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閑話~模擬戦『アディラVSアルフィス』①~

 兄妹対決です。

「さぁ、今日も頑張るわよ!! アレン様、見守って下さいね♪」


 アディラは早朝5時に起き出すと枕元に立てかけているアレンの姿絵に向かって元気よく話しかける。

 アディラがテルノヴィス学園に入学してから、一日も欠かさずに早朝5時に起きているためにもはや苦痛でも何でもない。ベッドから起き出したアディラは手早く準備を行う。


 アディラが早朝5時に起きるのはもちろん修練のためである。このテルノヴィス学園には修練場が設けられており、毎朝そこで武術の修練を行っている。

 今日はアルフィスとの模擬戦を予定しており、アディラは気合い十分だったのだ。


 アディラはいつもの革鎧に黒を基調としたフレアスカート、すね当て、刃渡り50㎝程の木剣、矢筒、弓、投擲用のナイフを持って意気揚々と修練場に出かけていく。


 寮の私室を出た所で、メリッサとエレナが立っている。二人とも革鎧を身につけすでに戦闘準備を終えている。もし、この場に一個大隊が攻め込んできたところで、この3人を討ち取るのは困難を極めることだろう。いや、条件次第によっては近付く前に全員アディラに射殺されてもおかしくない。


「二人とも待たせたわね」

「いえ、アディラ様本日はがんばりましょう!!」


 アディラの言葉にエレナはやけに気合いの入った返事をする。前回、アルフィスとの模擬戦において10秒も持つ事は出来なかったことがエレナにとって悔しかったのだ。


「エレナ、アディラ様を焚きつけてはダメよ。相手は王太子殿下よ。冷静さを失えばあっさりと終わるわ」

「わかってる。前回は気がついたら首筋に剣が押し当てられてた……。今回はあんなヘマはしないわ」

「ええ、アディラ様の護衛として恥ずかしすぎる失態だったわ」


 メリッサの口調から今日の模擬戦に一方ならぬ想いがあるのが感じられる。何だかんだ言ってメリッサも護衛の任をまったく果たせなかった自分が許せなかったのだ。アルフィスほどの実力者に出会う事は稀であろうが、それでも可能性がないわけではない以上、何としてもアディラを守らなければならない。


「二人とも、前回から1ヶ月の間、私達は作戦を練ってきたのよ。前回のようにはいかないわ」


 アディラの言葉にメリッサとエレナも頷く。前回アルフィスとの模擬戦に為す術なく敗れてから、三人はアルフィスに勝つために努力していたのだ。


 ただ、努力の方向性が一般的な王女の方向と真逆である事を、この時のアディラ達はまったく考慮していなかった。何だかんだ言ってこの三人は揃いも揃って負けず嫌いだったのだった。



 * * *


 学園の修練場には、まだアルフィスは来ていない。約束の時間は6時なので、まだ30分以上早かったのだ。


 アディラ達がこの時間に来たのはもちろん、色々な仕掛けを施すためである。アルフィスという怪物とまともに戦えば間違いなく瞬殺されてしまう。まともにやってもダメならば搦め手で行くしかないというのがアディラ達の出した結論であった。

 アディラの戦闘に対する考え方はアレンの影響を多大に受けた結果、手段を基本選ばない。もし、これが試合というのならアディラは仕掛けなどを施したりはしないのだが、これは模擬戦である。模擬戦である以上、色々な仕掛けを施すのはアディラにとって、当然すぎる事であった。もちろん、策だけで勝つという思考はアディラは持っていないので、日々の修練にも余念はない。

 ちなみにアルフィスも同じ価値観であり、仕掛けに対して何ら忌避感はなかった。勝たねばならない勝負に手段を選ぶなどという甘えた思想はこの兄妹には一切無かったのである。


「よし、後はお兄様が来るのを待つだけね。メリッサ、エレナ可能性は低いけどお兄様がいきなり襲ってくる事も想定しておくわよ」


 アディラの言葉に二人の美貌の護衛兼侍女は頷く。一般的な常識これは取りようによってはアルフィスに対する侮辱となるのだが、アディラ達にしてみれば褒めたつもりである。

 こと戦いにおいてアディラの思考回路は、かなり一般常識とはかけ離れていると言って良いだろう。そして、それを当たり前のように受け入れているメリッサとエレナもである。


「よ~し、今度こそ」

「エレナ、わかってるわね」

「もちろんよ」


 メリッサとエレナはアルフィスの初撃を警戒しながら小声で話す。メリッサとエレナは何が何でもアディラを守り切る事をそれぞれ確認した会話であった。


「お~い」


 そこにアディラ達に声をかける声が一つあった。そちらの方に目をやるとアルフィスの他にジュセルともう一人の人影があった。そのもう一人の人影を見たとき、アディラ達は呆気にとられる。もう一人はクリスティナだったのだ。


「ど、どうしてここにクリスティナ様が?」


 アディラの戸惑った声が発せられるとアルフィスは苦笑しながら答える。


「ああ昨日、クリスに話したら“ぜひ”という事でな」


 アルフィスの言葉には何かを諦めたかのような響きがある。


「アディラ様、頑張って下さい!!」


 一方でクリスティナのテンションは天井知らずで上がっている事が十分に察せられる。クリスティナがアディラの事が大好きであると言うことは周知の事実である。

 アルフィスの事はもちろん愛しているが、アディラの事はさらに大好きであると公言して憚らないクリスティナである。アディラの勇姿を見れるとあれば否応にもテンションが上がるのは当然であった。


「でへへへへへ♪ ああ、いつもの愛らしいアディラ様も良いけど、凜々しいアディラ様も素晴らしいわ♪」


 テンションの高すぎるクリスティナに一同は出来るだけ触れないようにすることで一致したらしい。


(しかし、どうしてクリスティナ様もこんなに美人なのに残念なんだろうか……、フィアーネさんもだし、アディラ様もだよな……美人と残念度は比例するのかな)


 ジュセルがそんな事を考えるとそっとため息をついた。それに気付いたアルフィスが肩に手をやると静かに首を振る。クリスティナの奇行に対しては諦めているのかも知れない。


(まぁ、アルフィス様もクリスティナ様の気持ちもわかるのだろうな)


 結局の所、アルフィスもアディラの事を大事な妹であり、可愛がっていることは周知の事だったのだ。結局のこの二人は似た者同士なのだった。


「それでは、双方並んでください。模擬戦の注意事項を確認します」


 ジュセルがそう言うとアルフィスとアディラ達が二手に分かれて対峙する。アルフィスは妹であっても一切油断していないし、アディラ達も“やるぞ”という気迫に満ちている。


「それでは武器は訓練用の木剣、アディラ様の矢は鏃を外したものを使用すること」

「承知」

「わかりました!!」


 ジュセルの提示に双方が了承する。それを確認するとジュセルは続ける。


「魔術は模擬戦である事を意識したものを使用すること」

「承知」

「はい!!」


 魔術に関してはかなり抽象的であるが、これは模擬戦であり使う魔術を細かく設定すると実戦の気配が必要以上に削れてしまい、訓練効果が低くなると考えたため、アルフィスとアディラで設定したのだ。


「それでは、双方異存なしと言う事で模擬戦を始めます」


 ジュセルがそう言うと双方が頷く。ジュセルは右手を挙げてそれぞれを見やる。


「始め!!」


 ジュセルは叫ぶと同時に振り上げた手を下ろした。

 普通に考えればアルフィスの圧勝ですけど、アディラには何とか一矢報いて欲しいというのが作者の希望です。お楽しみいただければと想います。

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