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剣神②

 イリムは一瞬で悪魔の間合いに入ると剣を振るう。間合いを詰める技術も放たれた斬撃も素晴らしいと称されるしかないものだ、一流の剣士であってもこれで勝負を決せられても不思議ではない。

 だが、悪魔はそのイリムの斬撃を余裕でまさかりの柄で受ける。そして次の瞬間に悪魔は炎を吐き出した。


「く……」


 突如放たれた炎であったがイリムは後ろに跳び、なんとか直撃を避けることに成功する。だが、悪魔はこの炎でイリムを斃すつもりはなかった。流れをつかむための布石と思っていたために炎を躱されても落胆はしない。

 悪魔は炎を躱したイリムが体勢を取り戻す前に間合いを詰め、鉞をイリムの頭に振り下ろした。イリムはその一撃を剣で受け流すが、悪魔はそこから連続攻撃に出る。


 鉞を振り下ろした直後に柄でイリムを殴りつける。それをイリムが躱すと今度は鉞の部分を放つというふうに交互に攻撃を放ち続ける。悪魔の攻撃は速く、隙もほとんど見えない。イリムは悪魔の攻撃をまともに受けるようなことは一切せずに受け流しに徹する。


 悪魔の鉞の一撃が足下に放たれるのをイリムは跳んで躱した。悪魔はニヤリと嗤い空中のイリムに鉞の一撃を見舞う。空中である以上避けることは叶わない。悪魔は剣で受けるとしてもそのままその膂力で吹き飛ばすつもりだったのだ。


 だが、ここでイリムは予想外の行動に出た。左手から魔力を放出し空中で方向転換したのだ。悪魔の鉞は空を斬ると今度はイリムが打って出る。


 イリムは足下に斬撃を放つ。悪魔はその斬撃を鉞の柄で受け止めようとするが柄に触れる瞬間にイリムの斬撃は軌道を変え悪魔の顔面に放たれた。


 悪魔は軌道が突然変わった事に面食らったがなんとか顔を捻ってイリムの剣を躱すことに成功する。


「はっ!!!」


 体勢の崩れた悪魔にイリムは魔力の塊を放った。まともに食らった悪魔は吹き飛ばされ地面を転がった。この絶好の機会にイリムは追撃を行わずに逆に間合いをとった。イリムが追撃を行わなかった理由は、イリムが悪魔の目を見たのが理由だった。イリムは悪魔の目は冷静に状況を把握している目であり、誘いの可能性が強いと察したからであった。


(誘いには乗ってこなかったか……ガキのくせに冷静だな)


 追撃のこなかった事に悪魔は舌打ちしつつすぐに立ち上がった。イリムが察したように悪魔は追い詰められてはいなかったのだ。吹き飛ばされた一撃も半分はわざと受けたのだ。イリムが追撃をしてくれば即座に反撃を行うつもりだったのだ。


「強いな……まぁ、これぐらいはやってくれないとな」


 イリムの言葉に悪魔は目を細める。イリムの言葉に余裕の感情が含まれている事を訝しんだのだ。悪魔はイリムとの先程の攻防で僅かではあるが実力的に上回っている事を察していたのだ。


(俺の方が強いと言う事はこの小僧もわかっているだろうに……何かしら奥の手があると言うことか? だが、それは俺も同じ事だ)


 悪魔は魔法陣を展開した。すると魔法陣から炎が巻き起こり悪魔に纏わり付く。まるで炎の衣を身に纏っているようにも見えた。悪魔の纏う炎のために一気に召喚場内の温度が上がっていく。


 アルティリーゼは防御陣を展開し悪魔の炎を遮断する。しかし、アルティリーゼの防御陣はあくまで、自分とディーゼ、フォルグの周囲にしか展開しておらず、イリムを守るものではなかった。


 イリムもアルティリーゼ同様に自身に防御陣を形成する。そのために場内の温度の上昇に対しては対処できたが、あくまでも余波に関してだけだ。もし直接受ければイリムの防御陣をあっさりと撃ち抜くのは間違いなかった。


(あちらも本気になったと言う事か……よし…こちらもいくか)


 イリムはニヤリと嗤うと自身の剣に魔力を注入して強化すると悪魔に向かって間合いを詰める。イリムが迷い無く踏み込んだことに悪魔はニヤリと嗤う。悪魔は炎を纏った鉞を横に振るうと炎がイリムに放たれた。


 相当な熱量でありイリムは一瞬で黒焦げになるはずであった。悪魔はその光景を予測してニヤリと嗤ったのだ。


 だが、一瞬後には悪魔は驚愕の表情を浮かべていた。


 イリムが放たれた炎をもろともせずに突っ込んできたからだ。イリムが自らの前に掲げた剣が冷気を放ち炎を相殺していたのだ。


(そんなバカな……この小僧の放つ冷気が俺の炎を上回るなど……)


 悪魔は再び鉞を振るい今度は直接イリムに直接炎を放った。いかにイリムの放つ冷気が強力でも自分の炎を直接ぶつければ灼き尽くすはずと思ったのだ。


 ギィィィィィン!!!


 悪魔の炎を纏った鉞の一撃をイリムの剣が受け止める。イリムの剣は冷気を放ってはいるがそれを悪魔の炎が上回ったのだろう。イリムの剣が熱に耐えかねて溶け始めるのを見て悪魔は嗤う。


(ふん、やはり……俺の炎に耐え切れ……な)


 しかし、悪魔はイリムの剣が溶解した中にもう一本剣が現れた事に気付いた。中の剣が姿を見せるにしたがって放たれる冷気が強力になってくる。イリムの放つ冷気と悪魔の放つ炎の力の差は急激に狭まり、中の剣が完全に現れた時には完全に逆転していた。


「そ、そんな……バカな……」


 自分の炎に絶対の自信を持っていた悪魔はこの状況に戸惑いを隠せない。イリムの剣から放たれる冷気はついに悪魔の炎を消し悪魔の体に氷が張り始める。


「くそがぁぁぁぁぁ!!!!」


 悪魔は鉞を振りなんとかイリムを弾く。イリムはふわりと着地すると悪魔に余裕の表情を向けた。悪魔の声には動揺がはっきりと含まれている。それだけイリムの放った冷気は悪魔にとって規格外のものだったのだ。


「その剣は……何だ?」


 悪魔はイリムに問いかけるが、その間も視線はイリムの持つ剣から離れない。イリムの持つ剣は刃渡り長さ80㎝程の片刃の剣で刃のついていない方に僅かに反っている。鍔元に魔石が埋め込まれている事から魔剣である事はわかるのだが、悪魔は自分の炎を相殺するような魔剣など見た事がなかったのだ。


「お前に教えるつもりはない」


 イリムはそう言うと再び冷気を放つ。悪魔はイリムの返答に侮辱されたと感じたのだろうイリムを睨みつけると咆哮する。


「つけあがるな小僧!!」


 再び炎が勢いを増し、凍り付いた部位の氷が一瞬で蒸発すると再び悪魔の体を炎が覆った。


 悪魔の咆哮を見てイリムは内心でニヤリと嗤う。悪魔の咆哮は威嚇であり、自身を奮い立たせるものであることを察していたのだ。なぜそのような方法をとる必要があるのかを考えれば劣勢に立たされているからに他ならない。

 悪魔はもはやイリムに精神的に押され始めているのだ。イリムは結局の所、戦闘を決めるのは意識だと思っている。いかに身体的に優れていようと意識が負けを認めてしまえばそこで勝負は決してしまう。


 イリムは内心で勝利を確信している。あとはそれを確かなものにする段階に来たと思っていたのだ。


 イリムは先程、悪魔が鉞を振るって炎を自分にぶつけてきたように、剣を薙ぎ冷気の斬撃を悪魔に放った。


 放たれた冷気の斬撃を悪魔も炎を放ち相殺しようとしたが、イリムの冷気が上回る。炎を越えて到達した冷気を鉞で受けるが鉞が凍り付き、握っていた右手も凍り付いてしまった。


「ぐっ……」


 凍り付いた右腕に炎を纏い溶かそうと意識を向けた一瞬にイリムは間合いを詰める。悪魔はイリムを近づけさせないように鉞を横に振るうがイリムはその一撃を跳躍して躱すと悪魔の頭部に剣を振り下ろした。


 ガギィィィィィィィ!!!!


 悪魔は何とか鉞の柄で受け止める。悪魔は再び冷気が来ると考え身構えたがここでまたも予想外の出来事が起こった。


 イリムの剣が発したのは雷撃だったのだ。


「がぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!」


 予期せぬ雷撃を受けた悪魔はそのまま倒れ込んだ。倒れ込んだ悪魔の体を覆っていた炎が消え去る。


「ふう」


 悪魔が倒れ込んだ事を確認したイリムは安堵の息を吐き出しながら片膝をついた。

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