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月姫⑧

(どうしてこんな事になったんだ……)


 『鉄魔アゼシア』のリーダーであるアシュレは悔やんでいた。アシュレは『ミスリル』クラスの冒険者であり、強者の立場であったはずだった。だが、今アシュレは突如現れた魔族に操られているという弱者の立場に立たされている。


 配下の冒険者を使って敵対する者を追い込み排除したことは数知れない。いや、自分で敵対者を潰す事も辞さなかった。

 実際、アシュレの手にかかった者は両手の指を軽く越える。自分よりも強者であっても背後からズブリとやれば簡単に勝負を決することが出来た。敵対者には容赦しないというのが、自分達『鉄魔アゼシア』の矜持であり、自分達を恐れる弱者を踏みにじるのが楽しくて仕方が無かったのだ。


 今回、部下がもめたアディラに思い知らせようとしたが、アディラはすでにクルノスを出た事がわかり慌てて追った。その際に懇意にしている闇ギルドの『フォーヴァ』に足止めを依頼したのだ。

 ちなみにこの段階ではアシュレ達はアディラが王女である事は知らない。エシュレム達の動向からクルノスを出立したことを察したからだ。


 『フォーヴァ』の中には【念話テレパス】を使える者がいたために、すぐにアディラ一行の足取りを掴むことが出来たのだ。


 アシュレが立てた作戦では『フォーヴァ』の連中に盗賊を装ってもらい自分達が救援に駆けつけた体を装ってアディラ達を捕らえるつもりだった。そのために急いで追っていたのだが、そこで3体の魔族に出会ったのだ。


 出会った3体の魔族は圧倒的に強かった。その圧倒的な力で『鉄魔アゼシア』のメンバーは打ち倒されたのである。


 敗れた『鉄魔アゼシア』には地獄が待っていた。魔族達は鉄魔アゼシアのメンバー達を嬲り始めたのである。それは今まで自分達がやってきた事を何倍にも濃くしたような嬲り方であった。


 配下の『ゴールド』クラスの冒険者は8人いたのだが、カガラのひょうが突き刺された部下達は体の自由が奪われ、カガラの操り人形と化した。操り人形と化しても意識も痛覚もあったために地獄を味わうことになった。


 レゴバルが魔術で炎を作り上げるとカガラはその炎に部下達を突っ込ませたのだ。少しずつ灼かれていく肉体に半狂乱になりながらも操られているために直立不動で耐えるしか無かったのだ。暴れるという痛みを紛らわせる手段を奪われた『ゴールド』クラスの冒険者達の最後はむごたらしいものだった。


 配下の者達が嬲り殺されていくのにアシュレ達は何も出来ない。配下の者達の肉に灼ける嫌な臭いが鼻につんと響き、それがアシュレ達の絶望をさらに煽った。


 そしてレゴルバがさらに絶望的な言葉をアシュレ達に告げた。


「お前達は俺の実験動物にしてやろう」


 レゴルバはそういうと魔法陣を展開しアシュレ達に呪術を施した。その呪術とは人間を悪魔に変貌させるというものだった。発動はレゴルバ次第であり、レゴルバはそのままアシュレ達の体の自由を奪うとアディラ達にけしかける事にしたのだ。

 魔族達の目的もアディラ達であることを途中で語られたが自分の意思と他者に操られるのとでは当然まったく事情が異なるためにアシュレ達の心はまったく慰められない。


 まずは『プラチナ』のメンバー3人がアディラ達に嗾けられ、ジェドに伸されるとレゴルバは嘲るように嗤うと3人を悪魔に変貌させた。悪魔に変貌させられたメンバーもジェド達に為す術なくやられてしまった。


 そしてその事がアシュレ達をさらに絶望させる。悪魔に変貌したあとに斃されれば塵となって消え去るという残酷すぎる事実が突きつけられたからだ。自分達がやってきた報いを受けていると言わればそこまでだが、それでも嫌なものは嫌だったのだ。


(頼む、助けてくれ!!!)


 アシュレはその資格が無い事を十分に理解してなお、ジェド達に縋るしか無かったのだ。



「さて……始めようか」


 レゴルバの言葉を皮切りにアシュレ達がジェド達に向かって歩き出した。


(何の工夫も無く間合いを詰めてくるとは……舐められたもんだな)


 ジェドは何の工夫もなくアシュレ達が歩いてくる事に不快感を増していた。ジェド達はアシュレ達が操られていると言う事を既に察している。そのため、この行動を取らせているのはレゴルバである事が当然わかっていた。


 ジェドにアシュレ達を助けるつもりはさらさら無い。ジェド達にしてみればアシュレ達は闇ギルドを動かし、自分達に危害を加えようという敵である以上、助ける義理などどこにも無かったのだ。


「こいつらを伸せばさっき同様に悪魔に変貌する。その後斃してしまえば塵となって消え失せるな」

「そうね、可哀想だけど仕方ないわね」

「2度斃すのは面倒……でも仕方ない」

「さっさと……始めよう」


 ジェド達の声にアシュレ達への一切の情はない事をアシュレ達は理解した。その事がアシュレ達に絶望感を増していった。


(こいつら何かに使えないかな?)


 口に出しては言わなかったが、ジェドはアシュレ達を利用するつもりだった。ジェドにとって敵を利用するというのは当然考えるべき事だった。


「ルカ!! こいつらの実力を測るから、こいつらと戦え」


 ジェドの言葉にルカ達はビクリと体を震わせる。アシュレ達に勝てても次に悪魔に変貌するのだ。そんな相手に戦いたくはなかった。だが、ルカ達をかつてフィアーネがかけた行動制限が縛る。

 アレンの命令でジェド達の命令は絶対厳守と言われていたためにルカ達はどのような無茶な命令であっても断る事は出来ないのだ。


「はい、お任せ下さい」


 ルカが剣を抜き、アジス、カルムがそれに続く。アレン達から見ればルカ達の戦闘力など取るに足らないものであろうが、一般的には強者に分類されるレベルだ。


 ルカ達3人とアシュレ達3人がにらみ合う。にらみ合ってはいるが、おかしな事にお互いに自分の意思で戦っているものは1人もいない。傀儡同士の戦い、彼らの戦いを表現するとすればまさにこれだった。そのような扱いを受けるのは自身の悪行の報いであったのだが惨めな事この上ないだろう。


 ルカがアシュレに斬りかかった。ジェド達の目からみれば失笑してしまうようなお粗末な斬撃であったが、本人は至って真面目だった。アシュレも剣を抜きルカの斬撃を受ける。


 それを皮切りにアジス、カルムもそれぞれの相手に斬りかかった。すぐさま技術は拙いが激しい戦いが展開された。


 ジェドはシアに視線を向けるとシアは意図を察したように頷く。そしてレナンとアリアに向け口を開いた。


「レナン、アリアはこのままシアを護衛してくれ。もし、ルカ達がやられそうになっても助ける必要はない。あの3人の戦い方、弱点を探すことに専念するんだ」


 ジェドの指示はかなり非常なものであったが、元々ルカ達の立ち位置は駒という位置づけだったので戸惑いはない。レナンとアリアもそれを受け入れたように頷く。


「わかった……ジェド負けないで」

「ジェドがやられそうになったら私達も参加する。あの3人なんかよりジェドの方が遥かに大事」


 レナンとアリアはそう返答する。ジェドがレゴルバに戦いを挑むつもりである事を察しているのだ。


「わかった。頼むぞ」


 ジェドはそう言うとレゴルバに向かって駆け出した。

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