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試合⑨

 アレンはロムとの間合いを詰めると木剣を振るう。足元から次の瞬間に頭部への二連撃をロムは後ろに跳び躱す。ロムは着地すると間合いを詰め斬撃を放ち終えたアレンの一瞬の隙をつくと正拳突きを放った。


 シュン!!


 ロムの拳をアレンは最小の動きで避けるとか風切り音がアレンの耳に入る。まるで槍術の達人の放つ槍の音に似た感じがする。ロムの拳を躱したアレンは回転しつつ横に跳び、斬撃を放つ。


 ガギィィィ!!


 アレンの木剣をロムは左腕を上げて受け止めるがロムの表情には一瞬だが苦痛の表情が見て取れる。


(さすがにあの四人相手では無傷というわけにはいかなかったな)


 アレンはロムのダメージがかなり重い事を察すると一気に流れを掴み、押し切ることを狙う。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」

「はぁぁぁっぁぁ!!」


 そこにジェスベルとドロシーが参戦する。ロムのダメージが重い事を察したのはアレンだけではなかったのだ。


(現在のロムの戦闘力は無傷の時のせいぜい6割というところだな……だが、厄介な事には変わりない。そしてジェスベル達も参戦するという事は厄介さは跳ね上がるな)


 アレンはそう判断するとジェスベル達のチームの戦力を削る事にする。戦闘力がこの中で一番劣るのはドロシー、次はロフだ。強者から倒すという選択肢もあルのだが、強者を倒すのは時間がかかることが多いため、アレンはあまりその方法をとらない。


 果敢にも踏み込んでくるジェスベルとドロシーに対してアレンは手にしていた木剣を投げつける。ジェスベルはその木剣を手で払った。その瞬間に生じた隙をアレンは衝く。


 バギィィィィ!!


 手で払った瞬間を見計らいアレンが間合いを詰めると右拳をジェスベルの右頬に叩き込む。かろうじて倒れ込むような事はしなかったが、ジェスベルの動きが一瞬止まった。アレンはジェスベルの動きが止まった隙に本命のドロシーに襲いかかる。


「く……」


 ドロシーは手にした木剣の一本を投げつけ、もう一本の木剣で横薙ぎの一閃を放つ。アレンは投げつけられた木剣を最小の動きで躱すとドロシーの懐に飛び込むと木剣を受け止めると同時に鳩尾に拳をめり込ませる。

 攻撃に意識を集中していたドロシーはアレンのこの攻撃に対処する事は出来ずにまともにくらいそのまま意識を手放した。


(よし!! あとは三人だ)


 アレンが残り三人の位置を確認するとロムにロフが治癒魔術を施しているのが見える。アレンがジェスベルとドロシーの相手をすると同時にロムがロフに治癒魔術を施すように動いたのだ。


「これぐらいで大丈夫です」


 ロムは僅かばかりの治癒魔術を受けると再びアレンに戦いを挑む。先程よりも僅かばかりだが動きが良くなっているのをアレンは感じた。ロムの拳が放たれ、アレンはそれを受け流す。反撃するよりも早くロムは肘、貫手、目打ちと立て続けにアレンに放つ。


「く……」


 アレンは舌打ちをしながらその攻撃を躱し反撃の機会を狙う。ロムの攻撃が途切れた瞬間に反撃を行うつもりだったのだ。ロムの放たれた右拳を避けたときにロムの体が僅かながら流れるのをアレンは見る。他の者であれば隙と呼ぶには僅かすぎるほどの体の流れであったがアレンにはそれで十分だった。

 軽く突き出した拳がロムの頬にあたる。僅かであるがロムの頭が反れた。その頭の反れを元に戻すのは一秒の半分にも満たない時間だった。そこにアレンの右拳がロムの腹部にめり込むのはもはや既定路線だ。


(よし!! 決まる)


 アレンはこの一撃で完全にロムとの戦いの流れを掴む事が出来ると確信していた。アレンは容赦なくロムの腹部に渾身の一撃を見舞った。


 ドゴォォォォ!!


 ロムの腹部にアレンの拳がめり込む。だが、その瞬間にロムはアレンの腕を左腕で掴むと右肘をアレンの腕に振り下ろした。


 ビギィィィィィィ!!


 骨の砕ける音が周囲に響く。それはアレンの右腕から発せられていた。そう、ロムはわざとアレンに腹部を打たせ、その瞬間を狙ってアレンの右腕を破壊したのだ。


「ぐぅぅぅぅ!!」


 アレンの口から苦痛の声が漏れる。だがアレンも負けてはいない。アレンは左肘をロムの右鎖骨に叩きつけた。


 アレンの左肘の一撃はロムの右鎖骨を折ることに成功していた。今回のアレンとロムの攻防は個人とすればアレンに軍配があがると見て良い。なぜなら、この攻防でロムは肋骨と右鎖骨を損傷したのに対し、アレンは右腕の骨折であったからだ。


「さすがはロムだな。腹部への攻撃は囮だったか……」

「それをいうなら流石はアレン様でございます。まさか腕を折られた瞬間に肘を使う事が出来るとは思いませんでした」

「しかし、ロムは骨が折れたはずなのに苦痛のうめき声一つあげないな」


 アレンの言葉にロムは小さく笑うと珍しく軽口を叩く。


「いえいえ、ただ単に歳をとって鈍くなっただけでございます」


 ロムの珍しい軽口にアレンはついつい口元が緩む。


「さて、急ぎませんと皆様方が出てきてしまいます。そうすれば私達に勝ち目はありませんので勝負を急がせていただきます」


 ロムの言葉にジェスベルとロフが進み出る。どうやら総攻撃の時間らしい。


「あの結界は強固なものですのであと五分は出てこれないはず……」


 ゴガァァァァァァン!!


 突然、破砕音が鳴り響く。破砕音が起こった場所は先程ロムが作り上げた高さ20メートルほどの巨大な鋼鉄製の箱である。明らかにロムの結界が破られた事を知らしめる破砕音であった。


「だったのですが……はぁ……本当にアレン様の婚約者様方は規格外でございますね」


 ロムは苦笑しながら先程の自分の言葉を訂正する。そして苦笑が収まる頃にアレンを呼ぶ声が響くと声の主達が姿を現した。


「アレン!! 大丈夫」

「アレンお待たせ」

「アレン様、大丈夫ですか!?」

「アレンさん!!」


 アレンの婚約者達がボロボロになったアレンの姿を見るとそれぞれがアレンを気遣う声を上げる。


「ロムさん……もう少し付き合っていただけますか?」


 ジェスベルがロムに言うとロムは微笑みながら返答する。


「勿論ですよ。私は悪足掻きというのは結構好きなんです」

「ありがとうございます」

「ロフ……いくぞ」

「ああ」


 ジェスベルがそう言うと木剣を構え、ロムとロフも同様に戦闘態勢をとる。それを見てアレン達も同様に戦闘態勢をとったのだった。普通に考えてもはや勝負は着いているが両チームは最後の攻防を行った。


 それから五分後、ジェスベル達のチームは全員が倒れ込み、アレン達のチームの勝利が確定した。


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