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剣神③

 倒れ込んだ悪魔の傍らにイリムは座り込んだ。その様子を見てアルティリーゼ達はイリムの元に駆け寄った。


 イリムの表情には疲労が色濃く浮かんでいたが、目には活力があり悪魔を斃した事を素直に喜んでいるようだった。


「流石はイリムね」


 アルティリーゼがイリムに声をかけるとイリムもそれに応えるように笑顔を見せる。


「イリム様、その魔剣は?」


 フォルグがイリムの手にある魔剣について説明を促した。今の今までイリムの使っていた剣は少々重いが普通の剣だと思っていたのだ。


「ああ、これは魔剣『ダイナスト』、リオニクス家に伝わる魔剣だ」


 イリムの言葉に今度はディーゼが尋ねる。


「そのダイナストがなんで今までイリムの剣の中にあるわけ?」


 ディーゼの疑問はもっともな事である。剣の中に魔剣が隠されているというのは中々無いシチュエーションだ。


「俺は父上に使っていた剣をもらったんだが、まさか中にダイナストがあるとは……」

「つまりイリムも知らなかったというわけ?」

「ああ、幼い頃に父上にダイナストを見せてもらった事があったためにすぐにこの剣がダイナストである事はわかったんだ」

「……ちょっと待ってくれるかな」


 ディーゼはイリムの言葉に疑問点が生じたために確認するような口調でイリムに尋ねる。


「イリムは今まで使ってた剣がダイナストである事を知らなかったのよね?」

「ああ」

「その割には自信満々で悪魔の炎に向かっていったと思うけど?」

「向かっていったな」

「その魔剣に頼ったわけじゃなかったの」

「実はそうなんだ」


 イリムの返答にディーゼだけでなくアルティリーゼ、フォルグも目を見開く。イリムは根拠が魔剣という根拠があってあの炎の中に飛び込んだというわけではなかったのだ。


「それではイリム様は自身の魔力だけであの炎を制するおつもりだったのですか?」


 フォルグの言葉にイリムは頷く。


「ああ、あの時この悪魔が俺よりも実力的には上だという事はわかっていたが、あそこは引くべきじゃないと考えたんだ。俺の目的はアインベルクを斃す事だ。そのためには今よりも強くならなければならない。そのためには危険な方法であっても選択する必要があると思ったんだ」

「それが結果的に……」

「ああ、ダイナストを手に入れるという表現であってるかどうかはともかく、手にすることが出来た」

「なるほど……」


 イリムの説明にフォルグは納得したようだ。そこにアルティリーゼがイリムに尋ねる。


「イグノール殿がイリムにその魔剣を譲りたかったのはわかったけど、なんでわざわざ剣で覆うような事をしたの?」

「おそらく父上は俺がダイナストを使いこなせるようになるまで伏せておくつもりだったんだと思う。そして俺が使いこなせるようになったら覆っていた剣を外すつもりだったんだと思う」

「なるほどね。覆っていた剣は魔剣を封印するためでもあったわけね」

「ああ」


 アルティリーゼはイリムの説明に頷く。この魔剣を使ったときのイリムの消耗具合は相当なものだった。強力な力を代償無しに使うことは出来ない。


「その魔剣は相当、魔力を持っていかれるようね」


 アルティリーゼの言葉にイリムは頷く。


「ああ、この魔剣は込めた魔術の威力を爆発的に高めることが出来るが、その威力に比例して魔力の消費量も増えるんだ。2回使っただけで俺の魔力はほぼ底をついている」

「本当にとっておきというわけね」

「ああ、アインベルクとの戦いでは一発で決めないといけないな」


 イリムはすでにダイナストをどのように使ってアレンと戦うかに思いをめぐらしているようだ。その様子を見てアルティリーゼは小さく微笑む。


(まったく……イリムは私に心配掛けたと言う事をちゃんと考えてるのかしら)


 アルティリーゼは悪魔との戦いにおいて一切イリムに助太刀をしなかった。イリムのためと思っての行動であったが、本心を言えば心配で仕方がなかったのだ。もちろんイリムの強さは知っているし信頼もしているが、それとこれとは別である。


「それじゃあ、悪魔と契約をしてくれ」


 イリムが悪魔との契約を促す。


「そうね……」


 アルティリーゼは魔法陣を展開する。すると悪魔の周囲に五本の槍が突き刺さりそれぞれの槍が線で結ばれ五芒星を描き出した。


「悪魔よ……目を覚ましなさい」


 アルティリーゼが悪魔に声をかけると五芒星が輝き出すと悪魔の意識が戻る。悪魔の息は絶え絶えであり急速に生命力が失われていっているようだった。


「あなたの名前を聞かせてくれるかしら? わかっているだろうけどあなたは私と契約を結ぶしか生き残れないわ。わかってるでしょう。生命力が流れ出ている現状が」


 アルティリーゼの言葉に悪魔は素直に従う。悪魔は自分が敗れた以上、従う以外の選択肢がないことを知っていたのだ。


「俺の……名は…ジヴォード…」


 素直にジヴォードが名を答えた事で生命力の流出は名を告げる前よりも緩やかになったようだった。


「そう……私の名はアルティリーゼよ。たった今、あなたの主になったわ」

「わか……った」


 アルティリーゼが名乗り、主である事を宣言したときジヴォードの体から拳大の光が洗われアルティリーゼの左手に吸い込まれていく。光を吸収したアルティリーゼの左手の甲には一つの小さな星が刻まれている。


「これで契約は成立ね」


 アルティリーゼはそう言うとジヴォードに治癒魔術を施す。アルティリーゼの治癒魔術の腕前はそうそうなものであったがジヴォードの傷は思ったおりも深く回復にはそれなりの時間を要したが、何とか立ち上がるぐらいには回復する。


 回復したジヴォードは忌々しげにイリムを睨みつけていたが何も言わない。たった今主となった少女がイリムに対しての無礼を許すとは思えなかったからだ。


「それでは用が出来たら呼ぶからそれまでは戻ってなさい」


 アルティリーゼがそう言い指を鳴らすとジヴォードの姿がかき消える。元いたところに送り返したのだ。


「ふう」


 アルティリーゼが安堵の息を吐き出す。ジヴォードを配下に加える事が出来た事に対する安堵の息だったのだ。アルティリーゼのような強大な魔力を持つ者であっても、ジヴォードのような上位悪魔を調伏出来るのは難しい。上手くいったのは僥倖というべきものだった。


「やったな。アルティ」


 イリムが嬉しそうにアルティリーゼを愛称で呼ぶ。


「ええ、イリムのおかげよ」


 アルティリーゼは笑顔を浮かべる。フォルグとディーゼに視線を移すと2人に言う。


「次はフォルグ、ディーゼね」


 アルティリーゼの言葉にフォルグとディーゼは頷く。この後、フォルグとディーゼはアルティリーゼの期待に応えてもう一体の上位悪魔を斬り伏せることに成功する。この日、2体の最上位悪魔がアルティリーゼの傘下に入る事になった。


 これ以降、アルティリーゼの勢力は加速度的に強大化していくことになる。


 その事をアレン達は未だに知らなかった。

 ありがたいことに、本作『墓守は意外とやることが多い』が一二三書房様より書籍販売されることになりました。


 これも読者の皆様方の応援のおかげです。本当にありがとうございます。


 詳細は活動報告、今後の後書きなどで書かせていただきたいと思います。

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