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剣神①

「とにかく無事で良かった」


 イリムがディーゼとフォルグに言葉をかける。レミアとの戦いの顛末を聞いた事に対するイリムの言葉にディーゼとフォルグは頷く。


 あの時、レミアが転移魔術で去った後にディーゼもフォルグもレミアの作戦と思い、しばらくその場から動くことが出来なかったのだ。気配が一切しないのはレミアが完全に気配を絶っており自分達の隙を伺っていると考えたのだ。レミアの実力から考えれば自分達に恐れを持っているとは思えなかったのだ。


 いつまで警戒しても現れないレミアに対して、ようやく2人はレミアが撤退したことを察した。その時、ディーゼとフォルグは安堵の息をもらしたものだった。


 その後、周囲を捜索するとゴルヴェラ4体の死体が見つかり、レミアの実力の高さを再確認させられたのだ。転移魔術でベルゼイン帝国に戻り、事の顛末をイリムに報告したというわけだった。


「それにしても、そのレミアというはとんでもない実力者ね」


 アルティリーゼの言葉にイリム、ディーゼ、フォルグは頷く。


「ああ、単純な戦闘力だけでなく、冷静に状況を分析し的確な手段を選択する」


 イリムは感心したように言う。単純に戦闘に自信がある者ならばイリムはここまで感心する事はない。なぜならば戦闘だけの者は引き時を誤ってすぐに死ぬからだ。


「私も自惚れてたわ。人間だからという事で見下していたのが恥ずかしいわ。種族とかそういうことじゃなく強者は強者なのよね」


 ディーゼの恥じ入るような言葉に全員が同意する。魔族は人間よりも種族的に魔力、身体能力において上回っているのは事実だが、アインベルク関係者に対してはそれが当てはまらない事を再確認したのだ。


「確かにな。あの娘が引かなければ、どちらかは殺されていた」


 フォルグの言葉にディーゼも頷く。


「やはり、このままでは墓守に勝つことは出来ないな……」


 イリムがそう言うとアルティリーゼが答える。


「そのためには戦力強化が必要よ。イリム……今回はイリム1人でやってもらうわね」

「ああ、ディーゼ、フォルグはアルティの護衛を頼む」


 イリムの言葉にディーゼとフォルグは頷く。アルティリーゼの実力ならばよほどの相手でなければ護衛など不要なのだが、イリムの言葉はディーゼとフォルグに“余程の相手”である事を思わせるには十分なものだった。


「儀式は明日行うから、みんなそのつもりで」


 アルティリーゼの言葉に全員が頷いた。



 * * *


 翌日、リオニクス邸の地下にある召喚場にアルティリーゼ、イリム、ディーゼ、フォルグの4人が立っている。


 召喚場とは召喚の儀式を行うための施設である。召喚術は基本、大した実力がない者しか呼び出すことは出来ない。それも当然で強者を何の制限もなく召喚し使役するという事は不可能なのだ。

 だが、それでは戦闘に役に立たない者ばかりしか召喚する事は出来ない。それではまったく使えないために召喚術は早々に廃れてしまうだろう。そこで召喚場で儀式を行い強大な力を持つ者を召喚し、調伏を行って使役するのだ。


 その際に激しい戦いが展開されることが多いために召喚場には、強力な結界が張られており召喚場の外に影響が出ないようにしているのだ。


 ちなみにカタリナの使う地竜アースドラゴン土人形ゴーレムは、召喚術と言うよりもアレン達の瘴操術により形成される彫刻に近い。


「さて……準備は良い?」


 アルティリーゼの言葉に全員が頷く。全員が頷くのを見てからアルティリーゼは魔法陣を展開する。魔法陣の中心から一本の腕が現れる。まるで水中から陸に上がるような状況だ。突き出た腕が床を掴むと底を支点に召喚されたものが浮かび上がってくる。頭部が、体が足がその姿を現してくる。そして召喚された者は立ち上がるとニヤリと嫌らしい嗤いを浮かべる。


 それは身長2メートル50センチ程の悪魔だった。頭部に一本の角が生え、耳は尖り、口元には不揃いの牙が生えている。筋骨逞しく腕の太さは間違いなく女性の太股を上回っている。下半身には革製のズボンに意匠の入った前掛けを身につけている。


『貴様らが俺を召喚したのか?』


 悪魔が傲然と言い放った。同時に悪魔から凄まじいばかりの威圧感が叩きつけられる。アルティリーゼに対して一切の敬意を払わないが、アルティリーゼは別段気にした様子もない。


「ええ、その通りよ」


 アルティリーゼの返答に悪魔は笑い出した。


『ははははは!! どんな強者が俺を召喚したと思えば貴様のような小娘とは思わなかったぞ』


 悪魔の声には挑発の成分が多分に含まれている。それでもアルティリーゼはまったく平常心を失うことなく悪魔に応対する。


「こちらの要望は単純よ。私に仕えなさい」


 アルティリーゼもまた傲然と言い放つ。その姿からは支配者だけが持つ不可侵的な威厳のようなものが感じられる。一方で傲然と言い放つアルティリーゼに悪魔は気分を害したようだ。


『舐めるなよ小娘!! この俺を駒としたいのなら力を示すが良い』


 悪魔の言葉にアルティリーゼは嗤う。


「もちろんそのつもりよ。但し戦うのは私じゃないわ。あなたの相手は彼よ」


 アルティリーゼがそう言うとイリムが進み出る。


『貴様が俺の相手だと?』

「ああ、そうだ」

『貴様如きが俺にかなうとでも思っているのか?』

「もちろんだ。貴様を斬り伏せ、お前は俺達に仕えさせる」


 イリムの言葉に悪魔の不快感は否応にも増したようで悪魔の放つ雰囲気に怒りが含まれ始める。


『やれるものならばやってみろ!!』


 悪魔はそう言うと空間に手を突っ込むと一本のまさかりを取り出す。全長2メートル超、まさかりの部分だけでも5~60㎝はある。凄まじい重量を思わせる鉞を悪魔は軽々と腕一本で持っている事から悪魔の膂力の凄まじさを表していた。


 悪魔が武器を構えた事でイリムの腰に差した剣を抜く。


 イリムの視線が一瞬アルティリーゼに移されるとその意図を察したアルティリーゼは頷くとディーゼ、フォルグの元に下がる。


『ふん……すぐに貴様もあの女も真っ二つにしてやる』


 悪魔のわかりやすい挑発にイリムは動じることなく構えをとる。


(いきなり……かなりの強者が来たな……アルティは俺の訓練も兼ねようという心づもりらしいな。せっかく機会を与えてくれたのだからご期待には応えさせてもらうか)


 アルティリーゼの意図を察したイリムはニヤリと嗤い悪魔に斬り込んだ。



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