六剣⑮
オルグが息絶えた事で六剣は全滅し、戦いはアレン達の勝利で幕を閉じることになった。
アレンは魔剣ヴェルシスを一振りして血を振り払うと鞘に収め、纏っていた瘴気を解除すると途端に体が重くなった。
(やはり……これは相当に消耗するな。まだまだ改良の余地ありだな)
アレンが使っていた瘴気を纏う術は、アレンが開発したばかりの術であった。この術は瘴操術と身体強化の魔術を併用し、驚異的な身体能力を体現するというものだ。ただし、二つの術を同時にコントロールしつつ戦闘を行うという事で、体力、魔力、精神力を一気に消費するため、使い所の難しい術である事は間違いない。
アレンは常に余力を残して戦う事を信条としている。これは別に敵を侮っているわけではなく、自分が生き残るための事である。試合のように始まりと終わりが決められており決まった相手と戦うのならば全力を出しても問題はないだろう。
しかし、アレンは試合をやっているわけではない。眼前の敵を全力を持って叩きつぶし、精根尽き果てて斃した所に新手が現れればあっさりと敗れてしまう。そのためにアレンは常に戦う際に余力を残すようにしているのだ。
「アレン」
フィアーネが手を振りながら駆けて来て、レミアとフィリシアも同様に駆けてくるのが見える。
「お疲れ様、とりあえずこれで終わりね」
フィアーネの言葉にアレンは頷く。自分達の前に現れた六体の魔族は全員討ち取ったし、伏兵の方もアルフィス達が向かった以上、問題はないだろう。
「アレン様~~♪」
そこにアディラが駆けてくる。アディラの身体能力はフィアーネ達に比べれば一枚も二枚も落ちるはずなのだが、アレンの下に駆けてくる時のアディラはとんでもない速度だった。
アディラはアレンの胸に飛び込むと幸せそうな表情を浮かべている。
「ぐへへ~~♪ アレン様、流石です♪」
アディラはアレンの胸に頬をこすりつけてきた。その表情は幸せそうであり、その光景を見ていたフィアーネ達の表情に僅かばかりの嫉妬の感情が浮かんでいた。
「ちょ、ちょっとアディラ、場所を弁えなさいよ。そんな羨ましい事をしないでよ」
「そうよ。私だったアレンに抱きつきたいのを我慢してるんだから」
「アディラ、アレンさんに墓地で抱きつくのはダメよ。私だって我慢してるんだから」
婚約者達の抗議の声にアディラは素直に従う。自分のとった行動が確かにこの国営墓地でやる行動でなかった事に対して反省したのだ。
「ごめんなさい。みんな、私ったらつい」
アディラの言葉にフィアーネ達もニッコリ笑う。3人もアディラが素直に謝罪したため、これ以上責めるつもりはまったくなかった。
「アディラ、王太子殿下達は?」
レミアがアディラに伏兵との戦いを尋ねる。すでにアディラがこの場にいることから間違いなく勝利した事は予想しているのだが、斃したのか捕らえたのかを確認したかったのだ。
「うん、敵は2体いたんだけど一体は斃して、もう一体はお兄様達が捕まえたわ」
アディラの言葉にアレン達は頷く。アレン達が六剣を全滅させたために情報を聞き出す相手が出た事は正直嬉しい。
「今はお兄様達が尋問しています。私はみんなが気になったから一足先にここに来たの」
「なるほどね。それじゃあ、もう少ししたら王太子殿下達もここに来るというわけですね」
「うん」
アディラの元気な返事にアレン達はほっと一息をつく。どうやらこの段階で、アレン達がする事は、何もない事がわかり休むことにしたのだ。アレンはその場に足を投げ出した形で座り込んだ。
アレンが座り込むとフィアーネ達もアレンの周囲に座り込んだ。アレンから右側からフィリシアが座り、フィアーネ、アディラ、カタリナ、レミアと円になって座り、アレンの左隣にはレミアが座るか立ちになった。メリッサとエレナは念のために周囲の警戒を行う事にしている。
「それにしてもこいつらは中々強かったわね」
レミアが言うとアディラ以外の全員が頷く。アディラはほとんど六剣の戦闘に関わっていないために今一ピンとこなかったのだ。
「そうだな。でもおかげで収穫もあったな」
アレンの言葉にフィリシアが口を開く。
「確かにそうですね。傀儡がやられてアディラ達が応援にくるまでの時間、どのように粘れば良いかという事が確認出来ました」
「そうね。一応練習はしといたけど、実戦で使う事が出来たのはやっぱり大きいわね」
「そういう事だ。思った以上にアディラ達が駆けつけてくれた時間が早かったから助かったな」
アレンの言葉にアディラは嬉しそうに微笑む。アレンに褒められてやはり嬉しいのだろう。
「そして、アレンが開発した術も初めて実戦で使ったけど使い勝手は良さそうね」
次にフィアーネがアレンがオルグを圧倒した術について話題を持っていく。アレンが少しずつ開発を進めていたのをフィアーネ達も知っていたのだ。
「ああ、かなり消耗するが切り札の一枚として十分に使える」
アレンの言葉にフィアーネは満足そうに頷く。これから魔神と戦うアレンにとって手札が増えるというのはそれだけでも意味があるのだ。
「そうそう、アレン。こいつらの持っていた魔剣はどうするの?」
「もちろん、国に収めるさ。魔剣のリスクを考えればそれが一番だ」
レミアの言葉にアレンは迷わず返答する。魔剣は絶大な力を持つが生半可な実力者が持てば精神に異常をきたすことをアレンは十分に理解していた。それを避けるためには国の管理下に置くのが一番安全だと言う事だった。
「それもそうね。魔剣は六本……これだけで屋敷が何軒建つかしら?」
レミアの俗っぽい感想にアレン達は苦笑する。
「ん? アルフィス達が来たな」
アレンはそう言うとフィアーネ達はアレンの視線の先を見ると確かにアルフィスとジュセルが歩いてきていた。その後ろに一体の魔族が項垂れて付いてきており、アルフィス達が捕らえた伏兵である事は間違いなかった。
アレン達は立ち上がるとアルフィス達をその場で待つことにする。アルフィス達はアレン達が待っている場所に向かって歩く速度を変えることなくやってくると、アレン達に話しかける。
「お疲れ、どうやら予定通り勝ったみたいだな」
アルフィスの言葉にアレンは頷く。
「ああ、今回は助かった。お前達が援護に来てくれなければどうなっていたことか」
アレンの言葉にアルフィスはニヤリと嗤う。
「まぁ、この借りはそのうち返してもらうさ」
「わかったよ」
アルフィスの軽口にアレンも苦笑しながら返す。恩を着せるつもりはまったくないくせにこのような偽悪的な表現をアルフィスは行う事があるのだ。まぁアレンも似たような事をするために、その辺り両者は似た者同士と言って良かった。
「それで、そいつを尋問してたんだろ?」
「ああ、どうやらこいつらを雇ったのはベルゼイン帝国の第一皇子のエルグドらしい」
「なるほどね。ベルゼイン帝国の皇族は本当に迷惑な連中だな」
「まぁな、父上にもちょっかいを出してるしな」
アルフィスの声に苦々しいものが含まれる。昨今のベルゼイン帝国の行動は目に余るとアルフィスは考えていたのだ。
「いっその事、こいつらと同じ事をしてやろうか……」
アレンがクルノスを睨みつけると殺気を放つ。放たれる殺気の強さにクルノスはガタガタと振るえ始める。
クルノスの震えは放たれた殺気によるものだけでなくアレン達がベルゼイン帝国に乗り込み暴れ回る事を考えた事による震えであった。もし言葉通りアレン達がベルゼイン帝国で暴れ回れば一体どれほどの被害が生じる事か考えただけで恐ろしかった。
「そうだな、こいつら魔族は人間を舐めてるからな。少しばかり思い知らせてやりたくなるな」
続くアルフィスの言葉にクルノスはさらに動揺する。
「それは私がやろう」
アレン達が声のした方向に目をやるとそこにはエルヴィン=ミルジオードが立っていた。




