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仮面Ⅱ④

 立ち上がった、いや甦った仮面は剣を拾うと同時に三人に殺気を放つ。凄まじい殺気であり、相当な実力者であっても身構えることは間違いないレベルの殺気だ。


 だが……


「う~ん、面倒よね」

「そうね……あの時は意識があったから心を折るという方法が有効だったけど今度はそうじゃないでしょうしね」

「はぁ、仕方ないわ。地道にやるとしましょう」


 三人の会話には恐怖の感情は一切無かった。死を確認しなかった甘さは反省すべきであったが、それと戦闘で仮面を恐れるかは別問題だ。


 仮面は剣を振り上げると三人に向かって走り出そうとした。仮面が一歩を踏み出すことが出来なかったのはそれよりも早く、三人が動いたからだ。


 シュン……。


 フィリシアの剣が振るわれると同時に仮面の剣を持っていた剣が肘から切り離された。斬り落とされた腕と剣は数メートル程の距離を飛んで剣が地面に突き刺さった。しばらくすると斬り落とされた腕から力が抜けボトリと剣から落ちる。


 シュン……シュン……。


 フィリシアが腕を斬り落とすとほぼ同時にレミアも双剣を振るい、腹と喉を斬り裂いた。

ブシャという値が噴き出す音がレミアの耳に入る。


「てい!!」


 トドメとばかりにフィアーネが仮面の心臓に正拳突きを叩き込んだ。その一撃は一体目を斃した時のように“裏当て”の技法で放たれた一撃であり、仮面の心臓を容赦なく打ち潰したのだ。

 仮面はその場に力なく崩れ落ちる。どうやら戦闘続行は不可能らしい、いや絶命したようで、再び地面に落ちた血が仮面の元に戻り、それにともない傷口が塞がっていく。


 その様子を三人はため息をつきそうな表情を浮かべて眺めている。最初にフィリシアに斬り落とされた腕が仮面に再び戻った所で、仮面は再び活動を始める。だが、仮面が起き上がろうとした瞬間にフィリシアが剣を振るうと仮面の首が落ちる。


「手品ってタネが知れると驚かなくなるのよね」


 フィリシアの口に皮肉めいた言葉が浮かぶ。死んだ瞬間に魔術が発動し甦るというのなら甦らなくなるまで殺し続ければ良いというのが前回の魔人エーケン相手に行った対処法であった。

 今回の仮面もそれと同じ事であり、すでにタネの知れた手品に驚くことはないのだ。


「そう考えると。あの魔人もバカよね。絶命して一時間ぐらいしてから甦るようにしておけば良かったのに」


 レミアの言葉に二人も頷く。この手の術はタネがバレてしまえば何の脅威にもならない以上、生き残るために術の効果を変えるぐらいの事はするべきだろう。


「あ、そうだ。こうしたらどうなるかしら」


 フィアーネは瘴気を集めると一体の神の戦士(エインヘリアル)を作成する。フィアーネが作成した時に、仮面の再生が始まると落とされた首と胴体が再び戻った所だった。

 そしてまたも容赦なくフィリシアの剣が振るわれ仮面の首が落ちる。もはや仮面と三人の関係には戦いという言葉は存在しない。一方的にいたぶり、いたぶられる関係でしかなくなっていたのだ。


 再び首を落とされた仮面は倒れ込む。そこにフィアーネの作成した神の戦士(エインヘリアル)が抜剣すると心臓の位置に剣を突き立てた。


「甦る前からそのまま心臓を貫いていたら楽なんじゃない?」


 フィアーネの言葉はかなり残酷というものであったが、レミアもフィリシアもその事に対して苦言を呈したりしない。仮面は敵であり、容赦をする理由などどこにもないのだ。アレン達は、戦いに臨むにあたって“敵への敬意”を持っている。ただし敬意の表し方は一般的なものとはかなり異なっているのは間違いなかった。ちなみにアレン達に害を及ぼそうと襲ってくる者の多くの品性は下劣なものであり、敵として分類されていない。せいぜい駆除対象としか見ていない。


「なるほどね。確かにその方が手っ取り早い気もするわね」


 レミアが賛同し、フィリシアも頷くと剣を抜くと首を刺し貫き、地面に縫い止める。


「確かにこれの方が楽ね。そうそう……私も一つ気になってるんだけど」


 フィリシアの言葉にフィアーネとレミアが視線を移す。フィリシアの言葉を待っているようだ。


「この仮面の下の顔がどうなっているか見ておかない?」


 フィリシアの言葉に二人は“あ、そうだった”という表情を浮かべる。ここまでサンプルとして格好の存在がいるのだから、それを見逃すことはあり得ない。


「そうね。いい機会だから仮面の下の顔を拝んでおくとするか」


 フィアーネはそう言うと仮面の元に向かうと乱暴に仮面をはぎ取る。


『ギェェェェェェッェッェエェェェェェッェェェェ!!』


 仮面をはぎ取られた瞬間に仮面の下にあった口から絶叫が放たれた。ありとあらゆる不吉を含んだような絶叫であり、さすがの三人もビクッと身を震わせる。ただ、この三人が身を振るわせたのは、突然風で扉が激しく閉まれば驚くのと同じであった。要するに恐怖によるものではなく驚いただけだったのだ。


 そして仮面の下にあった顔には三人も見覚えがあった。


「あ、こいつはあの時の魔人」


 フィアーネの発した言葉通り、仮面の下にあった顔はかつて墓地に侵入した“魔人エーケン”だったのだ。同じように甦った仮面の能力から三人は想定していたのだが、それが証明されれば驚くのも無理は無い。魔人エーケンは魔神により命を吸い取られ“吸いカス”は粉々になったのを三人は目撃していたからだ。


「こいつ、死んだんじゃなかったのかしら?」

「確かに死んだ……というよりも魔神に吸収されちゃったわよね」


 レミアとフィリシアが疑問の表情を浮かべながら言うと、上げられていた絶叫が収まると魔人エーケンの顔を持っていた男はボロボロと崩れ始め、一分も経たずに塵となって消滅する。


「う~ん、これはどういう風に考えるべきかしら?」


 フィアーネが二人に問いかける。


「仮面は魔神の部下という事よね」

「むしろ眷属と言った方が良いかもしれないわね」


 レミアがまずフィアーネの問いかけに答え、次にレミアがその意見を補強する。二人の意見にフィアーネも頷く。今までの流れを考えればどう考えてもその結論に至ってしまうのだ。


「ということは、魔神によって、魔人は取り込まれ仮面として新たに生み出されたというわけね」

「そういうことね」

「なら、仮面の能力は取り込んだ者の能力を付与されて作られたという事ね」


 フィリシアの言葉に二人の顔が曇る。


「魔神は仮面をどれだけ生み出す事が出来るのかしら?」


 レミアがそう言った所で、フィアーネが周囲を見渡す。続いてレミア、フィリシアも周囲を見渡し始めた。


「さっきの絶叫はアンデッドを呼び寄せるためのものだったのね」

「そのようね」

「そう言えば、カタリナと初めて会ったときにエルゴアが複数発生して、その内の一体を吸収したわね」

「そうだったわね。二人ともとりあえず始末しましょう」


 フィアーネがそう言うとアンデッドの集団が三人に向かって来ているのが見える。相当な数のアンデッドに三人はため息をついた。


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