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閑話~駒達は地獄を行くⅡ~

 今回の話も外道が不幸になる話です。

 エルゲナー森林地帯を約40人程の一群が歩いている。その足は非常にゆっくりでありそれが、この一群の恐怖を示している。


 この一群はかつて『フィゲン』という名の闇ギルドのギルドメンバーで構成されていた。フィゲンは元々、ローエンシア王国の闇ギルドではなかった。ローエンシア王国ではたびたび闇ギルドが消滅しており、その後窯に新しい組織が入り込むというのがいつもの流れであった。

 フィゲンも一つの闇ギルドが消滅した事でローエンシアに入り込み前の闇ギルドの後窯に収まったのだ。その時のフィゲンは間違いなく最盛期を迎えていたと言って良かった。

 裏社会の利権が次々とフィゲンに流れ込んだ。麻薬、人身売買、暗殺などによる莫大な利益がギルドのもたらされ大いに潤った。だが、その最盛期は突然終わりを告げる。さらなる勢力の拡大を狙ったギルドマスターのリュハン=メムトがアインベルク家に手を出したのだ。

 現当主のアレンの婚約者の一人であるフィリシアを捕らえ、それを人質にしてアレンを屈服させようとしたのだ。だが、その一歩目でフィゲンは奈落の底に転がり落ちてしまう。捕らえようとしたフィリシアの実力は凄まじく、逆に為す術なく蹂躙されてしまった。死者が出なかったのはフィリシアの慈悲の心と言うよりも、フィゲンのような雑魚ごとき殺す必要性がなかっただけの事であった。

 

 その後、フィリシアはフィゲン達をアインベルク邸に運び込むとアレン達に引き合わせた。その時の恐怖の体験はフィゲンのメンバー達の心を完全に折った。いや、すでにフィリシアによって折られていたのだが、アレン達によって完全に粉々に打ち砕かれたのだ。


 心を完全に折られたフィゲン達はエルゲナー森林地帯に送り込まれたのである。


 エルゲナー森林地帯に送り込まれたフィゲン達は、蜘蛛人アラクネ達の管理する砦よりもさらに奥地に進んでいる。


「魔物はいないよな」


 一人のメンバーが声を出す。その声には恐怖が色濃く含まれている。調査に出かければその度に魔物に襲われ犠牲者が出ていた。

 逃げるときに「待ってくれぇぇぇぇ!!」「置いていかないでくれぇぇぇ!!」という叫び声に耳を閉じて何度も逃げた。しばらくして様子を戻ると食い散らかされた仲間の死体があったときは見捨てて逃げたという罪悪感よりも俺でなくて良かったという安堵しかなかった。


「ああ、大丈夫だ……」


 それに答えたメンバーの声にも恐怖の感情が色濃い。


「ちきしょう……全部あいつのせいだ」


 一人のメンバーが言葉と共に一人の人物を睨みつける。その視線の先には自分達のかつてのギルドメンバーであるリュハン=メムトがいる。フィゲンのメンバー達の中にはすでにかつてのギルドマスターであるリュハンへの畏怖の念はまったくない。それどころか自分達を地獄に送り込んだ主犯とみなされていたのだ。


「やっちまうか?」


 他のメンバーがぼそりと呟く。このような状況をつくったリュハンに対してそれぞれが腹に一物を抱えていたのだ。

 もちろん、リュハンも元部下達の憎しみをひしひしと感じていた。しかもここ数日はその怒り、憎しみが爆発寸前まで言っている事がわかっていた。


(何とかしなければ……ちきしょう)


 リュハンは焦っていた。日に日に増す元部下達の憎しみによりいつ殺されるか解らないという恐怖はリュハンの神経を確実にすり減らしている。かといって、現状を打破する方法がまったく思い浮かばない。

 もし、リュハンにアレン達ほどの戦闘力があれば颯爽と魔物達を斬り伏せることで部下達の心をつなぎ止めることも出来たのかも知れない。だが、現実はリュハンの戦闘力はせいぜい『ゴールド』クラスの冒険者の中でも下の方と言ったところだ。とてもこのエルゲナー森林地帯で魔物達を蹂躙する事は出来ない。


(どうすれば……)


 リュハンは現状を打破する方法を必死に考えていたのだが、良い案が浮かぶことはなかった。


「おい、あれ……」


 メンバーの一人が小さい声を発すると全員の視線がそちらに向かう。その視線の先には一体のオーガがいる。フィゲン達は息を殺しオーガを見送る事にする。40人近くいる以上、オーガ一体の討伐は問題無く行えるのだが、問題はオーガの血の臭いに釣られて他の魔物が来ることは望ましくない。


 オーガはフィゲン達に気付かずにノシノシと歩いて行く。すると頭上からオーガにボトリと何かが落ちる。


「ひ……」


 一人の口から恐怖の滲んだ声が発せられる。それは全長5~6メートルはあろうかという一匹の蛇だ。オーガを強襲した蛇はオーガに巻き付き締め上げていく。当然、オーガは大蛇を引きちぎろうと力を込める。オーガの膂力ならば例え大蛇であっても引きちぎることは可能なはずだ。フィゲン達は蛇が引きちぎられる姿を予測する。


 だが……締め上げる大蛇から電光が発せられるのをフィゲン達は確認する。オーガは電気ショックのために意識を失ったようでその場に崩れ落ちる。意識を失ったオーガに大蛇は纏わり付き締め上げを再開する。


 ゴギィ……ギョギィィィ……


 大蛇の締め上げによりオーガの骨が砕ける音が響く。骨の砕ける激痛によりオーガは意識を取り戻しなのだろうが、もはや抵抗することは出来ないようだ。オーガの顔に苦痛の表情が浮かぶ。だが、電気ショックと骨が砕かれた事によりいつもの膂力を発揮する事が出来ないようで、何の抵抗も出来ずに骨が砕かれていく。

 オーガの首があり得ない方向に折れ曲がるとオーガは2、3度痙攣すると動きを止めた。オーガが動かなくなったのを確認すると大蛇はオーガから離れると口を開け、オーガを捕食し始める。


「に、逃げよう……」


 一連の流れを呆然と見ていたフィゲン達であったが、一人がそう発言すると自分達がこの場に留まることの危険さを察したのだろう。全員が頷くとゆっくりとこの場を離れる。幸いにして大蛇はオーガの捕食に集中していたのでフィゲン達に気付くことはなかった。


 フィゲン達は足音を殺して大蛇から逃げる事に成功したが、これは安全が保証されたというわけではなかった。


「がぁ……痛ぇ、痛ぇよ!!」


 その時、メンバーの一人が倒れ込んだ。全員が倒れ込んだメンバーに視線を移すと足下に一本の矢が突き刺さっていた。


 近くにいた仲間が矢を引き抜くと治癒術士を呼ぶと治癒魔術を展開する。幸いにも傷はそれほどでもなく治癒魔術で1分もあれば完治するレベルである。だが、その1分の後れが非常に問題だった。治癒のためにフィゲン達は周囲を固めて治癒にあたっていたのだが、それにより、敵に囲まれてしまったのだ。

 周囲の茂みからゴブリン達が現れ、敵意の籠もった目をフィゲン達に向ける。たかがゴブリン達であり本来恐れる必要のない存在だが、このエルゲナー森林地帯では油断できない存在だ。

 もちろん、個体の強さ自体はそれほど問題ではない。他の地域に生息するものと変わりはない。ところがこのゴブリン達がどの集落に属するかで厄介さは大きく変化する。大きな集落に属するものであった場合は相当な数を相手にしなければならなくなるのだ。


「ゴブリンだ!! 囲まれたぞ!!」

「ちきしょう、こんな所で死んでたまるか!!」

「やるぞ!!」


 フィゲン達の周囲に現れたゴブリン達はそれぞれ武器を構えると一斉にフィゲン達に襲いかかってきた。


 対してフィゲン達もそれぞれの武器を構えるとゴブリン達に応戦する。


 怒号と悲鳴が入り交じり、死臭が周囲に充満する。短いが苛烈な戦闘はフィゲン達の勝利で終わったが、フィゲン達はこの戦闘で4人の戦死者がでたのだった。


 フィゲン達は足取り重く、砦に引き返す。エルゲナー森林地帯では死体を連れ帰るような事は出来ない。それは一行の足を遅らせ魔物に襲われる危険性が高まるからだ。闇ギルドに入った時から、ろくな死に方は出来ないと思っていたが、ここまでとは彼らも想像していなかった。


 今回の戦死者は4人……フィゲン達一行は少しずつ数を減らしていた。



 ありがたいことにいつの間にかPV900万を突破してました。


 読んでくれて本当にありがとうございます。

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