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閑話~駒達は地獄を行くⅠ~

 かなりどぎつい表現がありますので、注意して下さい。読まなくても話の道筋には関係ないです。悪党が悲惨な目に遭うだけの話です。

 エルゲナー森林地帯に10人のグループが周囲を警戒しながら歩いている。10人の装備は片手剣を腰に差し、盾を背中に背負い、革鎧にマント羽織っているという出で立ちであり、一見冒険者の一団に見える。


 だが、彼らは冒険者ではない。元冒険者という者もいたが、現在の彼らはローエンシア王国のアインベルク侯に仕える者達だった。仕えると言っても彼らは自分の意思でアインベルク家に仕えているわけでは無かった。アインベルク家の関係者に危害を加えようとした結果、返り討ちに遭い『駒』になったのだった。


 当代のアインベルク家当主であるアレンティス=アインベルクは駒達にまったく容赦は無い。特に今回エルゲナー森林地帯に送り込まれた一団はアレンの婚約者のフィリシアを害しようとした闇ギルド『フィゲン』の元構成員達であった。

 アレンは身内、友人達を非常に大切にしており、危害を加える者については一切の人権を認めない。婚約者達はアレンにとって身内中の身内である。そこに危害を加えようとした『フィゲン』に対する扱いに一切の情はなかったのだ。


 今回、『フィゲン』の元構成員達がエルゲナー森林地帯に送り込まれた任務は、アレン達の部下である亜人種達の集落とジュスティスの配下の蜘蛛人アラクネ達が管理する元『イベルの使徒』の施設を結ぶ道の周辺の調査であった。

 どのような魔物が現れ、どのような地形になっているかが主な調査だが、限りなく危険な調査だ。何と言ってもエルゲナー森林地帯は魔物の一大生息地であり人間が立ち入れるような場所ではないのだ。


 今回、駒の送り込まれたところは亜人種達がいつも調査に出かけるところに比べればかなり楽な所と言える。なぜならば亜人種達の調査はまったくの未開の地形の場所に入っていくからだ。より詳しく調査を行うために駒達は送り込まれることになったのだ。


 亜人種達の集落を出てエルゲナー森林地帯に設けられた細い道を駒達は歩く。道という表現はしたが、舗装もされていない人1人がやっと通れるぐらいの幅の小さな道である。


「ひっ」


 ガサリと言う音に駒の1人が恐怖に満ちた声を出す。この人物はフィゲン時代には逆らう者を容赦なく殺してきた人物だったのだが、もはやその凶悪さはまったくない。フィリシアという強大すぎる存在に完全に心を折られた結果、少しの出来事でビクビクするようになってしまっていたのだ。もちろん、アレン達はそのような状況になったとは言え一切配慮はしない。自分達が今まで撒き散らしてきた不幸の事を考えれば被害者面をする事すら許しがたいという考えだったのだ。


「いちいちビビるんじゃねぇよ!! うっとうしい!!」


 怒鳴りつける男の声も恐怖を押し殺しているのがありありと解る。だが、周囲の者もそのことが解っていても指摘する者はいなかった。なぜなら自分達も口を開けば恐怖の感情のこもった声がでるのを自分でわかっていたからだ。


「ちきしょう……こんな事になったのも全部あいつのせいだ……」


 1人の男が恨み言を言い始める。男の言う“あいつ”とはフィゲンのギルドマスターであるリュハン=メムトだ。

 リュハンがアインベルクの関係者に手を出したためにこんな事になったのだというぼやきだった。このぼやきをアレン達が聞いたならばせせら笑った事だろう。自分達が今小のような目に遭っているのは確実に闇ギルドに入ったからだ。例えどのような理由があったとしてもアレンは自分の家族、友人に危害を加えようとした者に同情などしない。まっとうな生き方をしている者をせせら笑ってきたツケを支払わされているだけのことだった。

 ちなみにリュハン率いるグループは、蜘蛛人アラクネの管理するイベルの使徒の施設よりさらに進んだ先の地域の調査だった。亜人種達がまだ調査を終えていない場所に送り込まれる事になっており、その危険度は桁違いであると言って良かった。


「やめろ……今更そんな事言っても仕方ねぇだろ」


 リュハンへの呪詛の言葉を聞いた男がうんざりしたような声を出す。


「おい、何か聞こえたぞ……」


 周囲を警戒していた男が仲間達に向けて警戒の促す声で言う。その声を聞いた全員がビクリと体を振るわせて集まる。


 魔術を使える者と治癒魔術を使える者がグループの中にいる。その2人を中心に円陣を組んだ。あらゆる意味でこの2人、特に治癒術士はグループの生命線だ。何が何でも守らなければならない。


 剣と盾を構えた男達3人が前面に立ち、その背後に弓を構えた男が2人立つ。その後ろに魔術師と治癒術士が控え、その周囲を3人の男達が剣と盾を構える。


 ガサガサ……


 緊張し音がする方向に全員が視線を集中する。そして茂みの中から体長40㎝程のウサギに似た動物が姿を見せる。その姿を見て男達は途端に気の抜けた表情を浮かべる。


『きゅきゅ』


 現れた動物は可愛らしく首を傾げると男達に近付いてきた。


「ち、脅かしやがって……」


 弓を持った男が矢を番えると動物に向けて放った。放たれた矢は動物の眉間に命中するとそのまま動物はバッタリと倒れ込んだ。倒れ込んだ動物に男達は武器をしまい込み1人が動物に向かっていく。動物を捌いて保存食にしようと考えたのだ。


 近付いた男が動物に手を伸ばした瞬間に“それ”は起こった。男の手が消えたのだ。男は呆然と消えた手いや、腕を見ていたが自分の身に起こったことを理解すると、痛みが生じてきたのだろう。苦痛に顔を歪め、口を開く。


「ぎゃあああああああああ!!!!」


 当然開かれた口から生じた声は絶叫だった。あまりの事に他の男達は呆然とその光景を眺めていたが、助けるために駆け寄る。


 だが、蹲る男の周囲にミミズのような形の生物が地中から現れた。ミミズのような形と言ってもその大きさは直径10㎝程、長さは地上に出ているものだけで2メートルから3メートル程だ。

 現れたミミズに腕を喰い取られた事は確実だった。なぜならミミズの一つの体が男の手の形に盛り上がっていたからだ。


「ひ、助けてくれぁぁぁぁぁぇぇぇぇっぇぇぁ!!!!」


 ミミズ達の口が開く、長さ10㎝程の切れ込みが入り五等分に分かれたのだ。一つ一つには細かい牙が無数に生えている。その奥の肉の壁がうごめく姿は限りなく醜悪であった。


 ミミズ達は一斉に叫ぶ男に襲いかかった。いや、捕食したという表現の方が的確だったのかも知れない。


「ぎぃぃぃやぁぁぁああっぁあぁっっぁぁあ!!!!」


 醜悪なミミズに食い散らかされる仲間を呆然とみていた男達の1人が絶叫を叫び転がった。他の男達が見ると地中からミミズが現れ男の右足首を喰い取ったのだ。そしてこれが決定的となりまだ無事な男達は一斉に逃げ出した。


「待ってくれぇぇぇぇぇ!!! 置いてかないでくれぇぇぇぇ!!!」


 足を喰い取られた男が痛みを堪えながらも声の限りに叫ぶ。だが、逃げ出した男達は振り返ること無くひたすらに逃げる。


「待って、ぎゃあああああああ!!! 止めろぉぉぉ!! 喰わないでくれぇえぇ!!」


 言葉の内容が変化した意味を、逃げ出した男達は当然の事ながら理解している。だが、立ち止まるような事はしない。いかに不幸を撒き散らす闇ギルドの人間であってもあんな化け物に食い殺されるような終わりは御免だった。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 逃げる男達の1人が突然浮かび上がった。浮かび上がった男の口から恐怖の叫びが発せられた事から自分の意思で浮かび上がったわけでない事は明らかであった。


 突然の出来事に浮かび上がった仲間の方向を確認すると、数十匹の蜘蛛達が糸で男をぐるぐると巻いている。男は必死に抵抗するが効果は全くないようで。蜘蛛は構わずに糸で拘束していった。

 浮かび上がったのは蜘蛛の糸により釣り上げられた事を男達は悟った。


 ガチガチガチ……男達は、歯の根が鳴るのを止める事は出来ない。そして悟ったのだ。自分達はここで、この蜘蛛達に喰われて死ぬ事を。


 蜘蛛から糸が投ぜられまた1人の仲間が釣り上げられる。叫び声を上げる釣り上げられた男は木の上で糸に巻かれていくのを呆然と眺めていた。そして1人、また1人と釣り上げられ遂に全員が捕まったのだった。





 エルゲナー森林地帯を魔物達が歩いている。ゴブリンが10体周囲を警戒しながら歩いている。ゴブリン達の左腕には赤い腕章が付けられている。アインベルク家に仕えている亜人種達の証明だった。


『メキ……マテ』


 リーダーらしきホブゴブリンが先行するゴブリンを制止する。


『コレハ……』


 ホブゴブリンの指し示した先には、武器と身につけていたものの残骸が転がっていた。ゴブリンの一体が落ちている枝を拾い残骸を転がす。


『タイチョウ……ドウヤラ 『フェブスワム』 ニ ヤラレタヨウデス』


 ゴブリンの言葉にホブゴブリンは頷く。状況から考えて10日程前に消息を絶った人間達の持ち物である事を理解する。


『ソウカ、『フェブスワム』ナラ シカタナイナ。コノシュウイニモ シュツボツ スルコトガ ワカッタダケデモ ヨシトシヨウ』


 ホブゴブリンの言葉に部下達は頷くと調査を再開する。しばらく周囲を捜索していると一体のゴブリンから報告が入る。ホブゴブリンは全員に指示を出し報告の場所に歩き出す。


『タイチョウ……アレヲ』


 部下の一体が指を差した方向を見ると糸に包まった繭のようなものが転がっている。数は8個だ。


『マチガイナク 『グラトニースパイダー』 ニ クワレタヨウダナ……』


 ホブゴブリンの言葉に全員が頷く。暴食の蜘蛛(グラトニースパイダー)は捕らえた獲物を捕食する際に体液を吸い残りを捨てる場合もあれば、肉ごと食べる場合もある。ここに獲物が捨ててあるということは体液を吸われた事に他ならない。糸を斬り裂き中を確認すれば干涸らびた死体があるはずだ。


『タイチョウ……イチド モドリマショウ』

『ソウデス コノママ ココニイレバ ツギハ ワレワレノバンデス』


 部下達の言葉にホブゴブリンは頷くと集落に戻ることを指示する。ホブゴブリンの指示に部下のゴブリン達はほっとしたような表情を浮かべて歩き出す。ホブゴブリンは肩越しに振り返り、糸に覆われた死体達に心の中で呟く。


『オマエタチノ シタイ カラノ ジョウホウ ハ オンカタタチ ノ ヤク ニ タッタ。ホコリ ニ オモウ ガ イイ』


 ホブゴブリンはそれだけ思うと前を向き、集落への道を急いだ。


 

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