六剣②
六剣に運ぶ猟犬が襲いかかると同時にアレン、フィアーネ、フィリシアは一端後ろに下がるとアンデッド達を突撃させアレン達と入れ違いになった。
「こんなアンデッドごときで俺達を斃せるとでも思ってるのか!!」
六剣のメンバーであるロミュラが叫ぶと襲いかかる運ぶ猟犬を魔剣アベルゼスを抜くとあっさりと斬り捨てる。
ロミュラに続いて他のメンバー達も襲いかかる運ぶ猟犬を斬り捨てにかかる。圧倒的な実力差のために運ぶ猟犬達は瞬く間に斬り捨てられていった。
十を数えるまでもなく運ぶ猟犬達は六剣にすべて全滅させられた。だが、これで戦いが終わったわけではない。突撃させたアンデッド達が六剣に突撃し乱戦となったのだ。
普通に考えれば六剣の実力では襲いかかるアンデッド達に敗れる事はあり得ない。だが、アンデッドを斃すために何手かを使わざるを得ない。アレン達はそこを衝くつもりだった。
副団長のアイガスにアンデッドの1チームが襲いかかる。アイガスは魔剣ヴィンガルを抜くと襲い来るデスナイトをただの一振りで斬り捨てる。一振りでデスナイトを斬り伏せたアイガスは次にデスバーサーカーを斬り伏せた。
ただの一振りでデスナイト、デスバーサーカーを斬り捨てる技量はアレン達にとっても警戒させるに十分な技量である。アレンはフィリシアをチラリと見るとフィリシアは頷く。アレンの言わんとした事を察したのだ。
3体目のデスナイトを斬り捨てた時、アイガスの表情は一瞬の驚愕から余裕の嗤みに変わる。アレンが自分の元に向かってきている事がわかり、斬り捨てる事を選択したからだ。
アイガスの持つ魔剣ヴィンガルは風を操る魔剣だ。風を操る魔剣ヴィンガルは鎌鼬のように的を斬り裂くことも塊のようにしてぶつけることも、竜巻のように弾き飛ばすことも出来る。
アイガスがこの時、使用したのは鎌鼬のように風を鋭い刃とすることでアレンを斬り捨てるつもりだった。
ところがアイガスが剣を振りかぶった瞬間にとてつもない恐怖心が巻き起こる。あまりにも不自然な恐怖心にアイガスは困惑する。その困惑は一瞬と読んで差し支えないほど短い時間だった。
だが、アレンにとってはその一瞬で十分だったのだ。懐に飛び込むと同時にアレンの斬撃が腹部に放たれる。アイガスがアレンの斬撃を受け止めた瞬間にアレンは横に跳ぶ。
アレンが横に跳んだ速度は余程の実力者であっても見失うほどのものだ。アイガスの実力はその余程の実力者以上であったことが結果としてアレンの後ろから斬りかかっていたフィリシアから一瞬視線と意識が逸れる事になった。
もし、アレンの動きを追うことが出来ない実力であった場合には、そのままフィリシアと斬り結ぶことになったのだろうが、アイガスはアレンに意識を向けたためにフィリシアに対処するのが一瞬後れてしまったのだ。
フィリシアは顔面と胸に突きを放つ。フィリシアの突きは空気を斬り裂き、まるで雷光のようにアイガスに迫る。
「が……」
アイガスの口から苦痛の声が漏れる。顔面に放たれた突きを躱すことは何とか成功したが次の胸への突きを躱しきることが出来なかったのだ。だが、致命傷ではなかったフィリシアの胸への突きをアイガスは何とか身をよじったおかげで胸ではなく左肩を貫かれただけで済んだのだ。
もちろん、左肩を貫かれるという事は戦闘において、これ以降大幅に戦闘力が落ちることを意味する。もし治癒魔術を施したとしても治療が済むまでの間、無力化することを意味するのだ。
「アイガス!!」
オルグがアレンに斬りかかろうとするが死の聖騎士が斬りかかった事でそれは叶わなかった。オルグが死の聖騎士を斬り捨てる間にアレンとフィリシアはまたしても後退したのだ。
アレン達の後退とともにアンデッド達も一端六剣から距離をとった。ここまでは一応、アレン達の狙い通りだ。あとはこの一手を完成させるだけであった。
「さて、今更ながらお前達は何しにここまで来たんだ?」
アレンの言葉に六剣のメンバー達は呆気にとられる。アレンが何を言ったか咄嗟に判断できなかったのだ。六剣に先手を打って襲いかかったのはアレン達だ。もっと言えば自己紹介の途中で斬りかかり、話を打ち切ったのはアレン達なのだ。にもかかわらず、あまりの言いぐさに六剣達の怒りは爆発する。
「貴様、舐めるのもいい加減にしろよ!!」
ロミュラがアレンに猛々しい怒りをぶつけるのだが、アレンはまったく気にした様子もない。
(あいつは後だな……ああいう怒りを爆発させてくれる奴がいると動かしやすい)
アレンは心の中でロミュラを始末するタイミングは後にすることを決定する。ああいうタイプは自尊心が高いタイプであり、使い方によっては戦闘の流れを掴む事が出来るのだ。もちろん、そうは思うがあくまでアレンの考えであり一手を完成させる鍵を握る人物が違うと判断すればそこまでだ。
「まて、ロミュラ!! 熱くなるな。こいつらはそこにつけ込んでくるぞ」
アイガスの制止にロミュラも表面上、冷静さを取り戻したように見える。その様子をアレン達は冷静に見ていた。
「まぁ、多少の行き違いがあったようだな。それでお前達は誰の命令で俺達を殺しに来た?正直な話、俺達は何度も魔族の襲撃を受けて魔族は基本的に敵として対処する事にしている。そろそろ面倒になってきたので雇い主の元にお邪魔しようかなと思っているぐらいだ。そこでだ、お前達が俺達の下につくのなら命を助けてやるのもいいぞ? 命乞いしてみろ」
アレンの口調も表情も明らかに挑発であることが六剣には解っている。だが、挑発だとわかっていても人間如きに侮られるというのは魔族の中でも強者の立場である六剣にとって中々、耐えるのは困難だった。
「ふざけるな!!人間如きが!!」
「俺達六剣を舐めるな!!」
「ぶっつぶしてやる!!」
「細切れにしてやる!!」
ロミュラ、ザーヴェル、ナフタ、リグマが激高して叫ぶ。オルグは沈黙し、アイガスは団員達を制止しようと視線を激高する4人に向ける。
(なぜ、こいつはここまであからさまな挑発を“今”行う? 何の目的だ?)
オルグはここまでのアレン達の戦いを振り返り、挑発の意味を考えていた。アレン達の戦い方はまったく無駄なくこちらの隙を衝いてきている事をオルグは察している。そう考えるとこの挑発も意味があるように思えて仕方がないのだ。
このオルグの洞察はまったく持って正しい。アレンは意図を持って挑発を行っているのだ。その意図とは何かという点に意識を集中する。
「熱くなるなと言っているだろう!! 安い挑発だ!! こんなものにのってどうする!!」
アイガスがまたも団員達を制止する。その様子をちらりとオルグは見る。アレン達との距離から十分に対処可能と思っての行動である。
(こいつは一体何をねら……ん?)
アイガスから視線を戻しアレン達を見た瞬間、1人いないことに気付く。
「俺達、オラシ……が……」
なおも制止しようとするアイガスの声が中断される。オルグは嫌な予感に突き動かされアイガスに視線を移すとアイガスの喉と胸から双剣が突き出ている事に気付く。アイガスの後ろからレミアが双剣で刺し貫いていたのだ。
「アイガス!!」
オルグが叫ぶのを確認してレミアは喉と胸を貫いている双剣を容赦なく横に薙ぐと鮮血が舞い散り、アイガスは地面に崩れ落ちた。
「さて、これで一体目ね」
レミアの冷たい声が墓地に響いた。
一手の完成……それは、六体のうち一体を始末する事だったのだ。




