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試合①

「アレン坊や、時間を作ってもらえないだろうか?」


 国営墓地の昼間の管理人の一人であるコーウェンがアレンに頼む。ここはアインベルク邸にあるアレンの執務室である。今現在、この執務室にはアレン、ロム、コーウェン、ダムテルの四人が在室している。


「コーウェンさんとダムテルさんの頼みとあれば断るつもりはありませんが、一体どうしたのですか?」


 アレンはコーウェンの頼みを快諾する。どのような要件かを聞く前にすでに快諾しているところにアレンの二人への信頼が感じられる。アレンにしてみれば父の代から昼の国営墓地の管理者として働いている二人を疑うという選択肢など存在しない。実際にコーウェンとダムテルは人格的にも能力的にもアレンが信頼を寄せるに相応しい人物達である。


「ああ、要件というのはジェスベル達の件だ」


 コーウェンの口から、元ドルゴード王国の勇者であるジェスベルの名が出た事でアレンはあらかたの事情を察した。


「ひょっとして、もう一度戦ってくれという依頼ですね」


 事情を察したアレンの声には“了解”という意味が込められていることをコーウェンとダムテルはさっするとほっと安堵の息をもらす。


「ああ、前回の戦いからさらに鍛えたという事で自分達の成長具合を確かめたいという思いがあるみたいでな。忙しいアレン坊やに時間をとらせるのは心苦しいのだが、頼みたい」


 ダムテルの発言にアレンは頷く。


 元勇者のジェスベル達はかつて噂を信じ込みアレンの性根をたたき直そうと隣国ドルゴード王国からやってきて、アレンに返り討ちにあったという経歴を持っている。

 出会った頃のジェスベル達は、自らの正義に凝り固まっていたのだが、国営墓地の昼の管理人見習いとなってから、少しずつ考えを改め独りよがりの正義を振りかざすことはなくなった。

 それもコーウェンとダムテルの厳しい指導のたまものであり、ジェスベル達は現在、コーウェンとダムテルの二人を職場の上司と言うよりも師匠として崇めているという状況だった。

 何だかんだ言って面倒見の良いコーウェンとダムテルはジェスベル達の指導に一切手を抜くような事をしなかった。

 ちなみにジェスベル達が管理人見習いとなって、すでに一度アレンと再戦をしているのだが、その時は初めての戦闘よりも実力が上がっていたことはアレンも認めたのだが、まだまだ遠くアレンには及ばず、四人揃ってあっさりと敗れたという結果に終わっていたのだ。

 そして、今日になってコーウェンとダムテルに再戦のために時間を作ってくれと依頼が来たのだ。


「こちらとすればまったく問題はありません。日程はいつが良いですか?」

「日程の前に一つ頼みたいことがあるんだ」


 コーウェンが条件を提示してきた事にアレンは驚く。コーウェンがアレンに不利となるような条件を出す事はあり得ないのだが、コーウェンが条件を提示する事自体が珍しかったのだ。


「ああ、今回はチーム戦でお願いしたい」

「……チーム戦ですか?」

「そう、アレン坊やと婚約者の皆さん達とジェスベル達だ」


 コーウェンの提案はアレンにとって完全に予想外の提案であった。前回からどれだけ実力を上げたか現段階で解らないが、それでも婚約者達とチームを組んで戦わせようという程、ジェスベル達が急激に腕前を上げたとは思えなかった。


(コーウェンさんは決して意味の無い事はしない。となるとこのチーム戦に一体どのような理由がある?)


 アレンはコーウェンの意図が読めないが、それでも自分への不利益になるような事はしないという信頼が勝る。


「わかりました。しかし、俺の婚約者達は強いです。いくら鍛えたと言っても勝ち目はありませんよ?」

「ああ、その辺の事は重々承知だ」


 アレンの言葉にコーウェンはあっさりと返事をする。


(コーウェンさんのこの言葉……勝敗は“度外視”ということか……)


 コーウェンの返答にアレンはそう結論づける。そこにロムが口を開く。


「アレン様、意見を述べさせていただいてよろしいでしょうか?」


 ロムの所作は文句の付けようのないものであり、全員の視線がロムに集中しても乱れることは一切無かった。


「ああ、構わない」

「コーウェンの話ではアレン様のチームは、アレン様、フィアーネ様、アディラ様、レミア様、フィリシア様の五人、対するジェスベル達のチームは四人でございました」


 ロムの言葉に全員が頷く。ロムの言葉は事実でありアレンも当然ながらそれに気付いている。ジェスベル達は同等の条件ではなく不利な条件で戦う事になるのだ。アレンはそのために四人の婚約者の中から誰かを外して数を合わせるつもりだったのだ。


「そこで私がジェスベルのチームに入れば五対五で同等の条件となります。許可していただけませんでしょうか?」


 ロムはそう言うと一礼する。このロムの提案はアレンに戦闘開始のスイッチを入れるには十分なものであった。

 ジェスベル達がいかに腕前を上げていたとしてもアレンは敗れるなど露とも思っていなかったのだが、ロムが相手チームに加わる事でその勝率が下がった事を感じたのだ。


「わかった許可する。これで五対五の同等の条件だな」


 アレンの言葉にロムは一礼する。ロムが頭を上げた時にロムは穏やかな笑みを浮かべていたがロムも久々にアレンと手合わせをする事が嬉しいのだろう。心に火が灯っているのをアレンは感じる。


「それではコーウェンさん、ダムテルさん。チーム戦という事で、みんなと日程を合わせるから少し待ってください。ただ、場所は修練場になると思います」


 アレンの言葉にコーウェンとダムテルは頷くと立ち上がりアレンに頭を下げる。


「それじゃあ、失礼するよ」

「日程が決まったら教えてくれ」


 コーウェンとダムテルはそう言うと執務室を出て行く。それを見送ってアレンはそのまま、邸内にいるレミアとフィリシアに話をするために執務室を出るのであった。



 *  *  *


「わかったわ」

「大丈夫です」

「まかせて♪」

「アレン様、がんばります♪」


 アインベルク邸のサロンに集まったアレンの婚約者達は、事の成り行きを教えてもらうとそれぞれの言葉で快諾であることを伝える。


「それで、あの元勇者さん達にロムさんが加わるとなると気合いを入れないといけないわね」


 フィアーネの言葉に全員が頷く。フィアーネをしてロムは警戒するに値する実力者なのだ。


「でも気になるわね」


 レミアの言葉に全員が頷く。婚約者達もコーウェンとダムテルが無意味な事をする者達でない事を知っている以上、この試合がどのような意味があるかを考えずにはいられないのだ。


「でも、現段階ではそこは置いといて良いんじゃないかしら」


 フィリシアの言葉にアレンが頷くと口を開いた。


「フィリシアの言うとおりだ。コーウェンさんとダムテルさんが俺達の不利益になる事をするはず無い。俺達は勝つためにまず行動するとしよう」


 アレンの言葉に全員が頷く。試合の日はアディラの学園の休みである6日後に決定した。そして全員がこの試合のために準備に入りその日を待つことになったのであった。



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