表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
436/602

墓守Ⅱ⑧

 アレンはイベルを一瞥する。わざわざ自分から間合いに飛び込んできてくれたのだからこの絶好の機会を逃すつもりはない。


「イベル、戦況が読めないような奴は生き残れないぞ」


 アレンの言葉にイベルはひくりと頬を動かす。口を開こうとした瞬間に怪物と化したジルクとペールがアレンに襲いかかる。


「イベル様、お下がりください!! この人間は危険です!!」


 ルベルシアが苦しげに呻きながらイベルに注意を促す。イベルは憎々しげに頷くとアレンから間合いを取ろうと後ろに跳んだ。アレンはもちろん追撃しようとしたのだがそこに怪物が間に入り込んだことで一端、追撃を中止して怪物から始末することにする。


 アレンは襲いかかる怪物の腕をスルリと躱すとすり抜け様に怪物の脇腹を斬り裂く。アレンはそのままの勢いで回転し怪物の延髄を斬り裂いた。血を撒き散らしながら怪物は崩れ落ちる。


 アレンは最後の怪物の懐に飛び込むと瘴気で形成した剣を怪物の胸に突き刺す。突き刺された剣は背中から突き出て血がしたたり落ちている。明らかに致命傷であった。アレンは剣を突き刺したまま怪物の体をイベルに向かって押すと怪物の体はよろけながらイベルの元に近づいていく。


「イベル様!! その剣は危険です離れてください!!」


 ルベルシアが声を上げる。その視線はイベルに注がれており完全にアレンから外れている。いや、視線だけでなく意識もイベルに向けられていたのだ。


(最後までマヌケだな……)


 アレンは意識が自分から外れた事を察した瞬間にルベルシアの懐に突っ込むとルベルシアの胸を刺し貫いた。


「ぎゃあああああああああああああ!!!!」


 凄まじい絶叫がルベルシアの口から放たれる。アレンの剣はルベルシアの心臓を貫いていたのだ。


「ルベルシア!!!」


 絶叫の意味を悟ったイベルの口から部下の名が叫ばれるがルベルシアはそれに堪えることは出来ない。アレンが心臓から剣を引き抜くと血を撒き散らしながらルベルシアはゆっくりと崩れ落ちる。アレンは剣をルベルシアの首に振り下ろすとルベルシアの首がゴトリと落ちる。


「貴様ぁ!!」


 イベルが叫んだ瞬間にアレンは跳躍するとイベルに斬撃を放つ。イベルは瞬間的に転移魔術を発動し躱した。転移先は先程同様に正面の階段の最上段だ。


 アレンはこの段階で追撃は意味が無いと思い、この場でイベルを斃す事は不可能であることを悟る。このまま戦おうとしてもイベルは転移魔術を展開してこの場から逃げることは確実だったからだ。


(ち……まぁ、今回はルベルシアを始末できただけで良しとしようか……)


 アレンはイベルの腹心を削った事で最低限の戦果は上げたとしてイベルを見やる。その目には部下を殺された怒りがある。


 アレンは剣を一振りして血を払い落とすと鞘に収める。その様子を見てイベルは訝しむが口には出さない。


「さて、お前の認識の甘さのせいでルベルシアは死んだんだが、結局お前達は俺に何のために絡んできたんだ?」


 アレンは自分がしたことを遠くの棚に上げてイベルに声をかける。


「……」


 答えないイベルに対してアレンはさらに言葉をかける。


「答えないか、なら質問を変えよう。お前と魔神の関係は? 敵か味方かどっちだ?」


 アレンの質問にイベルはギリッと奥歯を噛みしめるような表情を浮かべた。アレンにしてみればイベルがどのような対応を取っても大した問題では無いのだ。すでに魔神と邪神に関係があることは解っているだけでも十分だったのだ。


「アインベルク……この借りは必ず返すぞ」


 苦虫を百匹以上噛み殺した表情を浮かべるとイベルの姿がふっと消える。どうやら転移魔術を展開したらしい。アレンは周囲に気を配るが一切の気配を感じる事ができない事からどうやらこの場から去ったらしい。


「さて……後片付けして帰るか」


 アレンは先程までの激闘をまったく感じさせないいつも通りの口調で言うと血染めの盗賊(ブラッディシーフ)を10体作成するとこの場を保全することを命じるとアレンは屋敷を後にするのであった。



 * * *


「へぇ~そんな事があったんだ」


 フィアーネがキャサリンの焼いたスコーンを口に運びながらアレンの話に返答する。ここはアインベルク邸のサロンだ。

 あの後、王城に戻り屋敷で会ったことを報告すると軍と魔導院の術士がルベルシアの死体と怪物となった闇の魔人衆(イベルノワグ)の死体に厳重な封印を施すと研究所に運び込むのに付き合っていたのだ。

 すべての作業が終わってからアレンは先程アインベルク邸に戻ってきたというわけだった。


 ちなみに死体にはエルヴィンも興味を示していたのでエルヴィンに引き継ぎを行ったので大事になる可能性は低いことだろう。


「まさか、邪神イベルがご降臨なんてね」

「そうね。アレンさんだったから撃破出来たけど普通は出来ないわよね」


 レミアとフィリシアも紅茶を飲みながら話す。和気あいあいとした雰囲気だが離している内容はかなり血なまぐさいものだ。だが、そんな事を気にしているようではアインベルクの関係者は務まらない。


「それにしても……」


 カタリナが不満そうな声をアレンに向けて放つ。


「どうした?」


 アレンの返答にカタリナは不満げに言葉を発する。


「なんで、そのルベルシアだっけ?そいつの死体を国にあっさりと引き渡しちゃうのよ。ひょっとしたらその刻印を解析すれば面白い術が作れたかも知れないのに!!」


 カタリナの抗議に全員が顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。


「まぁいいじゃない。どうせすぐにイベルは私達の前に姿を見せるんだから」

「そうね。間違いなくアレンを狙ってくるわね」

「良い度胸ね。アレンさんを狙っている以上、イベルは私達も敵に回している事を思い知らせてやるわ」


 婚約者達は完全にイベルを敵として認識している。この場にはいないがアディラもこの話を聞けば完全にイベルと敵対する事を選ぶ事が想像できる。


(何か……イベルが可哀想になってきたな……)


 アレンは心の中で婚約者達に敵と認定され、カタリナに実験対象として認定されたイベルに同情していた。


(まぁ……厳しい戦いになるだろうが……負ける気が全くしないな)


 アレンは頼もしい婚約者達と仲間の顔を見ながらそう思うと紅茶を楽しむのだった。

 今回で『墓守Ⅱ』編は終了です。何かイベルが本来の力を出せないといっても小者ぽくなってしまいましたね(笑)

 次の登場時には邪神という名前に恥じないような器のでかいところをお見せできればと思っています。もし、表現できなかったら主人公が巨大すぎると思っていただく事で納得してください(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ