仮面Ⅱ①
今回から新章です。よろしくおつきあい下さい。
「さて……とこっちの区画は異常なしね」
「うん」
「次行くとしましょう」
フィアーネ、レミア、フィリシアの三人は国営墓地の各区画を見回りながら話している。アレンとカタリナは休暇であり、今夜の見回りは三人で行っていたのだ。すでにいくつかの区画を見回りアンデッドが現れれば、三人は即座に殲滅していた。
“異常なし”と言ってはいたのだが、三人の周囲には人骨が転がっており先程までアンデッドが現れており、戦闘が終わったばかりだったのだ。いや、戦闘という表現には多少の語弊がある蹂躙と読んだ方が的確だろう。
この区画で発生したアンデッドはリッチとスケルトンソードマン達の一群であったのだが、三人はその戦闘力を遺憾なく発揮すると瞬く間にアンデッド達を殲滅したのだ。それにも関わらず“異常なし”という表現が出るところに三人の特異さが現れているのかもしれない。
「あ、出たわね」
次の区画について周囲を点検していると、レミアがアンデッドを発見する。スケルトン、スケルトンソードマン、スケルトンウォリアーろいうこの国営墓地において当たり前に発生するアンデッド達が50メートル程先でうろついている。
「とりあえず……」
フィアーネが落ちている石を拾うとそのままスケルトン達に投げつける。ゴゥといううなりを上げて投擲された意思はスケルトンソードマンの胸の位置にある核を撃ち抜くと、スケルトンソードマンはガラガラと崩れ去った。
スケルトンソードマンが消滅しても、スケルトンとスケルトンウォリアーは何事も無いように周辺を歩き回っている。生者の殺害意外に興味の無いアンデッド達は3人の気配をとらえてないために行動を起こしていないのだ。
「フィアーネ、そのままやっちゃって」
レミアが言うとフィアーネは頷くと石を二つ拾い上げ、投擲する。二つとも見事に命中しスケルトン達はまたも消滅する。
「さすがね。この距離を一撃で」
「まぁ、フィアーネ以外ならアディラぐらいでしょうね」
レミアとフィリシアが半分呆れながら、フィアーネを褒める。褒められたフィアーネはえっへんと胸を張っていた。
(こういう所がフィアーネって可愛いのよね)
(この前向きさは見習わないとね)
レミアとフィリシアは心の中で呟く。フィアーネの良いところは、単純な所だ。褒められれば嬉しい、馬鹿にされれば怒るという非常に解りやすいのだ。ただし、お世辞は好きではない事は二人は気付いていた。
フィアーネは公爵令嬢である事から幼い頃より自分を利用しようとする者達が群がってきた。フィアーネはそのような輩に気を許すことは一切無く表面上の付き合いしかしなかった。
アレン達はフィアーネを褒めるときは本心から褒めていたのでフィアーネは喜んでいたのである。その中に“呆れた”という感情が込められていても構わなかったのだ。
「さて、次行きましょうか」
スケルトン達の消滅を確認するとフィリシアが二人に言う。二人とも頷くと次の区画に移動を始める。周囲に気を配りながらの移動であるが、その速度は決して遅いものではない。
「あれって……」
レミアの言葉にフィアーネとフィリシアも頷く。三人の視線の先には、アンデッドとは違う三体の人影があった。
それぞれ身長が2メートル前後、右手に刃渡り1メートル程の巨大な剣、上半身は裸、首元にネックレス、革製のズボンに前掛けという出で立ちだ。そして三体とも仮面を身につけている。以前現れた仮面の戦士そのものだ。
「あの時の仮面を付けてた奴と同じね」
「確か、あの時の仮面は死ぬと塵となって消え失せたわよね」
「そうそう、私と同じように転移魔術を使用する奴等だったわよね」
「うん……という事はこいつらも転移魔術を使用するいう流れかしら?」
三人はそれぞれ仮面の分析を始める。距離は40メートルほど離れているが仮面は三人に向かってくる気配はない。しかし、敵意は放ってきており3人はすでに仮面を敵としてとらえどのように斃すかの算段を始めていた。
「どうやら、私達をおびき寄せようという考えみたいね」
フィアーネの言葉に二人は頷く。この段階で誘いに乗ることは危険と判断した三人はその場で立ち止まる。向こうが動く気がないのであればこちらはじっくりと作戦を練るまでだった。
「わざわざ誘いに乗る必要もないと思うけど、二人はどう見る?」
フィアーネの言葉にレミアとフィリシアは思案顔を浮かべる。考えた時間はわずか5秒ほどだが戦闘中である事を考えれば呑気すぎる時間である。
「私はこっちから攻めるべきと思うわ」
レミアの言葉は、先手を打つ事が戦いに対して有利であると考えるレミアの考え方によるものであった。そしてフィリシアも答える。
「私も基本的には先手を打つのは賛成ね。ただし、私達が行くのではなくアンデッド、フィアーネが神の戦士を嗾け情報を仕入れるのを提案するわ」
フィリシアの言葉も、戦術として誤っていない。仮面が前回の者とは異なる可能性がある以上、未知の術を持っている可能性を想定しておくのは当然だ。そこに考え無しに突っ込んで全滅となってしまえば目も当てられない。
いつもであればこの場合、アレンが決断するのだが、この場にアレンが居ない以上は自分達で決断せねばならない。
「前回の仮面の実力はどの程度だったかしら?」
フィアーネの言葉にフィリシアが答える。
「そうね……魔人クラスはあると思うわよ」
「確かにそれぐらいね……」
フィリシアの意見をレミアが肯定する。
「そう……まともにやれば負ける相手じゃないわけね」
フィアーネの言葉にレミアとフィリシアが頷く。普通に考えれば“魔人”の戦闘力は決して低いものではない。いや、どう考えても一個師団が必要な程の戦闘力を有してるといっても過言ではないだろう。その魔人に対して完勝の自信を見せる三人の戦闘力こそが異常と呼んでもよいかもしれない。
「ここは安全策で行きましょう」
フィリシアの言葉に二人は頷く。
「それもそうね」
「フィリシアの案で行きましょう」
フィアーネとレミアがそう言うと早速、術を展開する。フィアーネの周囲に瘴気の珠が4つ浮かぶとそのまま人型の姿に変貌する。フィアーネ製の彫刻である神の戦士だ。神の戦士はそれぞれが抜剣するとフィアーネの前に立つ。
レミアも周囲に瘴気の珠を発生させる。レミアの周囲に発生した瘴気の珠は十数個だ。それぞれが犬のような獣の姿に変貌する。レミアの彫刻である運ぶ猟犬だ。
「一応私もやっておくわね……」
フィリシアの足下に魔法陣が描き出され、そこから血染めの盗賊が六体現れる。フィリシアの死霊術により作成されたアンデッドだ。
「さ~て……それじゃあ」
フィアーネはここで一端言葉を切る。そしてレミアとフィリシアも次の言葉を声を揃えて言う。
「「「行け!!」」」
三人の命令を受けたそれぞれの配下が仮面に向かって一斉に駆けだした。
う~ん……アレンは今日も出ませんでした。昨日主人公が出ると書きましたけどあれはウソになっちゃいました(笑)
 




