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月姫⑦

 悪魔へと変貌を遂げた男達を見てエシュレムとラウラは驚きの声を上げる。


 エシュレム達は3人について一行の中で一番詳しい。仕事ではエシュレム達を露骨に見下し好感度は最低レベルであったが、このような扱いを受けることはやはり愉快では無かった。


 吸血鬼の駒であるルカ達もあまりの事に声がでないようである。それだけ、男達が悪魔に変貌する光景は異様であったのだ。


 悪魔に変貌した男達を見てジェドは魔剣ヴァルバドスを抜き放った。正眼に構え3人、いや3体の悪魔を迎え撃つ。


 ジェドが剣を構えると同時にレナンとアリアも構えをとり、シアも魔力を研ぎ澄ました。


 悪魔が動こうとした瞬間にシアの【魔矢マジックアロー】が放たれた。足下に着弾した魔矢マジックアローは2体の悪魔の出足を封じただけでなくは尾木に退けさせるという降下も発揮する。


(これで3対1だな……シア、このまま2体の牽制を頼むぞ)


 ジェドはチラリとシアを見ると視線が一瞬交叉する。それだけでシアはジェドの意図を察したように頷くと再び【魔矢マジックアロー】をほぼ一瞬で展開すると2体の悪魔に向けて連続で放った。


「いくぞ、レナン、アリア」

「うん」

「まかせて」


 ジェドの言葉にレナンとアリアが頷く。ジェドがまず斬り込み、レナンとアリアが続いた。

 ジェドは悪魔の間合いに入ると下段から一気に斬り上げた。悪魔は難なく躱し、そのままジェドに拳を叩き込もうとニヤリと嗤うのをジェドにはわかった。だが、ジェドにとってこの第一撃は本命ではない、ジェドにとっての本命はこの後だったのだ。


 ジェドは下からの斬り上げの際にそのまま振り切るような真似はしない。手首をクルリと返し流れるように斬り落としの斬撃に変化させる。その斬撃の変化は流麗であり悪魔はそれに対処する事は出来ない。

 ジェドの魔剣ヴァルバドスが左肩から入り何の抵抗を感じる事無く左脇腹へ抜ける。斬り離された悪魔の半身は地面に落ちる。悪魔の表情は呆然としているようだった。おそらく悪魔の視点から見れば突然、落下していくような視点だっただろう。

 地面に落ちた悪魔の表情は呆然とそして自分の状況を把握したのだろう絶望が、そして苦痛が襲ってきたのだろう、苦悶の表情が浮かぶ。

 その苦悶の表情が消えると悪魔の体は塵となって崩れ落ちた。崩れ落ちた塵が確かにその場に悪魔がいた事を証明したようだった。その証明もしばらくすれば風に舞い、存在の証明も難しくなるのだろう。


 ジェドはあっさりと悪魔を斬り捨て次の悪魔に向かう。レナンとアリアはジェドが向かった悪魔とは別の悪魔に向かった。


 シアの魔術による牽制の効果で隙だらけだった悪魔の喉にジェドは突きを放ち見事に刺し貫いた。喉に刺し込まれた剣を引き抜くと悪魔はゆっくりと倒れ込み、地面に伏して間もなく塵となって消滅する。


 最後の悪魔に襲いかかったレナンとアリアはその連携を遺憾なく発揮する。レナンが悪魔の懐に飛び込むと肝臓に強烈な一撃を叩き込む。蹈鞴を踏んだ悪魔の顔面にレナンが大きく回転させた打ち下ろしを叩き込んだ。

 レナンは十字に腕を交叉させて、悪魔の首を掴むとそのまま背負って投げ飛ばした。地面に落ちた瞬間にアリアが悪魔の胸を踏み砕き、膝を喉元に落とした。


 ゴギィという骨の砕ける音が響くと悪魔は何度か痙攣し動かなくなると塵となって崩れ去った。


「す、すごい……」


 ラウラがジェド達の戦いを見て感想を漏らす。あの悪魔達は決して弱い相手ではなかった。実際にラウラならばあの悪魔と戦って勝てるかどうか難しいと思っていたのだ。それをジェド達は何の困難も感じさせず斃したのだ。


「さすがはジェドさん達ね。あの悪魔達も運が悪かったわね」


 そこにアディラがメリッサとエレナを伴い馬車から出てきた。アディラはドレス姿であったが、靴は墓地の見回りに使用するものを履いている。そして腰には革製のベルトを巻き付け、短めの剣を腰に差している。王女の格好に戦闘用の出で立ちというかなりアンバランスな格好であった。


「それにしても……あの冒険者達は悪魔が擬態してたのかしら………それとも…」


 アディラの発した疑問にシアが答える。


「おそらく何らかの儀式で無理矢理に悪魔に変貌させられたんだと思います。こちらに向かってくる時の様子は明らかにおかしかったです」


 シアの言葉にアディラは考え込む。


(第三者がいるということね……その第三者が私を狙ったのか、それとも術か薬の実験のどちらかしら)


 アディラの思案はすぐに中断される。一体の魔族がひょうと呼ばれる紐付き手裏剣で賊を刺し貫き、その絶叫が響き渡ったからだ。ひょうの紐は魔力で自在に動くらしく突き刺した賊の首に引っかけて無理矢理立たせていた。


「さて、やはり人間相手でも挨拶ぐらいはすべきだろうな」


 その魔族はニヤニヤと嫌らしく嗤いながらアディラ達の方に歩き出した。一歩進むごとに賊達が道を譲ろうと左右に分かれる。


「お前らも使うからおとなしくしていろ」


 魔族は賊達に冷たい視線を向けると空間にひょうが現れると凄まじい速度で賊達に放たれる。賊達の技量はヴォルグとロバートに殺気を向けられただけで戦意を失う程度のものだ。当然、魔族の攻撃を避けル事は出来すに顔面、延髄、喉、心臓に次々と突き刺さった。

 ひょうが突き刺さった賊達はピクピクと痙攣しそれが終わるとそのままクルリとアディラ達の方に向く。何人かの賊はまだ生きているようだが、それも時間の問題だった。


「カガラは、せっかちで困るな」


 ひょうを放った魔族の背後からもう一体の魔族が現れる。背に大剣を背負っているその魔族にカガラと呼ばれたひょうを使う魔族はニヤリと嗤い答える。


「楽しいおもちゃが、ここまでたくさんいるんだから気が急くのも仕方ないんじゃ無いか? 俺はキュギュスのようにのんびりしないのさ」


 カガラは軽口で返すとキュギュスと呼ばれた大剣を背負った魔族は苦笑を浮かべる。


「お……レゴバルも来たか」


 カガラがアディラ達の後ろに視線を移す。一行はカガラ達に注意を払いながらもチラリと後ろを確認すると一体の魔族が3人の冒険者を率いて歩いてくるのが見えた。


 アディラ達一行は前後を挟まれた形になったのだ。


 だが、アディラは余裕の表情を崩さない。


「ウォルター達4人はの大剣を持った魔族を引き受けてもらうわ。そしてジェドさん達は冒険者を連れている魔族をやってちょうだい。私はあのひょうを使う魔族を片付けるわ」

「「「「はっ」」」」


 アディラの言葉に近衛騎士達が返答する。そして少し遅れてジェド達も頷いた。


「さて、それじゃあ、勘違いしている魔族の方々にこの世から退場してもらいましょうか」


 アディラの言葉は美しくも勇ましい、弓を持って魔獣を狩る月の女神エスメルの二つ名である『月姫げっき』そのものであった。



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