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月姫⑪

 今回で戦闘は終了です。


 

 アディラは指示を出した後、カガラと対峙する。カガラは余裕の表情を浮かべてアディラ達を見る。その視線にははっきりと嘲りの感情が込められていることをアディラは感じた。


「やれ!!」


 カガラはひょうを突き刺した賊に扮した『フォーヴァ』に命令を下すと『フォーヴァ』達は武器を構えアディラ達に襲いかかる。すでにひょうに貫かれ絶命している者もいるのだが、そんな事を関係ないとばかりに突っ込んでくる。もちろん、まだ絶命していない者もおり、絶命してない者は意識も痛覚もあるのだろう絶望の表情を浮かべている。


「エシュレムさん、アディラ様を!!」

「わかった」

「ラウラはアディラ様の隣で魔術で牽制して!!」

「は、はい!!」


 メリッサがエシュレム達に指示を飛ばすと2人は指示通りに動く。エシュレムは巨大な盾と刃渡り50㎝程の片刃の剣を構え、ラウラは手にしたロッドを構えると魔術の詠唱を始める。


 メリッサは剣を抜き、エレナは杖を構える。そこに操られた『フォーヴァ』が突っ込んで来る。メリッサに斬りかかってきた男の剣を受け流すと生じた隙を見逃すことなく左肘を顔面に叩き込んだ。顔面に肘を叩き込まれた男は、吹っ飛び地面を転がったが、すぐに立ち上がると再び襲いかかってくる。


 エレナに襲いかかってきた男の顔面にはひょうが突き刺さっており、目の光りも失われている。すでに絶命しているのは確実だ。言わばアンデッドが襲いかかって来ているという現状は気の弱い者あらば気絶しても仕方の無い程のものだ。だが、国営墓地で見回りに参加しているエレナにしてみれば何の問題もない。ある意味、エレナもすっかりアインベルクに染まってしまったという事だろう。


 アディラはニコリと微笑むと瘴気を集め出す。アディラの手にはあっという間に拳大の瘴気が集まる。アディラもまた瘴操術の手解きをアレンから受けていたのだ。

 アレンに瘴操術を指導される時に、アディラは周囲ご満悦だった。上手くいかない時にアレンに優しく指導してもらい『ぐへへ』と笑い、自分の望む形に瘴気を形成できるようになり、アレンに褒められて『ぐへへ』と笑い、さらに形成の速度と精度を上げていき十分に実戦で使えるとお墨付きをもらった時も『ぐへへ』と笑い。メリッサとエレナにため息をつかせていた。


 アディラの集めた瘴気がアディラの望む形に姿を変える。変わった姿は一つの弓だ。瘴気で形成された弓は、いつも使っていた弓よりも一回り大きくアディラの身長の胸の辺りまである。弓を形成したアディラは右手に瘴気を集めると今度は矢を形成すると同時に矢を番えてカガラに向け放った。


 相変わらずその動きに一切の淀みはない。放たれた矢は凄まじい速度でカガラに飛び、カガラの展開していた防御陣に突き刺さった。


「な……」


 アディラの矢はカガラの防御陣を突き破りカガラの眉間10㎝程の距離でかろうじて止まっていた。不意を衝かれたとはいえ、アディラがいつ矢を放ったかをカガラは気付くことが出来なかった。もし、防御陣を常時展開していなければ今の一撃で眉間を射貫かれて勝負は決していただろう。


 カガラは操り人形達を半分に分けて自分の周囲に配置し、アディラの矢を避けるための肉の壁を作った。

 確かに凡庸、いや、一流の使い手であってもこの肉の壁を突破し、カガラに矢を命中させるのは不可能だろう。また越えたところでカガラの防御陣があるためアディラには攻撃方法が無いように思われる。


 だが、アディラの行動はまったく躊躇すること無く瘴気で矢を形成すると、立て続けに矢を放った。


 ビシュン!!


 パシュン!!


 キシュン!!


 立て続けに矢鶴が鳴り響いた。アディラの放った矢は肉の壁の隙間をぬってカガラの防御陣に命中する。もちろん、矢は防御陣によって勢いを無くしカガラには命中することはなかった。だが、いくら防御陣のために無傷であるとはいっても、防御陣を鏃が貫いているのは事実であるため、カガラの肝が全く冷えないわけでは無かったのだ。


「う~ん……仕方ないわ。本気で行くか」


 アディラはそう言うとさらに矢鶴を鳴らし、カガラに容赦なく射かける。するとアディラの矢はカガラの防御陣を貫通した。貫かれた矢は防御陣という抵抗のために速度が落ちたためにカガラは躱す事に成功するが与えた動揺は大きかった。


(バカな……なぜ、たかだか矢で俺の防御陣を貫けるのだ?)


 カガラの表情には動揺が色濃く浮かんでいる。その表情を見たとき、アディラは他の戦いに目をやる。その視線に先にはキュギュス、レゴバルの姿がある。アディラは自分が意識から外れている事を確認すると、キュギュス、レゴバルの順番に矢を放つ。キュギュスは防御陣をカガラ同様に常時張っているために阻まれてしまったが、レゴルバは防御陣を形成しておらず、また背中を向けていたためにまともに突き刺さった。


 アディラがキュギュスとレゴバルに矢を射かけたのは、もちろん援護の為というのもあるが、カガラへの挑発もあった。“お前如き片手間で用足りる”という挑発を送ったのだ。


 アディラの周囲では操られた『フォーヴァ』がメリッサたちと激しい戦いを繰り広げているがメリッサたちに阻まれまったくアディラに近づけない。


(メリッサ、エレナだけでも安心できるのに、エシュレムさんとラウラもいるから安全に対処できるわね)


 メリッサたちの防御を抜けれないというこの状況はアディラにとって一方的に矢を射かけるという美味しすぎる状況だったのだ。

 この美味しい状況をアディラが無駄にする事はあり得ない。アディラは次々とカガラに矢を射かける。防御陣を貫きカガラを襲うアディラの矢をカガラは身体能力を駆使して躱した。


(くそ……矢を形成するスピードが早い。このままでは押し切られる……)


 カガラは周囲に配置していた操り人形達も攻撃に参加させる。自分の周りに配置しておいてもアディラはその隙間をすり抜けカガラに矢を届かせる以上、ここに置いておくのは無益というものだ。


「アディラ様、お下がり下さい」


 メリッサの言葉にアディラは首を横に振ると矢を番えると容赦なく放った。アディラの放った矢はカガラと操り人形を結ぶ紐、すなわちひょうの紐だ。アディラの矢によって紐と切り離された人形はその場に崩れ落ちた。文字通り糸の切れた人形だった。


 アディラはまた次々と矢を放ち紐を断ち切っていく。紐を切られた人形達はそのまま倒れ込んでいく。まだ命のあった者は倒れ込んで苦痛のうめき声を上げている。

 カガラの周囲に再びひょうが数本浮かび上がり、アディラに放たれるがアディラはそれを全て射貫いた。


「な……」


 驚愕の表情を浮かべたカガラの肩に矢が突き刺さる。アディラは一瞬の動揺を見逃すことなく矢を放っていたのだ。


「くそがぁ!!」


 カガラはこのままでは一方的にやられるだけと判断し、破れかぶれの突撃を敢行する。


「甘いわね……その程度の圧力で私が集中力を乱す事なんて無いわ」


 アディラは矢を番えカガラに向けて放つ。その矢は防御陣を貫きカガラに迫るが、カガラをその矢を躱す事に成功する。だが、その次の一矢がカガラの眉間を貫いたのだ。


「な……」


 眉間を射貫かれたカガラは急速に力を失うとその場に崩れ落ちる。理解できないという表情を浮かべたままカガラは絶命していた。二射目は明らかに速度がまったく落ちなかった事が大いに疑問だったのだがあ、カガラにはその謎を解く時間が与えられることはなかった。


 アディラは一射目で防御陣を貫き、その穿った孔に二射目を放ったのだ。防御陣に空いた孔は一瞬後には塞がるのだが、アディラはその塞がるまでの僅かな時間で射貫いたのだ。言葉にすればこれだけなのだが、実際にやるとなると神業という言葉以外はみつからないのだ。


(に、人間にこんな事が可能なのか?)

(王女殿下って規格外にも程があるわ。メリッサさんとエレナさんはどうして驚いてないの? これが普通なの?)


 エシュレムとラウラは呆然とカガラの死体を眺めていた。メリッサとエレナがさほど驚いていないことがさらに2人を驚かせることになったのだ。


 カガラを射殺したアディラは周囲の状況を確認するとジェド達はレゴバルをすでに斃しているし、近衛騎士達はすでにキュギュスを降伏させていた。


 アディラ一行と魔族の戦いはアディラ達の完勝で幕を閉じたのだった。



 今回の話はアディラが瘴気で弓と矢を形成できるようになった事を書きたくて書いてみたんですが……これ、「アディラ無敵じゃね?」という感じになってしまいました。


 初期はお姫様枠、妹キャラ枠だったのに、なぜか無双枠に入れてしまい。いつの間にかちゃっかり席を確保したという感じになってます。

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