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墓守Ⅱ⑤

(あれが黒幕か……)


 アレンは現れた2人の男を観察する。


 前面に立つ男は背後の男を守るように立っている事から、どうやら背後の男が前面の男の主人らしい事をアレンは察する。


 前面に立つ男は闇の魔人衆(イベルノワグ)にアレンの抹殺を依頼した男である。端正な顔立ちも今は醜く歪んでいる。アレンはこの表情に見覚えがあった。魔族などが人間という種族を見下すときの表情にそっくりだったのだ。

 だが、アレンはこの男を魔族とはみなしていない。魔族とは違う生物である事を察していたのだ。別の生物が人間の姿を擬態しているという印象をこの男からアレンは受け取っていたのだ。


 そして、アレンは背後の男にも目をやる。背後の男も端正な容姿をしている。黒髪、黒眼に身長はアレンと同程度だ。均整のとれた体つきに黒を基調とした服装だ。こちらの男にもアレンは前面の男同様に別の生物が人間に擬態しているような印象を受けていた。


「さて、アレンティス=アインベルク君……我が主が君に尋ねたいことがあるとの事だ。心して聞くが良い」


 前面の男の言葉は傲岸不遜を言語化したようにアレンは感じる。正直言って不快なのだが男達の正体を知る取っ掛かりになるかも知れないと思って話を聞くことにする。アレンが何も発言しないのを了承と受け取ったのだろう主人と思われる男が進み出る。


「初めましてアインベルク卿、私の名はヴェラン=イビンだ」


 ヴェランと名乗った男をアレンは黙って見る。表情は少しも動かしておらず一切の情報をそこから見いだすことは出来ない。


(本名かどうか判断つかないな……。まぁ人間でないのは確実か……そしてこの気配……似ているな)


 アレンはこの段階でヴェランが人間でない事に気付いている。そして魔族や悪魔とも違う気配を感じていたのだ。


「私が君に聞きたいのはただ一つだ。あいつの死体はどこにある?」


 ヴェランの言葉にアレンは考える。ヴェランの言う“あいつ”についてアレンはすでに心当たりがあった。もちろん、国営墓地にある魔神の死体の事である。当然だが、ここで正直に答えるのは悪手であると言える。だが、アレンはここであえて悪手を選択した。


「もちろん、国営墓地にあるぞ。といっても俺も見た事はないがな」


 アレンの返答に今度はヴェランは一瞬訝しむ表情を浮かべる。アレンの返答を額面通り受け取る事を警戒したのだ。アレンが正直に答えたのは、ヴェランに迷いを生じさせるためである。

 ヴェラン達はアレンと闇の魔人衆(イベルノワグ)との戦いを観察しており、アレンが相手の不意をつく戦い方をする事を理解しているはずだ。となれば今の返答にも意味があると判断させる事が出来るかも知れないという考えから正直に答えたのだ。


 アレンとすればすでに自分に接触している段階である程度の根拠があるのだろうからそれを逆手に取ってみるつもりだったのだ。ちなみに上手くいっても行かなくても、それはアレンにとって大した問題ではなかったのだ。


 なぜなら……


 アレンはすでにヴェランとその従者をこの場で斬ることを決心していたからだ。


「そうそう、こちらも一つ聞いて良いか?」


 アレンがヴェランの背後に控える男を向いて尋ねる。


「何かな?」

「あんたの後ろの男の名前を教えてもらえるかな?」


 アレンの質問はヴェラン達にとって意外なものであったのだろう。一瞬だけ呆けた顔をしたが後ろの男の名をヴェランは口にする。


「ルベルシアだ」

「そうか……」


 ヴェランがルベルシアの名を告げた事でヴェランの正体をアレンは確信した。ルベルシアとは邪神イベルの部下の名だった。邪神イベルに従属した下級神ルベルシアは、従属した際にルデオンと呼ばれるようになった。イベルの腹心ルデオンの本名であるルベルシアはどの伝承にも残っていない。ローエン家とアインベルク家に伝承として残っているだけだ。その名を名乗ったと言う事は間違いなくイベルである事をアレンは確信したのだ。


 アレンは凄まじい速度で駆け出した。周囲の闇姫やみひめ達4体もアレンに続きヴェラン達に襲いかかる。闇姫やみひめ達は瘴気弾を一斉にヴェラン、いやイベルに向かって放つ。


 ルベルシアがイベルの前に立ち闇姫やみひめの放った瘴気弾を受け止める。相当な威力なのだがルベルシアはまったく堪えた様子もなく平然としていた。アレンは一足飛びに階段を駆け上がるとルベルシアに向かって斬撃を繰り出す。


 アレンの斬撃がルベルシアの防御陣を紙のように斬り裂いた時、ルベルシアの顔が凍る。まさか人間如きが下級とは言え神の防御陣を斬り裂くとは思ってもみなかったのだ。


 ルベルシアは慌てて空間に手を突っ込み剣を取り出すとアレンの斬撃を受け止める事に成功する。アレンはそのまま剣を引かずルベルシアとの鍔迫り合いを始める。両者一歩も引かない凄まじい鍔迫り合いである。


 アレンは剣から片手を離すと魔力を込めて貫手を放った。凄まじい威力の貫手はまたしてもルベルシアの防御陣を貫いた。だが、位置的にアレンの貫手はルベルシアの体には届かない。その事にルベルシアは訝しんだ。アレンがここで無駄な一手をうつ意味がわからなかったのだ。

 アレンはニヤリと嗤い貫手を抜くとそこには防御陣に穿かれた孔がぽっかりと空いている。そこに闇姫やみひめの一体が潜り込むと同時にアレンはバックステップして間合いを取った。


 ドゴォォォォォォォォ!!!


 そして、アレンが離れた瞬間に潜り込んだ闇姫やみひめが自爆する。凄まじい爆発音が邸内に響いた。


「まぁ……さすがにこれじゃあ終わらんよな」


 爆風が収まりルベルシアが立っていた事を確認したアレンが淡々と言う。至近距離での爆発であったためにさすがに無傷というわけにはいかなかったがルベルシアは健在だった。


「よくもやってくれたな」


 ルベルシアの声には明確な怒りがあった。神の怒りである以上、本来は恐れおののく所なのだろうがアレンは一切動揺しない。


「しかし……お前達もマヌケだな」

「何?」

「そうだろう……イベルの力はまだ完全じゃないのに俺にちょっかいを出すなんてマヌケ以外に何と表現すれば良いんだ?」

「な、何故それを……」


 アレンの言葉にルベルシアは明らかに動揺する。アレンの言うとおりイベルの力はまだ完全ではない。宿主であるヴェランの体は人間のものだ。イベルの全力の力には耐えきれない。そのために少しずつヴェランの体をイベルの魂に馴染ませているところだったのだ。現在の状況ではイベルの力は大体半分ぐらいしか発揮する事が出来ない。しかし、ルベルシアが護衛につき、なおかつ相手が人間と言う事もあり問題無いと判断したのだった。


「さて……お前達を行かして返すつもりはない。命乞いは無駄だ」


 アレンの言葉にイベル達は激高する。


「人間如きが神に対して何という無礼な」

「神をも恐れぬ不届き者が!!」


 イベル達の激高をアレンは限りなく冷たい目で眺めている。そして冷たい声でアレンはイベル達に告げる。


「まったく……神が偉いと誰が決めたのだ?」


 アレンの言葉にイベル達は声を失う。さらにアレンはイベル達をせせら笑う。


「特にお前達のような小者を敬う理由がどこにあるんだ?」

「な……」

「つけ上がるなよ……三下が」


 アレンは言い放つと同時に凄まじい殺気を放った。


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