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仮面Ⅱ⑤

 アンデッドの大群を蹴散らし、三人が国営墓地の見回りを終えたのは一時間後の事であり、23時を越えていた。


「三人ともお帰り」


 アレンは墓地から戻った三人をエントランスで出迎える。背後にはロムとキャサリンも控えている。


「アレン、ちょっと話があるの。時間は大丈夫?」


 レミアの言葉にアレンは頷く。


「ああ、大丈夫だ。フィアーネとフィリシアも一緒だな」


 アレンの返答にフィアーネもフィリシアも頷く。二人が頷くのを見てアレンは何かがあった事を察する。


「そうか、それじゃあ執務室に来てくれ。それからキャサリンはお茶の用意を頼む」


 アレンの指示にロムとキャサリンは静かに頷くと準備のためにエントランスを出て行った。アレン達はその様子を見ると執務室に移動すると、しばらくしてキャサリンとロムがお茶とサンドウィッチを三人の前に並べると一礼し執務室を退出する。

 体裁が整ったという事でアレンは三人にお茶とサンドウィッチを勧めるとともに報告を促した。口を開いたのはフィアーネである。


「アレンは結構前に仮面を被った敵が墓地に現れたのを覚えている?」

「ああ、アンデッドを召喚したり、転移魔術をつかったりしてたな。ひょっとして今夜、そいつが出たのか?」

「うん」

「なるほどな。そしてこの時間に俺に報告したと言う事は何かしらの情報を手に入れたという訳か」


 アレンはフィアーネが“仮面”について言及したことで、事情を察したようだった。墓地の見回りから戻ってすぐアレンに報告すると言う事はそれだけ重要な情報を三人が掴んだというわけだとアレンは即座に思い至ったのだ。


「ええ、そうなんです。それからもう一点なんですが、アレンさんは墓地に現れた何度殺しても甦る魔人を覚えてますか?」


 次にフィリシアがアレンに問いかける。フィリシアがアレンに問いかけたのはフィアーネがサンドウィッチに手を伸ばして幸せそうな表情で頬張っていたからである。

 フィリシアは、他の婚約者達には友人口調で話すのだが、アレンに対しては丁寧な口調で話す。アレンとしてみれば友人口調で話しても構わないと伝えたのだが、フィリシアはアレンに対して丁寧に話すのがクセになっており、こっちの方が違和感なく話せるというのでそのままだったのだ。


「ああ、あのマヌケだろ。最後は魔神に吸収されて……なるほど」


 アレンは魔人エーケンの事を思い出し伝える途中で、報告の内容をかなり察していた。


「仮面の敵の正体は、あの時の魔人だったと言う事か……ということは仮面の敵は魔神が生み出したという事か」


 アレンの言葉に三人は揃って頷く。アレンの察しの良さに全員が満足していた。このような表現をするとアレンは察しの悪い男となりそうになるのだが、三人はアレンが察しが良い事で話が早いのを喜んでいるだけである。


「ええ、仮面は魔神の眷属というのが私達の出した結論よ。ついでに言えばエルゴアを吸収したこともあったじゃない」


 次にレミアがアレンに言う。


「ああ、カタリナと初めて会った時の事だな」

「うん、エルゴアの咆哮はアンデッドを呼び寄せるじゃない」

「まさか……」

「その通り、仮面の男が咆哮するとアンデッドの大群が集まってきたわ」

「……となると仮面はかなり厄介な相手と言う事になるな」


 レミアの言葉にアレンは“厄介だな”という表情を浮かべながら言う。


「ひょうして(どうして)?」


 フィアーネが口にサンドウィッチを入れたままアレンに尋ねる。


「お前な……口にものを入れて喋るなよ。行儀悪いだろ」


 アレンの言葉にフィアーネは口の中に入っていたサンドウィッチを飲み込むとアレンに言う。


「アレンがこの程度で私に幻滅するわけないでしょ」


 なぜか誇らしげにフィアーネはアレンに言い放った。確かにこの程度ではアレンはフィアーネに幻滅はしないだろう。もともとの出会いからして、型破りな少女だったフィアーネにこの程度の事でアレンが幻滅するわけがないのだ。


「幻滅はしなくても呆れるぞ」


 アレンの言葉にフィアーネはニンマリと笑う。


「嫌われない限り、私は大丈夫よ」


 フィアーネの自信たっぷりの言葉にアレンはため息をつく。レミアとフィリシアは苦笑しているが、いつもの事と話に入ってこなかった。


「もう、話が進まないから話を戻すわよ。アレン何が厄介なの? 仮面ははっきり言って現段階では大した実力じゃなかったわよ」


 フィアーネは強引に、というよりもアレンに責任をなすりつけ強引に話を戻した。アレンは“こいつは……”と思ったのだが、ここで反論すれば話が進まないため、反論を控える。


「俺が厄介だと思ったのは魔神が取り込んだ奴の能力を使いこなす可能性が出た事だ」


 アレンの言葉に三人は納得の表情を浮かべる。アレンが危惧するのは仮面の敵ではなく本体である魔神だったのだ。もし取り込んだ能力を魔神が使えるという事になれば厄介だと言わざるを得ない。

 もちろん、魔神自身が取り込んだ能力を使うことは出来ずに、仮面という眷属に能力を与える事しか出来ない可能性もあるが、それは現時点での最低ラインでしかないのだ。魔神という人智を越えた相手である以上、アレンは最大限に警戒をするのは当然だった。

 こちらが戦力を整えていると同じように、魔神も戦力を生み出そうとしている可能性もあったのだ。


「となると……魔神が仮面を生み出す目的は……」


 レミアが考え込む。顎に手をやり考え込む姿は大変絵になっている。考えがまとまったのかレミアはアレンに言う。


「実験と偵察……」


 レミアの言葉にアレンは頷く。


「ああ、レミアの言う通り、仮面の性能実験と俺達の実力を把握しようとしている」


 アレンの言葉にフィリシアが疑問を呈する。


「魔神は既に意識があると言う事ですか?」

「その可能性は十分にあるな。いや、正確に言えばそう想定しておいた方が良い気がする」

「確かにそちらの方が良さそうですね」


 アレンとフィリシアの会話にフィアーネが被せてくる。


「ひょっとしたら仮面は働き蜂のような存在なのかも知れないわね」


 フィアーネの言葉にアレンはゆっくりと頷く。


「確かに仮面が働き蜂とすれば、何かしらの栄養を魔神に運ぶ……よな?」


 アレンの言葉に三人は頷く。


「前回の仮面の数は一体だったけど、今回は三体だったわ」


 レミアの言葉に全員が視線を交わす。全員が同じ結論に辿り着いた事はお互いに理解していた。


「魔神の復活は近付いているというわけね」


 フィアーネが恐れなど一切感じさせない口調で言うと全員が頷く。


「どうやら決戦の日は近いというわけだな」


 フィアーネの言葉にアレンが言う。その言葉は力強く、三人の婚約者にとってこの上なく頼もしく感じた。


「アレンの背中は私達が守るわね♪」


 フィアーネの言葉にアレンは微笑む。そこにレミアとフィリシアがフィアーネを茶化した。


「でもフィアーネは少しはセーブしないとアレンを吹っ飛ばしちゃうんじゃない?」

「フィアーネはアレンさんに良いところを見せようとして空回りするから気をつけてね♪」


 二人にからかわれたフィアーネはむくれながら二人の脇をくすぐり抗議を行った。


「ちょ……フィアーネ……タンマ、タンマ……ハハハハッハハ!!」

「キャハアハハハハ!! ちょっと、フィアーネ許して~♪」

「よいではないか~♪ よいではないか~♪」


 三人の美少女達の戯れる姿を見て、アレンの表情は自然と緩んでいる。アレンの緩んだ表情を見て、フィアーネはニンマリと笑う。


「あれぇ~? アレンはそんな羨ましそうな顔をしてどうしたの~?」


 フィアーネが手をワキワキと動かしながら言うとレミアとフィリシアもニッコリと微笑んで手をフィアーネ同様にワキワキと動かし始める。


「え? ちょ……」


 アレンが三人の顔と手と放つ雰囲気に身の危険を感じ始める。ジリジリと近付いてくる婚約者達に対してアレンは後ろに下がろうとするがソファに体が沈み込むだけで距離は少しも離れなかった。


「じゃあ、二人ともいいわね」

「「もちろん♪」」


 フィアーネの言葉にレミアとフィリシアは見惚れるほどの笑顔をアレンに向ける。そしてソファの前に置かれていた机をフィアーネが横にづらすとアレンと三人の間には障害物はなくなった。


 そして……。


「「「よいではないか~♪」」」


 フィアーネ、レミア、フィリシアは嬉しそうな声をあげてアレンに抱きつくのであった。


(魔神との決戦が近いと言う風にシリアスな話をしていたつもりだったんだけどどうしてこうなった?)


 アレンは婚約者達に抱きつかれ嬉しさと恥ずかしさと疑問がぐるぐると回る幸せな時間をしばらくすごす事になったのだった。

 これで『仮面Ⅱ』編は終了です。次回から新章です。

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