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墓守Ⅱ⑦

「やれ……」


 ルベルシアの命令を受けた元ゼントだった異形の怪物がアレンに襲いかかる。ゼントの時よりもその動きから身体能力()上がっているのは確実だった。だが、技量的には見るべきものはない。むしろ人間の時よりも技量とは下がっていると言って良かった。


 ルベルシアは元ゼントをアレンに嗾け自分は転がっているコルシスへと移動する。


(これが……土壇場で使う神の手札? いや、流石に神なんだからこんなしょぼい手が切り札じゃ無いよな。となればこれは次の手を打つために必要な手順……なら)


 アレンはルベルシアの狙いを警戒すると異形の怪物から距離をとる。そしてアレンは立ちすくむゴルヴァンの方に向かった。アレンは障害物が発生した場合の怪物の対処を見るためにゴルヴァンの方に向かったのだ。もちろん障害物とはゴルヴァンの事だ。


「ゼント……」


 アレンがゴルヴァンの横をすり抜ける際に呆然とした声でポツリと呟く。仲間が異形の怪物にさせられた事がショックだったのだろう。哀愁を誘う声だったが、アレンには今までやってきた事を考えればまったく同情する気にはならない。


 ゴガァ!!


 怪物がゴルヴァンにぶつかり吹き飛ばした音が響く。その様子を下がりながらアレンは観察する。


(あくまでも対象は俺であり、障害物には構わないタイプか……)


 ちらりとルベルシアを見るとゼント同様にコルシスに刻印を打ち、異形の怪物に変えているのが目に入った。


(これで2体……まぁ大した事はないが、このままやりたいようにやらせるのは癪だな)


 アレンはそう考えると行動に移る。その行動とはイベルを狙うふり(・・)をすることだ。ルベルシアにとってイベルは大切な主君、その主君をアレンが狙えばたとえ罠の可能性を考えても動かざるを得ない。


 アレンは方向を転換しイベルの元へ向かう。イベルは現在闇姫やみひめ達と交戦中だ。見たところ有利に戦いを進めているようであり、遠からず勝利を収めるのは間違いないだろう。


(それなりの力だが今のイベルなら瞬殺できるな……)


 アレンは走りながらイベルの戦力を分析していく。怪物達はアレンを追うがアレンの方が速いため追いつけない。


「がぁぁっぁっぁぁっぁっぁぁぁ!!」


 背後からゴルヴァンの苦痛に満ちた声が聞こえるがアレンは構わず向かう。ルベルシアがゴルヴァンを怪物に変貌させたのだろう。


「行かせるか!!!!」


 ルベルシアがようやく意図を察したようで制止の言葉をかけるがアレンは構わず進む。

ゾワリとした殺気が首筋に感じられた時にアレンはニヤリと嗤う。


(本当に俺の思い通りに踊ってくれるなこのアホは……)


 アレンはそう思った瞬間に回転し背後のルベルシアに斬撃を放つ。アレンはルベルシアが自分に追いつくことを想定しており、いやより正確には追いつかせて背後から攻撃させそこを叩くつもりだったのだ。主君の危機に冷静な攻撃をすることはルベルシアには出来ない事を察していたのだ。

 そのような冷静さを欠いた攻撃などアレンにとって見えなくても躱す事は雑作もないことだった。


 アレンの思わぬ斬撃にルベルシアは身をよじって何とか躱す。ルベルシアから見て踏み込む斬撃ではなく、遠ざかるような斬撃であったため少し身をよじっただけで躱すことに成功したのだ。だが、ルベルシアに与えた影響は大きかった。

 ルベルシアは自分がアレンに踊らされていた事をこの段階で悟ったのだ。アレンがイベルを狙えば必ずそれを阻止するためにルベルシアは動くと読み、そこを狙ったのだ。

 何よりも屈辱だったのはアレンが隙を作っても命を失わないと判断したことだ。油断では無く傲然たる事実としてそれだけの差があるとアレンが思っている事が何よりもルベルシアにとって屈辱だった。


「イベルはお前を斬った後で十分だ」


 アレンはそう言うとルベルシアの腹部を斬りつける。今までよりも鋭い斬撃でありルベルシアは躱しきれなかった。ルベルシアの腹部から鮮血が舞うが致命傷までには至らない。ルベルシアの動きは明らかに鈍り始めている。闇姫やみひめの自爆、右足首の損傷、アレンの蹴りを胸に受けた事による胸骨骨折、アレンとの戦闘による精神力の消耗と条件は加速度的に悪くなっているのだ。

 

 そこに異形と化した闇の魔人衆(イベルノワグ)がアレンにようやく追いつくとそのまま襲いかかった。

 アレンはまったく慌てることなく怪物達を相手取る。凄まじい速度で放たれる怪物達の連撃であったがアレンはまったく危なげなく躱していく。怪物達の攻撃は速度は速く、十分な威力が窺えるのだが、攻撃の動作があからさますぎて躱すのは容易すぎた。


 アレンはルベルシアを休ませるつもりはない。ペールとジルクを囲んでいた血染めの盗賊(ブラッディシーフ)をルベルシアに嗾けたのだ。思念による命令を受けた血染めの盗賊(ブラッディシーフ)達は一斉にルベルシアに襲いかかった。


 ルベルシアは襲いかかる血染めの盗賊(ブラッディシーフ)達をものともせず次々と斬り伏せていく。弱っているといってもルベルシアは神に名を連ねる者だ。血染めの盗賊(ブラッディシーフ)達では相手にもならない。


(よし……)


 アレンは第一段階は終了と言う事で、次の手順に移る。その手順とは自分を襲う怪物達を始末することだ。アレンはすれ違い様に一体の怪物の首を刎ねる。首が宙を飛び鮮血が噴水のように舞い、首を落とされた怪物は崩れ落ちる。

 アレンはそのまま隣の怪物の喉に突きを放つ。喉を刺し貫き声にならない声を上げた怪物はまたしても膝から崩れ落ちる。一応念のためにアレンは崩れ落ちた怪物の延髄を斬り裂きトドメを刺した。

 瞬く間に2体の怪物を斬り伏せたアレンを見てルベルシアはペールとジルクに視線を移す。ペールとジルクはその視線の意味を察したのだろう顔を引きつらせるが恐怖のために動けなかった。

 ルベルシアは刻印を打つためにペールとジルクの元へ動く。その間にアレンは最後の怪物を始末する。喉を斬り裂き瘴気弾を怪物の胸に叩き込む力を失った怪物は数メートルを飛び地面を転がる。


「ひ……ぎゃああああああああああああ!!!」

「や、やめ……がぁぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁっぁぁぁ!!!」


 ペールとジルクの額にルベルシアの手が添えられ刻印が2人を浸食していく。両手が塞がり刻印を注入する今はアレンに取って絶好の機会だった。アレンは容赦なくルベルシアの背中を斬り裂いた。背中を斬り裂かれたルベルシアはよろけるが何とか踏みとどまりアレンを睨みつける。

 アレンはペールとジルクを囮に使い、ルベルシアの隙を生み出したのだ。すでにまともに戦えば敗北は必至である状況でルベルシアが取るべき道は怪物を生み出して時間を稼ぐぐらいしかない。アレンは血染めの盗賊(ブラッディシーフ)に襲わせることでペールとジルクの元に行きやすい状況を作ったのだ。次に怪物を斬り伏せればそれがルベルシアの背中を押す行為である事は間違いなかった。


「ふ、防げ!!」


 ルベルシアの声には明白な恐怖がある。神である自分が人間如きに恐怖しているという事は確かに屈辱であったろうがそれを上回る恐怖がルベルシアを襲っていたのだ。


 アレンはその姿を見て皮肉気に嗤う。神だなんだと威張った所で死への恐怖は人間と変わらない。神が偉いと思い人間を見下すのは勝手だが、それはアホな貴族が平民を見下すのと何も変わらない。アレンにとってひたすら醜い行為にしか思えない。そのような神を崇拝するつもりは一切ないのだ。

 崇拝されたければそれに相応しい存在であるように自身を厳しく律する必要がある。このルベルシアにはそれがない。だから土壇場でこのような醜態をさらすのだ。


 アレンが一歩進み出るとルベルシアは二歩下がるいう始末だった。するとイベルが闇姫やみひめを消滅させた瞬間に消えたのがアレンの視界に入る。その瞬間にアレンは横に跳んだ。アレンが横に跳んだ瞬間に先程までアレンのいた場所に魔力による衝撃波が襲った。


「ち……」


 背後から衝撃波を放ったのはイベルだった。転移魔術でアレンの背後に転移したと同時に攻撃したのだ。


「マヌケがまた1人……」


 アレンはイベルを一瞥すると冷たく言い放った。



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