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六剣⑧

「やるわよフィアーネ♪」

「まかせて♪」


 フィリシアの声にフィアーネは楽しそうに答える。借りを返すという思いが2人のテンションを上げていたのだ。


「もう一撃来るわね……」


 フィリシアはそう言うと魔術を展開する。展開した魔術は【死霊の叫び(クライオブレイス)】だ。この魔術は文字通り死霊レイスを死霊術で呼び出し敵に放つという術である。

 死霊レイス事態の攻撃力は非常に弱いためそれほど脅威を受けるものでは無い。そんな術をフィリシアが放ったのはザーヴェルの意識を一瞬でもフィリシアから逸らすためであった。


 放たれた死霊レイスは周囲に散り、六剣オラシオンの意識をアレン達から逸らした。これで意識を逸らさない者はほとんどいない。たとえアレンであっても意識を逸らしてしまうのは間違いないだろう。それが例え一瞬であってもだ。


 一瞬逸れた六剣オラシオンがアレン達に意識を戻したときにはアレン達全員がほぼ間合いに踏み込もうとしていた。


「ち……」


 ザーヴェルの口から舌打ちが漏れる。フィリシアの事を姑息な手を使う女とみなしたゆえの舌打ちである。フィリシアのとった手段は姑息なものではない。戦いにおいて相手の意識を逸らすために数々の手段を労するのは当然の事だ。これを姑息という言葉で表現するのは認識が甘いと言わざるを得ないだろう。


「はぁ!!」


 フィリシアがザーヴェルに間合いに入ると同時に斬撃を放つ。袈裟斬りを躱されたフィリシアは返す刀で斬り上げ、それを躱されるとそのまま回転し胴薙ぎの一閃を放った。


 ザーヴェルは後ろに跳び、フィリシアの間合いから逃れる。ザーヴェルにしてみれば反撃を行えないことは悔やまれる所であったが、フィリシアの三連撃は限りなく鋭利な斬撃でありザーヴェルデさえ反撃することは出来なかったのだ。


「おや? 反撃してくると思ったんですけどね」


 フィリシアの言葉にザーヴェルは訝しむ。フィリシアの言葉はザーヴェルの実力の底を見抜いたかのような響きがあった。


「なんだと?」


 ザーヴェルは自身の中に発した考えを振り払うかのように威圧的にフィリシアへと言葉を発する。フィリシアは皮肉気な笑みを浮かべると口を開く。


「いえ……さっきの私の三連撃なんですが、どうして反撃をなさらなかったのかなと思いまして」

「……」

「ああ、ひょっとして反撃しなかったのではなく……“できなかった”のですか?」


 ザーヴェルのフィリシアの言葉への返答は斬撃であった。怒りの形相を浮かべたザーヴェルは上段から剣を振り下ろした。凄まじい斬撃ではあったが、フィリシアはそれを余裕で躱す。

 いかに身体的に優れていようとも、それを制御するのは意識だ。ザーヴェルの精神状態が平素のものであればフィリシアも余裕で躱すという事は出来なかったのだが、フィリシアの挑発による怒りが剣先を鈍らせていたのだ。


「どうやら“できなかった”というのがその理由というわけですね」


 フィリシアの言葉にザーヴェルは不快感を刺激されたまま剣を振るう。鋒をフィリシアに向けた瞬間に放った突きも、上段から振り下ろした斬撃も、胴薙ぎの一閃も事ごとく空を切った。


 フィリシアはザーヴェルの剣閃を躱しながら体が流れた瞬間に反撃に転じる。その守から攻への急激な転換の効果は大きかった。ザーヴェルの顔が怒りから恐怖にひきつったものに一瞬で変わる。


 フィリシアの胴薙ぎをザーヴェルは躱し反撃に転じようとした時には、すでにフィリシアは次の斬撃を放っていた。それを躱すがまたしてもフィリシアは次の斬撃を放っている。


 休み無く放たれる斬撃にザーヴェルは徐々にだが、確実に躱す余裕が削られていく。


「く……」


 フィリシアの突きがザーヴェルの頬を掠める。ついにフィリシアの斬撃がザーヴェルを捉え始めたのだ。ザーヴェルの背中に冷たい汗が流れ始める。


(そろそろ……か)


 フィリシアは心の中で呟く。フィリシアはザーヴェルがそろそろ魔剣の力を最大限に使い始めると予想していたのだ。ザーヴェルの持つ魔剣テスラメントは雷撃の魔剣だ。フィリシアは魔力で全身を防御しているため即死することはないと思われるが無傷というわけにはいかないのは先程体験済みだった。


 フィリシアは上段から剣を振り下ろす。


 キィィィィィンン!!!


 フィリシアの斬撃をザーヴェルが魔剣テスラメントで受け止めると澄んだ音が発せられる。


(バカが!!)


 ザーヴェルはフィリシアの上段斬りを受け止めた瞬間に魔剣テスラメントの雷撃を発生させる。


 バチィィィイィッィィィィィィィィッィイ!!


 電撃が魔剣セティスを通じてフィリシアに注ぎ込まれる。


 はずだった……。


 フィリシアはザーヴェルの意図を察すると自らの魔剣を手放していたのだ。両手に魔力を集中し放電された電撃にもほぼ無傷で切り抜けたのだ。


 フィリシアの剣が地面に落ち視界から消えていく。ザーヴェルにとって剣が落ちる事は想定外の事であったが、それよりもフィリシアが魔力を込めた拳を振りかぶる事に意識が集中したのだ。


(ふん……順番が変わっただけだ)


 ザーヴェルは心の中でほくそ笑む。フィリシアの拳を躱し様にフィリシアの首を刎ね飛ばすつもりだったのだ。


 ザシュ……


 そこに剣が肉を貫く音がザーヴェルの耳に入る。その音が聞こえた次の瞬間に腹部に強烈な痛みが生じた。あまりにも予想害の出来事にザーヴェルの思考は止まる。だが、理解したことが一つだけあった。


 それは自分が敗れた事だ。


 視線を下に向けるとフィリシアの剣が自分を貫いているのが見える。そして、フィリシアが落とした剣の柄頭つかがしらを足のつま先で自分の腹部に押し込んでいるのが見える。


 フィリシアは落とした剣の柄を蹴り上げてザーヴェルの腹を刺し貫いたのだ。フィリシアは念のために拳を振りかぶる事で意識を拳に誘導し死角を作ったのだ。意識と視界から完全に離れた刺突をザーヴェルは躱す事は出来なかったのだ。


 フィリシアは自分の作戦が決まった事を確認するとそのままザーヴェルにとどめを差すことにする。両腕を交叉させてザーヴェルの顔面を掴むと容赦なく捻る。


 ギョギィィィィィィ!


 ザーヴェルの首があり得ない角度まで捻られるとザーヴェルは膝から崩れ落ちる。ザーヴァルが最後に見た光景は高速で廻る視界であり、それが止まったとき真後ろの光景が目に入っていたのだがすでに絶命していたのだろう。ザーヴェルは自分が何を見たかを確認することは出来なかった。


「あなた……中々強かったですよ」


 フィリシアはザーヴェルの死体を見下ろし静かに言った。



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