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閑話~元勇者達の墓地生活~

 結構前に『勇者』編でアレンに敗れた元勇者達のその後の話です。

「ジェスベル、こっちを手伝ってくれ」

「はい、ちょっと待って下さい」


 ダムテルの言葉に元ドルゴード王国の勇者であるジェスベルは元気よく返答する。


「ジェスベル、俺が行っておくからそこが終わったら来てくれ」

「悪いな。すぐに終わらせるからな」

「ああ」


 ジェスベルに声をかけたのは仲間のカルスだ。勇者の仲間として多くの魔物達を斃してきた彼の手にはスコップが握られている。その表情には以前のような傲慢さはない。


「ロフ、手早く終わらせるぞ」

「ああ」


 ジェスベルが仲間のロフに声をかけると手にしたスコップで墓穴を掘る。ロフは魔術師であるが、魔術を一切使わず肉体労働にいそしんでいる。


「しっかし、墓守さん達は派手にやったね」


 ロフの言葉には以前のようなアレン達に対する蔑みの感情の響きは一切無い。出会った頃に比べれば雲泥の差であった。


「まぁな、昨夜はまた随分と派手にやったみたいだな」


 ジェスベルがそう返答する。ジェスベル達の視線の先には荒れ果てた国営墓地があり、一体の魔族の死体が転がっている。眉間を矢で射貫かれ、延髄を斬り裂かれているというかなり無残な死体である。ジェスベル達は知らないが、アルフィスとアディラによって斃された魔術師のガベルである。ジェスベルとロフはガベルの墓穴を掘っていたのだ。

 彼らの仕事の一つに、夜にアレン達が斃した魔族などの亡骸を埋葬するというのがあったのだ。それほど回数があるわけではないし、死体の数が多い場合はアレン達が夜のうちにアンデッドを召喚して埋葬したりするのであるが、数が少ない場合はコーウェン達に任せていたのだ。


「どうやら、あっちの方にもかなりの死体があるらしいからな。さっさとやろうぜ」


 ジェスベルの言葉にロフは頷くと掘り進めるスピードが上がる。かなり深く掘ったのだが、二人でやればすぐに穴を掘り終えることが出来た。ロフが魔力で簡易的な棺を作り、ガベルを入れると穴の中に二人で運び込む。運び込んだに二人で土を被せて埋葬を終わらせた。


「よし、行くか」

「ああ」


 ガベルの埋葬を終え、ダムテル達が作業をしている場所に向かって二人は走り出す。すでにコーウェン、ダムテルがカルス、ドロシーに指示を出し終えているのだろう。全員が墓穴を掘っている。

 コーウェンとダムテルはジェスベル達の上司にあたる立場であるが、きつい仕事をジェスベル達に押しつける事はせずに自分達の分は自分達で必ずやることにしていた。

 自己紹介でカルスとロフは、二人に食ってかかったが、あっさりとやられてしまい“人間扱い”しないと宣言されたのだが、実際はそうではなかった。

 反抗的な態度をとったりすれば容赦なく鉄拳制裁が行われたのだが、二人の上司の指示は無茶なものではなく、常識レベルのものばかりだったのだ。ただし、その常識レベルは一般的に相当ハードルが高いものであったのだが、二人があっさりと実践してしまえばジェスベル達とすれば自分達の実力の無さを思い知らされ反抗する事は出来なかった。もし反抗などすれば自分がさらに惨めになるだけだった。

 ジェスベル達は黙々と仕事に打ち込むようになっていき、少しずつだが自分達で工夫をし始め、効率的に仕事が出来るようになっていった。墓穴を掘る時間もどんどん短くなっていき今では一つの墓穴を掘るのにかかる時間は10分程で掘れるようになっていた。


「すみません。後れました」

「すぐ取りかかります」


 ジェスベルとロフの謝罪にコーウェンとダムテルは笑顔で返答する。


「気にするな。随分と早くなったな」

「もう少し時間がかかると思ったが、思ってたよりもずっと早いぞ」

「ありがとうございます。それで……」


 コーウェンとダムテルの言葉は当初に比べてずっと柔らかいものになっている。真面目に仕事に取り組んでいる事で二人のジェスベル達への態度は随分と軟化したのだ。


「ああ、ジェスベルはカルスとドロシーの手伝いをしてくれ。ロフは棺を2つ作っておいてくれ」

「わかりました」

「はい」


 コーウェンの指示にジェスベルとロフは二つ返事で返すとすぐさま取りかかった。カルスとドロシーは墓穴をすでに掘り終え、魔力で出来た棺を運び込んでいるところであった。


 ジェスベルは墓穴の縁に立ち、カルスとドロシーが棺を置くのを確認するとジェスベルは土をかけ始める。もちろん、墓穴の中にいるカルスとドロシーに土がかかるような事がにないように気を使う。

 カルスとドロシーも墓穴から出ると土を被せるのを手伝い、一体の魔族の埋葬を終えるとコーウェンとダムテルの方を手伝う。すでに4つの墓穴を掘り終えているコーウェンとダムテルはロフの作った棺に魔族の亡骸は入れられていた。


 それぞれの墓穴に棺を入れると全員で土をかける。全員できちんと役割分担をしたことで想定よりも早く埋葬は終了した。


「よし全員お疲れ。後は俺達がやっておくから、お前達は事務所で休んでおいてくれ」

「はい、あの……コーウェンさん、ダムテルさん」

「なんだ?」

「今日もお願いしたいんですが……」


 ジェスベルの言葉にコーウェンとダムテルは他の三人を見ると、カルス達もそれぞれ頷く。その様子を見てダムテルは笑顔を浮かべると返答する。


「わかった。俺達は見回りをしてくるから、お前達はその間休憩しておけ」

「はい」

「ありがとうございます」


 ダムテルの言葉を聞いてジェスベル達は一斉に頭を下げる。ジェスベル達はコーウェン達と別れ、先に事務所に向かう。


「そろそろ、コーウェンさん達から一本とりたいな」

「ああ、あの二人は個人レベルでも厳しいのに組むとさらに凄まじい実力を発揮するからな」

「そうね、どうやったらあのコンビに一矢報いられるのかしら……」

「う~ん、難しいですね。あの二人は近接戦闘も魔術も超一流ですよね」

「そうなんだよな、近接戦闘、魔術のどちらか片方と言うだけでも厄介なのにそれを二つ兼ね備えるというのは反則だよな」


 ジェスベル達はそんな話をしながら事務所に歩いて行く。四人はコーウェンとダムテルに戦いの指導を受けていたのだ。仕事が終わってからコーウェンとダムテルに指導を受け、それが終わったら、メシを食い、酒を飲んで反省会をして帰って寝るというのがジェスベル達の日常となっていたのだ。


 ジェスベル達は心を入れ替えてから努力を重ねており、確実に勇者時代よりも実力を付けているのは間違いなかった。だが、何度かアレンに勝負を挑んだが、あっさりとやられてしまい、まだまだアレン達には力が及んでいなかったのである。


 以前のジェスベル達ならば腐っていたのだが、今の彼らはそんな事とは無縁であり、敗北すら自分達の糧にしようという意思が見える。

 そんな彼らの今の目標は、コーウェン、ダムテルから一本とり、アレンとの戦いにおいても一本を取ることである。


 勇者であるという地位を彼らは失ったが、アレン達に追いつくという目標に向かって努力するのは思いの外楽しかった。


「しっかし、俺達も随分と変わったよな」


 カルスが仲間達に言うと全員が充実した表情で頷く。


「ああ、勇者の時よりも俺は今の方が楽しいな。目標とすべき人達がこんなに身近にいるという環境は他にはないからな」

「そうね。勇者もやりがいあったけど、今の暮らしも楽しいわ♪」


 ジェスベルとドロシーがそう言って笑う。


「はいはい、充実しているのは構いませんが、コーウェンさんとダムテルさんにどうやったら一本取れるか作戦も考えましょうか」


 ロフが呆れた様に言うが、その表情には楽しさが滲んでいた。


「そうだな。とりあえず……」


 ロフの言葉にカルスが自分の意見を言う。それにジェスベルが反論するとそれを皮切りに議論が活性化していく。

 元勇者達の墓地の管理業務は、彼らにとって充実したものになったのであった。

 思い込みは激しかったですが、元々そんな悪人というわけではなかったために前向きに進み始めています。彼らがどのようになるか未知数ではありますが、悪い結果にならないで欲しいです。

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