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閑話~六剣始動~

「次の俺達の相手はその墓守か……」


 1人の男の発言に、その言葉を紡がせた男は苦笑混じりに答える。


「ああ、魔剣士最強のイグノールに勝利を収め、『リンゼル』を壊滅させた男を斬れるのは俺達だけというのが第一皇子様の考えだ」

「確かに、イグノールに勝利を収めるような男が相手ならば俺達が出向くのは当然だな」

「しかし、『リンゼル』を壊滅させるとは……」

「お前ら、油断するなよ。相手は確かに人間だ。だが、間違いなく強い」


 その言葉に部屋にいた全員が頷く。部屋にいる人数は6人、みな頭部に角が生えていたり、耳が尖っていたり、尻尾が生えていたりしており、その身体的特徴から彼らが人間ではなく魔族である事がわかる。


 彼らの組織名は『六剣オラシオン』、ベルゼイン帝国で知らない者はいない程の傭兵団である。『リンゼル』も強者として有名であったが、『六剣オラシオン』はその上を行く。組織名が示すとおり『六剣オラシオン』の構成人数はたったの6名、その立った6名で『リンゼル』と互角以上に戦う事が出来る強者達であった。


 団長の名は『オルグ』、頭部に角が生えており均整のとれた肉体は戦いの中で鍛えられたものであることが解る。『リンゼル』の団長であるクギルを殺害し、その後の闇姫やみひめ達を一振りで焼き払った男であった。


「それで墓守は1人なのか?」


 団長に質問するのは、副団長の『アイガス』、オルグ同様に頭部に角が生えており、オルグ同様に均整のとれた肉体をしている。やや心配性な表情を浮かべる。


「いや、確か婚約者達も一緒に戦っているという話だったな」

「婚約者? という事はその墓守は女に戦わせるという腰抜けというわけか」

「は、情けない奴だ」


 オルグの言葉に嘲りの言葉で答えたのは『ロミュラ』と『ザーヴェル』、両者とも銀髪に浅黒い肌、尖った耳をしているダークエルフと呼ばれる種族だ。ダークエルフは数多くの種族の暮らすガーンスヴァルク大陸においてさほど珍しい種族では無い。


「ロミュラもザーヴェルも侮るのは止せ。イグノールを斃した男と一緒に戦えるような者達が弱者のはずはない」


 オルグの言葉にロミュラとザーヴェルも反省の表情を浮かべる。


「団長……あんた、やけに墓守を気にかけてるな。イグノールを斃した以上の事を知ってるのか?」


 そう尋ねたのは『ナフタ』、黒髪、黒眼の偉丈夫で、体の厚みはオルグ達よりも一回り厚い。かなりのパワーファイターである事が察せられる。腰の辺りからサルのような長い尻尾が生えている。


「ああ、実はその墓守にやられたクギルが第一皇子の元に送り込まれたんだが、そのクギルを殺した後、死体がデスナイトに変貌して襲いかかってきた」

「デスナイトだと?」

「ああ、第一皇子の護衛騎士が相手をしたんだが、そいつは瘴気で作られた女が擬態してデスナイトの形を形成していたんだ」

「……どういうことだ?」


 ナフタだけで無く全員が首を傾げながら視線を向け、オルグの言葉の続きを促す。


「墓守は瘴気を形成して何かしら化け物を生み出す事が出来るのだろう。あの化け物達は初めて見るものだった」

「その化け物の強さは?」


 オルグに尋ねたのは『リグマ』、側頭部に羊のような角を生やした男だ。髪は長く後ろで束ねている。割かし小柄な体型をしている。俊敏な動きで相手を翻弄するというのが基本スタイルだ。


「俺の魔剣『ギルメデス』の一振りで焼き払うことができた」


 オルグの言葉に全員が落胆の表情を見せる。確かに魔剣『ギルメデス』は強力な魔剣であるがただの一振りで焼き払ったというのなら警戒するような相手とは思えなかったのだ。


「団長は一体何をそんなに警戒してるんだ?」


 リグマの言葉にオルグは答える。


「墓守が送り込んだあの化け物とは別に作り出すことが出来るとするならば油断は出来ないと思ってな」

「……」


 オルグの返答に全員は沈黙で返答する。オルグの言葉に他の団員達も自分達の傲りを指摘された気分になったのだ。オルグ達は結局の所、アレンの能力をほとんど知らない、現段階で解っているのは瘴気を操る事が出来ると言う事、瘴気を使って化け物を作り出すことが出来ると言うことしか知らないのだ。

 その程度の情報しか知らないのにアレンを見下すことの危険性に思い至ったのだ。


「確かに団長の言うとおり、俺達はその墓守の事を何一つ知らない。にも関わらず見下すのは間違いだな」


 ロミュラの言葉に全員が頷く。全員の表情には先程のような嘲りの表情は一切浮かんでいない。


「それでは斥候を出すか?」


 アイガスの問いにオルグは首を横に振る。


「いや、それは止めておいた方が無難だ」

「なぜだ?」


 アイガスはオルグの返答に訝しむ。得体の知れない能力を持った相手に対して斥候を放ち情報を集めるのは常套手段だ。それをしないというのはアイガスにとってそれこそ油断であると思ったのだ。


「理由はクギルだ」

「?」

「クギルは戦いに敗れた後に第一皇子の元にやってきた。それは操られた故の行動だった可能性がある」

「なるほどな。斥候が逆に捕まり、こちらに誤った情報を伝える可能性があると言うことだな」

「ああ、さらに厄介なのは俺がその事に思い至ったということだ」


 オルグの言葉に全員が頷く。斥候からの報告を受ける立場の自分が斥候が操られているかどうかを確かめる術がないのだ。実際にオルグが操られている事を知ったのは、アレンがオルグの口を使ってアレンのメッセージを告げたからだった。

 そのような状況である以上、斥候からもたらされる情報に信憑性がないのだ。


「確かに団長の言う通りだな。その情報でこちらが上手く誘導される可能性は否定できない」

「そういうことだ」


 アイガスの言葉にオルグが頷くと全員も納得したようだった。


「有利な状況を作れないのは残念だが、こちらとしては不利な状況にならないだけでも良しとするしかないな」

「そうだな、それで出発はいつだ?」

「『クルノス』と『ガベル』の2人と連絡をとってからだ」

「あの2人を雇うつもりか?」

「ああ、念には念を入れておきたい」


 オルグの言葉に団員達は頷く。あの2人なら足手纏いには決してならない事を解っていたからだ。


「2人には俺が交渉する。お前達はそれまでは自由に過ごしてくれ。ただしいつでも駆けつけることの出来る場所にいてくれ」


 オルグの言葉を受けて全員が頷く。その様子を見てオルグは心の中で呟く。


(ローエンシアの墓守か……一体どれほどの男かな)


 オルグの目には余裕の感情が浮かんでいた。



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