないし、慰めるほどお互いに心を許しているわけではないのだ。


「ん?」


 キュギュスが訝しむ声を上げる。次いでアシュレが警戒の声をあげた。ルカとビアムは二人の放つ雰囲気にゴクリと喉を鳴らした。敵が近くにいることを察したのだ。


 キュギュスは立ち止まると背にしていた大剣を抜き放った。その姿を見てアシュレ、ルカ、ビアムもそれぞれ武器を構える。


「魔族に人間に吸血鬼……か、雑多な集団だな」


 立ち止まり武器を構えるキュギュス達に二人の男が現れる。その男達の顔は先程の碧い髪の男とまったく同じものであったが、髪と瞳の色が異なっている。一人の男の髪と瞳の色は赤、もう一人の方は緑であった。


「な……貴様ら一体……」


 ルカが奇妙な者を見る目で問いかける。髪と瞳の色が異なるが、顔が同じとなればそれが異常な事であることぐらい察する事は容易であった。


「まぁ、俺達の生まれなんて今は大した問題じゃないよ」


 緑の髪の男がキュギュス達にあっけらかんとした様子で言い放った。


「そうそう戦うのは良いんだけどさ……それは最後にしようじゃないか♪」


 赤い髪の男がキュギュス達を小馬鹿にしたような口調で言い放つ。


「なんだと……どういうことだ?」


 キュギュスの言葉に二人の男はニヤリと嗤った。




 *  *  *


運ぶ猟犬(ハラーハウンド)達がエシザス達と接触したわ。どんどんやられていくわね」


 レミアの言葉にフィリシアはニッコリと笑う。自分達の目論見通りに物事が進んでいるのだから笑うのは当然というものだった。


「それじゃあ、フィリシアそろそろいくわよ。準備は良い?」

「もちろんよ。でもキュギュス達は立ち止まってるわね」

「そうね……戦闘が始まっているというわけでもなさそうね。会話の途中かしら?」


 レミアもフィリシアもキュギュス達が立ち止まってる事に気付いている。立ち止まっているが戦闘を行っているという感じではないため一応注意をしておくことにする。


「良からぬ事を考えている可能性だってあるから気を付けましょう」

「そうね。さっきの話が現実味を帯びてきたわね」

「気を許さないようにしましょう」

「ええ」


 レミアとフィリシアはキュギュス達が敵に回った場合を想定しておくことにした。先程の話では操られる可能性で考えていたが、今回は自分の意思で敵に回る事を想定しているのだ。そしてそれはキュギュス達にかけた行動制限の術が説かれる可能性も示唆していたのだ。


「それはさておき……行きましょう」


 レミアがそう言うとフィリシアは頷きレミアの側に歩み寄る。レミアの足元に魔法陣が展開される。すぐさま二人の視界がぐにゃりと歪みそれが収まった時に、景色が一変していた。そこには一軒の家がある。かなり大きい家であるが屋敷と呼ぶには小さいという印象だった。


 そしてその家の前に先程の青い髪をしていた男のエシザスと同じ顔で白髪の男がいた。


「貴様ら……」


 エシザスが突如現れたレミアとフィリシアに戸惑いつつも、敵意をむき出しにした表情を浮かべレミアとフィリシアを睨みつける。


(う~ん……後ろの白髪の方が強いわね)

(白髪がボスかしら……それとも現場を任せられただけかしら)


 レミアとフィリシアはすぐさま、黒髪の方を警戒する。放つ雰囲気などがエシザスよりも圧倒的に強いことを、レミアとフィリシアはすぐさま理解したのだ。


「レミア、私がやるわ。白髪の方を警戒しておいて」


 フィリシアが小声でレミアに言うとレミアは小さく頷く。先程は先手を打ったためあっさりとエシザスの足を斬り裂くことが出来たのだが、今回はそう簡単にいかないであろう事はフィリシアもわかっていた。


 フィリシアは一切の殺気を放つことなくエシザスに斬り込んだ。エシザスはここでフィリシアがいきなり斬りかかってくるとは思っていなかったために一瞬であるが対処が後れた。


 キィィィィィン!!


 フィリシアの剣をエシザスはかろうじて自らの剣で受け止める事に成功するが、それはエシザスにとってフィリシアと互角に戦うことを意味するものではない。フィリシアは鍔迫り合いに持ち込もうと受け止められた剣を押すとエシザスはそれに対応するため力を込める。


 そして、エシザスが力を込めた瞬間にフィリシアは剣に込めていた力を抜いた。力のとっかかりを失ったエシザスは体が流れる。その隙をフィリシアは見逃すことなく剣を振るいエシザスの両手首を斬り落とした。


 ゴトリ……


 エシザスの両手首が剣を握った形のまま地面に落ちる。エシザスは自分の身に何が起こったかを理解していないような呆けた表情を浮かべたが、すぐに両手首を斬り落とされた激痛を感じると口から絶叫が発せられる。


「がぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁ!! ……がっ!!」


 いつまでも続くと思われた絶叫は突如中断する。中断した理由はフィリシアがエシザスの喉を貫いたからだ。喉を貫かれたエシザスはピクピクと痙攣を起こしていたがフィリシアが剣を抜くとそのまま倒れ込み動かなくなった。


「エ……エシザス」


 白髪の男が呆けた声を出した瞬間に今度はレミアが動く。白髪の男はエシザスが斃された事に少なからず動揺をしており、視線をフィリシアから離していなかった。そこにレミアが斬り込んだのだ。


「が……」


 白髪の男が気付いた時には、すでにレミアは間合いに入っており、腹部にレミアの双剣の一本が刺し込まれ、そのすぐ後にもう一本の双剣が喉を刺し貫いた。


 レミアは双剣を白髪の男から引き抜くと男は力を失い、そのまま倒れ込んだ。


「う~ん……呆気ないわね」


 レミアの呆れた様な声が周囲に響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ