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傀儡Ⅱ①

「よし、これなら面白い事が出来るはずだ」

「確かにこれならかなりの戦力が確保できるわね」

「ああ、あとは実験だな。前回は魔力回路が上手くいかなかったからデスナイトごときに敗れたけど…今回はいけるな」

「うん、早速アレンに報告しましょう」


 アインベルク邸の敷地内に設けられたカタリナの研究施設で、2人の少年少女が満足げな表情を浮かべながら話している。もちろん、その少年はジュセル、少女はカタリナだ。ジュセルは休みの日になるたびに転移魔術でカタリナの元で研究に訪れていたのだ。

 カタリナの目的である『ホムンクルス』はジュセルの魔力回路による実験のために一気に進んでいた。カタリナの地道な研究がジュセルの魔力回路という肥料のために一気に花開いたという感じだった。


 ホムンクルスは容器の中で胎動を始めており、あとは時間を待つという段階になったために、カタリナとジュセルは傀儡の改良を始めたのだった。試行錯誤をくり返して何とか試作品が完成したのであった。


 出来上がった傀儡は5体だ。今回は前回とは違って操作する必要はなく、自律型の魔術を組み込んでいる。

 傀儡には魔石を入れる場所があり、魔石に術を込め動力源として動かすというのがその基本的な構造だった。


「デスナイトぐらい斃せれば戦力になるよな」


 ジュセルの言葉にカタリナは頷く。


「そうね、最低でもそれぐらいの性能を発揮してもらわなければ墓地の見回りには使えないわね」


 カタリナの返答にジュセルは苦笑しながらも頷く。カタリナは苦笑するジュセルに対して首を傾げながら問いかけた。


「どうしたの?」

「ああ、改めて考えると国営墓地って凄いところだよな」

「え?」

「だって、今カタリナはデスナイト“ぐらい”斃せればって言ったよな」


 ジュセルの言葉にカタリナも自分の基準が大きく変わっていることを自覚する。デスナイトというアンデッドは国営墓地で働く者達にとって当たり前に駆除する対象であるのだが、他の者達にとっては全身全霊をあげて戦わなければならない相手なのだ。それを“ぐらい”と表現する事自体が異常と言えた。


「確かにそうね。普通に考えればデスナイトを“ぐらい”って言うのはおかしいわよね。私もアレン達にすっかり毒されちゃったのかしら」

「いや、カタリナは……いや、なんでもない」


 ジュセルがカタリナに、『いや、お前も十分アレンさん達を影響している』と言おうとしたのだが、カタリナがジロリと視線を向けたので思いとどまったのだ。

 特に影響を受けているのはアディラであると言って良いだろう。アディラとカタリナは今や親友と呼んでもおかしくないような関係を築いている。その親友のカタリナの影響をアディラが受けるのも当然と言えるだろう。まぁカタリナはカタリナでアディラの影響を受けているのだ。


「……まぁいいわ。行きましょう」

「ああ」


 カタリナとジュセルは報告のためにアレンの元に向かったのだった。


 アレン達はアインベルク邸のサロンで寛いでいる。アインベルク邸のサロンはそれほど広いというわけではないが十分な席が確保されており、ジュセルとカタリナが座るぐらいの余裕は十分にあった。


 サロンにはアレン、アルフィス、フィアーネ、アディラ、レミア、フィリシア、そしてクリスティナの7人が席について談笑していた。エシュレムとラウラは、武具のメンテナンスに行っていて席を外していると言う事だった。


 カタリナとジュセルがサロンに入室すると全員が一斉に2人を見た。


「あら……みんな、この方がカタリナ様?」


 クリスティナの視線がカタリナに注がれると確かめるような言葉が発せられる。その声を受けてアルフィスが代表して答えた。


「ああ、彼女がカタリナ、こう見えても凄まじい魔術の使い手だ」

「へぇ~」


 アルフィスの言葉を受けてクリスティナは立ち上がるとカタリナの前に立つ。カタリナはクリスティナの美貌に見惚れており、自分から挨拶をするのを忘れていた。そこにニッコリとクリスティナは笑うとカタリナに話しかける。


「初めましてカタリナ様、私はクリスティナ=メイナ=エルマインと申します」


 気品溢れる優雅な挨拶にカタリナは緊張の面持ちを見せる。美人度で行ったらアレンの婚約者達もクリスティナに決して劣るものでは無いのだが、気心の知れている美人と初対面の気品溢れる美人では緊張の度合いが異なるのは当然と言えるだろう。


「あ、あの、カタリナ=レンスです。よろしくお願いします」

「はい、これからよろしくお願いしますね」


 ニッコリと微笑むクリスティナにぽ~と仕掛けたカタリナであったが、突然、クリスティナがカタリナに抱きついてきたため、混乱する。


「ふぇ? ちょっと、え? あの?」


 カタリナの戸惑う声にクリスティナは今までの気品溢れる雰囲気から一転、フィアーネ達と同様の気安さでカタリナに接する。


「かわいいいぃぃぃぃぃぃぃ♪ この可愛さはアディラ様に匹敵するわ♪ 素でこれだけの逸材……私のコーディネートでどこまで輝かせる事が着るか本当に楽しみだわ」


 クリスティナの変貌に驚いているのはカタリナだけである。初対面であったカタリナはクリスティナの第一印象がガラガラと砕けていくのを感じていた。だが、決して不快ではなかった。むしろ親しみやすさが加わっているため、カタリナはさらに魅力的に思えたのだ。


「おいおい、クリスティナ……カタリナが戸惑ってるだろ。お前、自嘲しろよ」

「いや」


 アレンの言葉をクリスティナは一蹴するとカタリナをまたも抱きしめる。


「でへへへへへへ♪ いいわ~カタリナちゃん、ほんとに良いわ♪」


 ついに変態親父モードが発動し、奇妙な笑い声が発せられる様子を全員が苦笑を浮かべている。


「ちょっとクリスティナ……あんまり飛ばしすぎるとカタリナに嫌われちゃうわよ」


 レミアが呆れたように言う。実はフィアーネ、レミア、フィリシアの3人は最初の出会いからちょくちょく一緒に街に遊びに行ったりしており、とっくに友人関係を気付いていたのだ。人前では決して馴れ馴れしい言い方をレミアもフィリシアもしないのだが、気の置ける者しかいない時は、友人として接していたのだ。

 父であるエルマイン公は常々『貴族というのは生き方であり、生まれとかそういうことではない』と言っており、クリスティナもその言葉に深く感銘を受けていたのだ。そのため、クリスティナは身分というものは自分の誇りを示すためにあるものであり、他者を見下すためのものではないと考えていた。誇り高い生き方というのは他者を見下すことではないと思っていた。


「は、それは嫌よ。ご、ごめんなさい、カタリナ様、私ったらつい」

「い、いえ」

「カタリナ様、よろしければ私の事はクリスティナと呼んでください」

「い、いや、クリスティナ様は貴族ですし、そのような気安い言い方は」


 カタリナの正論に露骨に残念そうな表情を浮かべるクリスティナにフィアーネが助け船を出す。


「ねぇカタリナ、クリスティナも私達同様にあんまり堅苦しいのは好きじゃないのよ。クリスティナって読んであげちゃダメかな?」

「えぇ? だってクリスティナ様って年上だもん。そんな口聞けるわけないわ」

「あら? 私達だってカタリナよりも年上よ。でもみんなの事を呼び捨てじゃない」


 痛いところを突かれたという顔をするカタリナだったが、どうしても呼び捨てには抵抗があるようで頑なに断る。


「クリスティナ様、さすがに呼び捨ては無理ですから“さん”付けで納得してくれませんか?」


 カタリナの言葉にクリスティナは少し残念そうだったが、すぐにニッコリと笑うと頷いた。


「あんまりしつこいと嫌われるから、ここが落としどころね。わかったわ、それで手をうちましょう」

「ありがとうございます。私の事はカタリナと呼んでください」


 カタリナの言葉にクリスティナは頷くと一応の決着はついたということでお互いに笑顔が浮かんだ。


「カタリナ、こっちこっち」


 そこにアディラが自分の隣に座るように催促するとカタリナは頷くとアディラの横に座る。ジュセルはアレンの隣に座るとメリッサとエレナがすかさず紅茶を2人に差し出す。


「さて、2人揃ってここに来たと言う事は、研究で何か進展があったのか?」


 アルフィスが2人に来室の目的を尋ねる。2人は研究が大好きなために何かしら成果が出ないとサロンに来ると言う事は稀だったのだ。


「はい、実は傀儡の改良版の試作品が完成したので報告に来たんです」


 ジュセルの言葉にアレン達が興味を示す。前回の傀儡魔力回路をいじりすぎたせいで、本来の性能を全く発揮できていなかったのだ。そのため全員が改良版の完成を楽しみしていたのだ。


「実は性能テストをしたいの、それでフィアーネに牧場のアンデッドを召喚して欲しいのよ」


 カタリナの言葉にフィアーネは頷く。


「わかったわ。それじゃあ場所は修練場で大丈夫ね?」

「ええ、それじゃあ、早速テストの準備に入るわね」

「なぁ、2人とも俺達もそのテストを見学しても良いか?」


 アレンの言葉にカタリナもジュセルも頷く。人の目が多ければそれだけ多くの意見を聞くことが出来るため、2人とすれば断る理由はなかったのだ。


「もちろんです。むしろ是非お願いします」


 このやり取りにより傀儡の性能テストに多くの見学者が参加する事になったのだった。




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