六剣①
国営墓地をアレン達はいつものように見回りを行っている。今夜の見回りのメンバーはアレン、フィアーネ、レミア、フィリシア、カタリナの5人だ。人数はたったの5人であるが、その一人あたりの戦闘力はずば抜けており、このローエンシア王国において最も強大な戦闘集団と称しても異論はでないだろう。
「今日は瘴気が濃いな」
「そうね。最近思うのだけど、瘴気が濃い日って外から面倒事が舞い込む事が多いように思うのよね」
アレンの言葉にフィアーネが答えると途端にレミアが賛同する。
「そうそう、瘴気が呼ぶのかしら、それとも侵入者が瘴気を撒き散らしているのかしら?」
「私は侵入者が撒き散らしてると思ってます」
「フィリシアの意見に賛成ね。今まで襲ってきた侵入者ってほとんどがアレンを狙ってきた連中じゃない」
「いえ、そうとばかりは言えないわよ」
「そう?」
「うん、魔神の活動が瘴気を多く撒き散らした事により、侵入者をその夜に引き寄せてるのかも知れないわ」
「なるほど」
ワイワイと話ながら墓地を歩く。一見油断しすぎのようにも思えるが、全員が突然の攻撃にも対処できるように要所要所に気を配っているために、むしろ余裕の現れと考えて良いかもしれない。
その間にアンデッドが何体か襲ってきたのだが、アレン達は瞬く間に斃してしまう。ちなみに現れたアンデッド達の中には『デスナイト』や『リッチ』と呼ばれる軍の出動が要求されるようなものも含まれていた。一般的な冒険者ならデスナイトやリッチを斃したなどと言えば一生の誉れというべきものであるが、アレン達にとっては特筆すべき事でない当たり前の日常だった。
「強気だな……」
見回りを続けていたアレンが言うと、全員が頷いた。何者かが国営墓地に侵入した事をアレン達は察知したのだ。数は六体、全員が魔族であることを全員が探知していた。
「そうね、まったく隠すつもりはないようね」
フィアーネの言葉にまたも全員が頷く。
「どうやら、俺達全員を相手にして勝利を収める絶対の自信があるらしい。みんな、油断するなよ。どうやら大物が今夜の相手らしい」
アレンがいうと全員が頷き、すかさず迎撃態勢をとる。
侵入者達はアレン達から大体400メートルぐらい離れた地点に結界をやぶり転移魔術で侵入してきたのだ。アレン達の方に迷わず向かっている所を見ると相手の方もアレン達の位置を把握していることは間違いなかった。
アレン達のとった迎撃態勢とは、アンデッドを召喚する事である。まずはフィアーネが魔法陣を展開しアンデッドを召喚した。
召喚されたアンデッドは、死の聖騎士6体、デスバーサーカー18体、デスナイト18体である。召喚されたアンデッド達はフィアーネの命令に従い、それぞれ死の聖騎士、デスバーサーカー3体、デスナイト3体で1チームを6つ作る。フィアーネは魔族一体にそのチームを一つずつぶつけるつもりだったのだ。
アンデッドのチームを編成すると今度は瘴気を集め、神の戦士を作成する。アレンそっくりの容姿の神の戦士を初めてアレンは見たときに若干引いたのだが、他の婚約者達の反応は好意的なものだったのでアレンは何も言わなかった。
次いでレミアが運ぶ猟犬を作成する。数は二十体ほどだ。運ぶ猟犬達はレミアの背後に控える。
アレンも闇姫を6体作成する。作成された闇姫達はアレン達の周囲を固めた。
カタリナは箒で地面をつくと魔法陣を展開し防御結界をアレン達の周囲に張り巡らす。相手がいきなり遠距離からの攻撃を仕掛けた場合の対処のためだ。それから傀儡を六体取り出す。すでに魔石をセットしているらしく全部がすでに完全武装をしていた。
「さて……とりあえずはこんな感じか」
アレンが言うとフィリシアが答える。
「はい、とりあえずはこれで十分だと思います。たとえ魔族であってもこの陣営を破るのは容易じゃないと思いますよ」
フィリシアの言葉に全員が頷く。フィリシアの言葉通り今回アレン達が用意した戦力は凄まじいの一言だ。
「だな……さて、あの仕掛けを使う事になるかな?」
アレンがそう言うと全員が考え込む。
「う~ん……何とも言えないわね。相手が六体だけど、本当に六体とは限らないしね」
「そうだな、まぁどんな相手でも俺達がやることは変わりないがな」
アレンの言葉に全員が頷く。
「来たわ……」
レミアの言葉に全員の視線が向かってくる六体の人影をとらえる。横一列に並んでこちらに向かってくる影にアレン達は目を逸らさない。いや、正確に言えば目を逸らすような事はしないが、周囲の警戒も怠らない。相手が六体だけで来ていると考えるのは早計だからだ。
こちらに向かってくる六体の事を当然ながらアレン達は誰1人として知らない。だが、魔族の国家であるベルゼイン帝国において彼らは非常に有名な集団だった。彼らは『六剣』という傭兵団である。
それぞれが魔剣を持ち、絶大な力を振るいベルゼイン帝国で確固たる地位を築いた猛者達だった。
「始めるぞ……」
アレンが小さく呟くと全員がそっと頷く。すでに戦闘態勢は整えている。アレン達の戦術は基本的に先手を打つことだ。相手がまだ戦闘の心構えが出来ていない時が攻撃開始については最も成功率が高い。
六剣の真ん中に立つ者が口を開く。団長のオルグがアレン達にまずは威嚇しようと声をかけたのだ。
「ローエンシアの墓守、アレンティ……な」
口を開いた瞬間にアレンとフィアーネ、フィリシアが駆け出す。アレン、フィリシア、フィアーネが襲いかかった事に六体の魔族は呆気にとられる。まさかいきなり戦闘開始とは思っていなかったのだ。
まず突撃したアレン達3人はそれぞれ一瞬で間合いに飛び込むとそれぞれの相手に襲いかかった。
アレンはオルグの足下をまずは斬りつける。オルグはその斬撃の鋭さに内心舌を巻いたのだが、魔剣ギルメデスを抜くとアレンの斬撃を受け止める事に成功する。
(ほぉ……中々やるな……)
アレンは初手を失敗したがそれほど落胆していないのは、この攻撃がカムフラージュに過ぎないからだ。そのため、あわよくばという感じで放ったために落胆する必要はなかったのだ。
フィアーネはダークエルフのザーヴェルへと攻撃を開始する。間合いに飛び込んだフィアーネがまず放ったのは力を極限まで抜き、しならせた打撃を目に放つ、いわゆる目打ちだった。
ザーヴェルはフィアーネの目打ちを身をよじって躱すと反撃のために剣を抜こうとする。だが、フィアーネはザーヴェルの剣を抜こうとする手を押さえ剣を抜けさせない。
「く……」
ザーヴェルの口から先手を取られた事を悔しがる声が発せられる。
「ザーヴェル!!」
隣に立っていたナフタが叫び剣を抜いた瞬間、フィアーネが突然後ろ回し蹴りをナフタに放つ。自分に攻撃が来るとはまったく想定していなかったナフタはフィアーネの蹴りをまともに受けてしまう。無様に地面に転がるという醜態はかろうじて避けられたがナフタは蹈鞴を踏んでしまう。
フィアーネはそのままナフタの懐に飛び込むと双掌打をナフタの腹に叩き込む。
「がぁ!!」
凄まじい衝撃にナフタは今度は吹き飛び隣にいたリグマを巻き込み転倒する。
「このアマァァァ!!」
ザーヴェルがフィアーネを背後から斬りつけようとしたときに突然凄まじい恐怖心がザーヴェルは感じる。
(な、なんだ?)
ザーヴェルは突如湧き起こった恐怖心に戸惑う。確かに今回の相手は強いがここまで恐怖を覚えるのは不自然だったからだ。このザーヴェルに湧き起こった恐怖心はフィリシアの魔剣セティスの力によるものであったが、この段階ではその事に気付いていない。
(フィリシア……ナイス♪)
フィアーネがニンマリと笑いザーヴェルに前蹴りを放った。凄まじい威力の前蹴りをまともに受けたザーヴェルは2メートルほどの距離を飛び着地する。
(これぐらいで良いか……)
アレンは初手の第一段階は成功と判断すると六剣から間合いをとる。フィアーネ、フィリシアもそれに続いた。
「よくもやってくれたな」
憤怒の表情を浮かべてナフタが立ち上がる。足下がおぼつかない所を見るとフィアーネの攻撃はかなりのダメージを与えていたことが察せられる。
「斬り刻んでやる!!」
ザーヴェルも体をふらつかせながら立ち上がる。その表情には明白な怒りがあった。仲間の前で醜態をさらす事になった事への怒りも加算されフィアーネを睨みつける。
ナフタとザーヴェルが襲いかかろうとしたときにレミアが運ぶ猟犬に攻撃を命ずる。二十体の運ぶ猟犬は一斉に走り出し六剣に向かっていく。
初手の第二段階が始まったのだ。
一二三書房様のレーベル『サーガフォレスト』様から書籍化していただきました。
イラストは『Genyaky』様になります。アレンとフィアーネが表紙を飾ってます。




