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月姫⑩

 ルカ達とアシュレが戦い始めた頃に、ウォルター達4人も戦闘を開始した。


 ウォルター、ヴォルグが前列に、続いてヴィアンカ、ロバートが続いた。キュギュスは自信を含んだ笑みを浮かべると背中の大剣を抜き放った。


 ウォルターとヴォルグはキュギュスの間合いに入る瞬間に左右に分かれる。そしてその瞬間にロバートが【雷撃ライトニング】を放つ。


 ロバートの放った雷撃ライトニングはキュギュスの前方2メートル程の距離で見えない壁に弾かれる。


(防御陣か……)


 ロバートは自身の魔術が弾かれた事に対して落胆しなかった。魔族であるならばこれぐらいの芸当は当然の事と想定していたのだ。ロバートの魔術が弾かれた事で防御陣の存在を知った近衛騎士達はそれぞれの武器に魔力を込め強化してキュギュスに斬りかかった。


 ウォルターとヴォルグは迷わず間合いに飛び込むと斬撃を繰り出す。キュギュスは大剣を振るって迎え撃った。


 キュギュスの大剣の一撃をまともに受ければ近衛騎士達が武器に魔力を通して強化したからといってもまともに受ければ間違いなく剣を断たれるのは間違いない。そのためウォルターもヴォルグもキュギュスの大剣をまともに受けるような事はしない。


 キュギュスの大剣の振り下ろしをウォルターは細心の注意を払って受け流した。キュギュスは上段斬りを躱されてすぐに横薙ぎの一閃に切り替えるがウォルターはこれも下から斬り上げることで空を斬らせることに成功する。


 空を斬らせた隙を突き、ヴォルグが斬撃を足に放つ。近衛騎士達はその戦い方においてアレンの影響を色濃く受けていることは間違いない。いきなり首を狙うような事をしても間違いなく躱されて終わりである。ところが下半身の攻撃は意外と避けにくいものである。そこでアレンもまずは相手の戦力を削る事を念頭に置いて戦いを組み立てるのだ。


 そのため、近衛騎士達もまずは敵に戦力を削る事を念頭において戦うのだ。


 ヴォルグの足へ放たれた斬撃はキュギュスの防御陣に阻まれる。だが、阻まれたといっても防御陣の3分の1を斬り裂いていたためにまったく歯が立たないというわけでは無かった。


(ちっ……思ったよりもちゃんとした防御陣だな)


 ヴォルグは心の中で舌打ちをする。それを見ていたヴィアンカ、ロバートはさらに剣に込めた魔力を研ぎ澄ましてキュギュスに斬り込む。


 キュギュスは大剣を振るいヴィアンカとロバートを振り払おうとする。ヴォルグにより防御陣を斬り裂かれ掛けた事に動揺したための行動であった。焦りから来る斬撃などヴィアンカ、ロバートに通じるはずはない。あっさりと大剣を躱すと同時に放った2人の斬撃に防御陣は3分の2程が斬り裂かれた。


 先程よりも斬り裂かれる割合が増えた事でキュギュスの動揺はさらに高まる。防御陣は魔力を注入する限り再生するが、それは魔力の供給がある限りであり、キュギュスの魔力が尽きてしまえばもはや再生は出来ないのだ。


 その事がわかっているウォルター達は決して焦らない。確かにキュギュスの大剣から繰り出される斬撃は凄まじいものがあるが、落ち着いて対処をすれば決して脅威というわけでは無い。

 アレンの剣を知っている4人からしてみれば威力ばかりに目をやったキュギュスの剣など恐れるに値しないのだ。


「さて……キュギュスとかいったな」


 ここでウォルターが言葉による揺さぶりをかける。キュギュスはこの突然のウォルターの言葉に訝しみ返答を控える。


「すでに勝負は決した。このまま行けば俺達はお前を確実に殺す事になる。どうだ? ここらで引かないか?」


 ウォルターの言葉にキュギュスの眉は急角度に上がる。ウォルターの言葉に不快感を刺激されたのは間違いないだろう。ウォルターの挑発に他の3人も便乗する。


「確かにな。お前もわかってるんじゃないか?」

「そうね。どう考えても私達の価値は動かないわ」

「さっさと地面に這いつくばって惨めたらしく命乞いしたらどうだ?」


 4人のこの挑発はキュギュスにとって到底看過できるものではない。確かに防御陣を斬り裂きかけたのは認めるが、いまだキュギュスは無傷なのだ。無傷なのに降参を求められれば“ふざけるな”という思いが生まれた所でキュギュスを責める事は出来ないだろう。


「人間如きがどこまでも舐めてくれるな。その報いを食らわせてやる」


 キュギュスが一歩踏み出した時、突然キュギュスの防御陣に矢が突き刺さった。勿論矢を放ったのはアディラだ。


 カガラと戦いながらアディラはキュギュスに矢を放ったのだ。アディラの放った矢は防御陣を貫通したが、その奥のキュギュスにまで到達しない。だが、キュギュスの意識にアディラの存在が確実に刻まれた瞬間だった。


 対峙している4人の実力は決して低いわけでは無い。そこにまた決して侮る事の出来ない弓術の使い手がいるというのは厳しい状況であると言わざるを得ない。


 キュギュスがカガラの方をチラリと見るとアディラの放つ矢を躱しながら戦っている姿が目に入った。恐るべき事にアディラはカガラに矢を放ちながら、キュギュスに矢を放ったのだ。しかも、キュギュスだけではないレゴルバにも矢を放つタイミングを見計らっていることを察した。


 アディラに意識を逸らした事を察した4人は一斉に斬りかかった。


「く……」


 もはやキュギュスに先程までの余裕はない。全身全霊で相手をすべき敵であると頭を切り換える。だが、もはや流れが4人にあるのは確実だった。アディラの矢がいつ自分を貫くかと考えればそちらに意識を割くのは当然だ。そしてそれは他の4人の斬撃への注意が疎かになると言う事を意味している。


 キュギュスは大剣を振り回すと4人に斬撃を振るう。しかし、4人の戦術は功名を極めた。キュギュスが狙いを定めた者は防御に徹し、少しずつ間合いを取るために下がり、他の3人は斬撃を放つ。キュギュスが他の者に狙いを切り替えれば今度はその者が防御に徹し、先程と同じように他の3人が斬撃を放つ。


 この4人の行動の合間にアディラが矢を容赦なく放つためにさらにキュギュスの意識は逸れるという悪循環に陥っていた。この厳しい状況に急激にキュギュスの精神力は消耗していく。


 キュギュスの消耗は防御陣にも現れ始める。4人の斬撃に斬り裂かれる部分が少しずつ増えていった。


「がぁ!!」


 ついに防御陣の再生が間に合わずロバートの剣がキュギュスの背中を斬りつける。背中を斬られたキュギュスは原因となった斬撃を放ったロバートを睨みつけると大剣を振るう。だが、ロバートはまたも後ろに下がり、キュギュスを誘い込むと他の3人が次々と斬撃を放った。


 そしてヴォルグの斬撃がキュギュスの脇腹を斬り裂いた事が決定打となった。次いでロバートが左太股を斬り裂き、ヴィアンカが大剣を持つ手を斬りつけるとキュギュスは大剣を地面に落としてしまった。


 4人はそれぞれ剣をキュギュスに突きつける。


「降参する……」


 キュギュスは項垂れるとついに降参を口にしたのだった。



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