雪姫Ⅱ④
カタリナの土の柱に貫かれたリオキルはそのまま動かなくなるが、カタリナは難しい顔をしていることにフィアーネは気付く。
「どうしたのカタリナ?」
「フィアーネの時と一緒よ。こいつは本物じゃ無いわ」
「あ、やっぱり……」
カタリナの偽物発言にフィアーネも頷く。ここまでくればリオキルが生み出す分身の覆面の下の顔がわかるというものだ。ようはリオキルの生み出す分身の顔はリオキルのものなのだ。フィアーネとカタリナが今斃したリオネルは単に覆面を外しし服装をリオキルのものにしただけだったのだ。
「さて……本当に大した事の無い能力ね」
「そうね、単純に分身を増やすだけの能力か、単純に数だけ揃えるつもりならフィアーネの家の牧場から召喚すれば十分よね」
「実際にこの分身って本当に大した強さじゃ無いしね」
フィアーネが襲い来る分身達を蹴散らしながら言うと、カタリナも苦笑しながら返答する。
「もう、良いかな?」
カタリナの言葉にフィアーネは頷くとカタリナに返答する。カタリナの“もう良いかな”は本気を出しても良いかと言う事だった。フィアーネもカタリナも有用であれば自分達の戦力として取り込む事を考えていたのだ。
先制攻撃などで相手を早い段階で無力化することで最小限度の労力で戦力強化をしようと考えていたのだ。しかしリオキルは2人のメガネにかなわなかったのだ。そのために手加減無しで攻撃することにしたのだ。
「そうね、カタリナ遠慮はいらないわ。私も本気でやるから」
「わかったわ」
フィアーネの言葉にカタリナは妙に弾んだ声で返答すると箒で地面を突く。
「地霊巨人召喚!!」
カタリナに巨大な土で出来た身長5メートル程の巨人が現れると地面から直径1メートル程の岩を取り出す。この岩は魔力によって形成されたものであり、凄まじい硬度があるのは間違いない。
地霊巨人はその岩を振りかぶると分身達に投げつける。すでにこの段階で傀儡4体と神の戦士は分身達の波状攻撃によって消滅させられていたので何の遠慮もする必要はなかった。
凄まじい速度で放たれた岩は分身達をまとめて押しつぶした。その勢いは凄まじく、分身達を巻き込みながら城の壁に直撃し城の壁ごとまとめて破壊していく。岩の一つが物見のための塔に直撃すると塔はガラガラと崩れ去り、城の景観が分単位で変わっていった。
地霊巨人が攻撃を開始してすぐに、フィアーネも分身達に襲いかかり分身達を手当たり次第葬っていった。
フィアーネの手刀が分身の首を刎ねるとフィアーネはその首を鷲づかみすると容赦なくリオキル本体と思われる相手に投げつける。凄まじい速度で狙った相手に直撃するとどちらの頭部とも砕け散る。
「ハズレね……さ、次々」
フィアーネは本体を斃せなかったからといって落胆する様子は見せず別の襲い来る分身の頭部をねじ切ると再び本体と思われる相手に投げつける。すでにこの時、リオキルは2人から隠れるように分身を生み出していたのだ。
再び狙った相手の顔面に当たり両方の頭部がまたも砕け散った。フィアーネは再び襲う分身の首を取るとこれはという相手に投げつけていく。だが、フィアーネもカタリナも闇雲に分身達を斃しているだけで無くリオキルの本体を探しながら分身を斃していたのだ。
「ん? あっちか……」
フィアーネが怪しい動きをする一体に気付く。リオキルはカムフラージュのために分身の何体かの顔をさらし服装も同じにして、フィアーネ達に向かうような事はしなかったのだが、一体だけ死角に死角に移動する者がいたのだ。
フィアーネはその一体に狙いをしぼり駆けだした。フィアーネの意図を察したのだろう周囲の分身達がその一体を守るように立ちふさがる。フィアーネはそのまま蹴散らしながら目的の相手に襲いかかる。
フィアーネの拳が放たれ目的のリオキルが腕でガードするがとても受け止める事は出来ない。ガートした腕が砕けリオキルが吹き飛んだ。フィアーネはそのまま袖に仕込んでいた鎖を取り出すとリオキルに投擲する。放たれた鎖はリオキルに巻き付くとそのままフィアーネは引っ張り自分の元に引き寄せる。
そこにフィアーネの拳が再び放たれ顔面を打ち砕いた。そこでフィアーネは違和感に気付く。
(どういうこと? こいつも違った? いえ……腕を砕いた時“まで”は本物だった……)
フィアーネは周囲を確認すると別の箇所で再び分身を生み出しているリオキルを見つける。分身の一体の首をねじ切り頭部を再びリオキルに投げつける。分身がその軌道上に入り投げられた頭部が直撃し動かなくなるが、リオキル本体を仕留めることはできなかった。
「ちっ……」
フィアーネの口から舌打ちが漏れる。公爵令嬢としてはあり得ない仕草であるが今の状況から考えれば仕方の無い事なのかも知れない。
(さっき腕を砕いた時は間違いなく本体だった……そして、鎖を巻き付けこちらに引き寄せるまでの僅かな間には分身になっていた)
フィアーネは襲いかかる分身を斃しながら先程の状況を整理している。ちらりとカタリナを見るとカタリナも考え込む表情を浮かべている。まぁ考え事をしているのだが、次々と術を繰り出し分身達を蹴散らしながらであったのだが。
フィアーネは分身を蹴散らしながらカタリナの元へ向かう。カタリナもそれを察したのだろう。フィアーネの方に駆け出すとほぼ中間地点で合流する。
「カタリナ、思ったよりも厄介な能力ね」
「確かに過小評価してたわ。ただ分身を作るだけかと思ってたけどそれだけじゃないわね」
「ええ、恐らく本体と分身は自由に位置を取り替える事が出来るのよ」
「なるほど……フィアーネが鎖で巻き付けて引っ張るまでの間に入れ替わったというわけね」
「おそらくそんな感じよ」
「じゃあ、その対応は?」
「カタリナなら私がどんな手段をとるかわかってるでしょう?」
「うん♪ 力業よね?」
「その通り♪」
フィアーネはそう言うと巨大な魔法陣を展開させる。その魔法陣はあっという間に中には全体に広まる。
(な、なんだこの巨大な魔法陣は? あ、ありえない)
リオキルは突如展開された魔法陣に内心戸惑う。あまりにも常識外の規模だったからだ。
魔法陣の放つ光が一瞬強まると魔法陣からアンデッドの大群が現れる。スケルトン、グール、デスナイト、デスバーサーカー、死の聖騎士などがそれこそ千体ほど現れ中庭に溢れたのだ。
「ば、ばかな……一度に千体ものアンデッドを召喚だと!?」
リオキルの言葉は彼自身の驚愕を示していた。リオキルの動揺が収まる前に召喚されたアンデッド達はリオキル達に攻撃を開始する。それこそ手当たり次第にだ。リオキルは分身を次々と生み出しアンデッド達に向かわせるが、次々とアンデッド達に分身は狩られていき数を徐々に減らしていく。リオキルが分身を生み出す速度よりもアンデッド達が分身を狩る速度の方が早いため数が減っていったのだ。
「分身と入れ替わるなら、入れ替わる分身をまず全滅させちゃえばいいのよ」
フィアーネは満面の笑みを浮かべると腰に手を当てて宣言した。
それは俗に言う『脳筋』がとる方法であった。




