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戦姫Ⅲ⑦

 新手の登場にあってもレミアに動揺した様子はなかった。その事にディーゼはい警戒を強める。


 自分1人ならばレミアが動揺しないのも当然だ。だが、この場にはフォルグが現れた事により2対1という不利な状況になったのにも関わらず動揺していない。レミアがフォルグの力量を誤るとはディーゼには思えなかった。と言う事はレミアはディーゼとフォルグを相手取ってなお勝利を収める地震がるということだ。


(く……これが戦姫……とんでもない強さね)


 ディーゼがそう考えた所にフォルグから声がかかる。


「ディーゼ、この女に1人で戦おうなど迂闊すぎるぞ」


 フォルグの言葉にディーゼは素直に自分の非を認める。レミアが強いというのは前情報で仕入れていたのだがこれほどの腕前とは思っていなかったのだ。


「すみません……。御助勢いただけますか?」


 ディーゼの言葉にフォルグは頷く。


「エルカネスもすぐ来るからそれまで粘るぞ」


 フォルグの言葉にレミアもまた警戒を強める。もたらされた情報からまた新手が来る可能性が示唆された事に対して、レミアは戦いを継続するか、撤退するかを考える。


(まぁ、撤退をするのは当然だけど、このフォルグという男の実力をもう少し探っておくか……)


 レミアはフォルグに向かって走り出す。レミアの初動は限りなく静かであり、フォルグはレミアが動いた事に気付いた時にはすでに間合いの中に踏み込まれていた。


「くっ」


 フォルグはレミアの上下同時に放つ斬撃を躱す事に成功する。レミアの喉を狙った斬撃をフォルグは上体を逸らして躱し、足への斬撃を自身の魔剣で受けたのだ。

 フォルグがレミアの斬撃を躱す事が出来たのはディーゼのおかげである。ディーゼもまたレミアと同じように上下同時に斬撃を放つという技を使っていたのだ。


(初見なら躱せなかっただろうが……ディーゼの技を見ていたのは幸いだったな)


 フォルグがそう思った時にレミアは打ち合った剣を支点にして体を横にしたまま蹴りを放った。


 ビギィ!!


 かろうじてフォルグは空いていた左腕でその蹴りを受け止める事に成功するがその凄まじい威力のためにフォルグの左腕にヒビが入った事をフォルグは感じる。

 レミアは地面に降り立った時にはすでに体勢を立て直している。


(このフォルグという男もかなりの強さね。やはり2対1だと分が悪いわね……)


 レミアはニヤリと嗤うと踏み込もうとしたディーゼに殺気を放った。その殺気を受けたディーゼは踏み込むのを思いとどまり、レミアの次の一手に備える事を選択する。


 フォルグもまた左腕を負傷した事とレミアの放たれた殺気に踏み込むことを躊躇する。


 ディーゼとフォルグはレミアの次の一手に対処するためにレミアの動きを注意深く観察する。フォルグとディーゼはレミアがどちらを狙っても一太刀で斃すことは出来ないため、その時にもう1人がレミアを討つつもりであった。


 しかし、ここでレミアの行動は2人の予測を大きく上回る行動に出る。レミアが突然消えたのだ。


「な……」

「え?」


 レミアが煙のように消えた事にフォルグとディーゼは周囲を伺うがまったく気配を感じない。2人はお互いに顔を見合わせ戸惑いの表情を浮かべていた。



 * * *


「ふ~~」


 レミアが安堵の息を漏らした。現在レミアがいるのは拠点としていた巨木の上である。レミアは殺気をディーゼ達に放ちながら転移魔術を静かに展開していたのだ。


 もちろん目的は撤退するためである。殺気で威嚇した事によりディーゼ達は攻撃を仕掛けてくると思い受ける事を選択した。その事自体は誤りでも何でもない、さらなる新手が現れる可能性がある以上当然の行動だ。


「さて……キャサリンさんのお弁当は戻ってからじっくりと食べることにするか」


 レミアの声にはぼやきにも似た感情が含まれている。レミアにしてみればピクニック気分で採集に来てみればゴルヴェラと戦闘になり、それを退ければ今度は魔族との戦いになったのだからぼやきたくもなるというものだった。


「それにしても……あのディーゼという魔族とフォルグという男は結構厄介ね。フィアーネの話ではあと4人いるという話だし、こちらも備える必要があるわね」


 レミアは再び転移魔術を展開するとアインベルク邸に転移をした。


 ぐにゃりとした視界が戻った時にはレミアはアインベルク邸の庭に立っている。


御方おんかた!!」

「ははぁ!!!」


 庭にはナシュリス達ナーガ達がおり、レミアの姿を見つけると一斉に平伏する。レミアとしてみれば、そんな露骨に怖がらなくたってという思いがあるのだが、ナシュリス達にとってレミアは絶対の支配者であったため、当然の行為であった。


「あ、ただいま」


 レミアが挨拶をするとナシュリス達はまたも一斉にレミアへ挨拶を行う。


「「「「「「お帰りなさいませ!!!」」」」」」


 レミアはナシュリス達の挨拶に曖昧に微笑んだ。


「それじゃあ、みんな仕事頑張ってね」

「「「「「「はっ!!」」」」」」


 レミアはナシュリス達に声をかけるとアインベルク邸に入っていく。時間的に昼食が終わった時間帯なので、とりあえずアレンに事のあらましを伝えようと思い、執務室に向かった。


 コンコン……


 レミアが執務室の扉をノックすると中からアレンが入室を促す言葉を言うとレミアは執務室に入る。


「レミアお帰り」


 アレンがレミアを見ると頬を緩ませる。アレンは婚約者達に話しかけるときに柔らかい表情を向ける事が非常に多かった。その柔らかい表情を見るのはレミアは大好きだったのだ。


「うん、ちょっと耳に入れておきたいことがあって。時間大丈夫?」


 レミアの言葉にアレンは快く頷く。


「もちろんだ。そこに座って」


 アレンが着席を勧めるとレミアは素直に従い、執務室のソファに腰掛けるとアレンもレミアの正面のソファに座った。


「それでどうしたんだ? 何があったんだ?」

「うん、今日採集してたら、ゴルヴェラに襲われたの」

「ゴルヴェラに?」

「うん、とりあえず撃退したんだけど、その時にいくつか情報を仕入れたから伝えておくわね」

「ああ」


 レミアの言葉にアレンは真剣な表情を浮かべてレミアの話を聞く。


「どうやらゴルヴェラの間で私達は賞金首のような位置付けになっているみたい」

「賞金首?」

「うん、エギュリムとか討ち取ったでしょう。その報復をゴルヴェラ達の指導機関らしき長老会とかが決定したらしいの」

「ほう……良い度胸だな」

「まぁ、私もそう思うけどね。今回私を襲ったゴルヴェラ達は長老会の命令と自分の功名のために参加したらしいのよ」

「なるほど……ゴルヴェラが俺達を狙って、これからちょくちょくとちょっかいを出してくるというわけか」

「うん、これからは単独行動を出来るだけ控えた方が良いのかも知れないわね」

「確かにな」


 レミアの提案にアレンが頷く。そこにレミアが続けて言う。


「それから、イリムの仲間と思われる魔族の襲撃も受けたわ」

「交戦したのか?」 


 レミアの情報にアレンは即座に尋ねる。アレンの質問にレミアは首を静かに縦に振る。


「ええ、私が交戦したのはディーゼという魔族で私同様の双剣の使い手ね。もう1人はフォルグという魔剣を使う剣士よ。そしてフォルグはかつて凶王と呼ばれた男ね」

「そうか、腕前はどうだった?」

「そうね、1対1ならおくれを取るつもりはないわ。でも2対1だとかなりまずいわね」

「レミアがそう言うのなら、かなりの実力者というわけだな」


 アレンはレミアの実力を高く評価しているのは周知の事である。そのレミアが2対1では分が悪いと感じたと言う事はアレンもまた同様に分が悪いという事である。


「ええ、2対1でも勝利することは出来るかも知れないけど相当な無茶をする必要があるわ」

「そうか……イリム殿達の方も色々とこちらの事を探り始めたという事だな」

「うん、こちらも色々と備える必要がありそうね」

「そうだな。ありがとうレミア、手に入れてた情報のおかげで色々やるべき事が見えてきたよ」


 アレンの言葉にレミアは微笑む。単純にアレンの役に立てた事が嬉しいのだろう。


「それにしても、魔神に加え、イリム殿、魔族、ゴルヴェラか……一つずつ潰さないといけないな」

「そうね……でも、基本向こうからやって来るのを叩くという基本スタンスは変わらないわよね?」

「そうだな。基本は迎え撃つ事になるな」

「だったら十分に勝算はあるわ」

「だな」


 アレンとレミアは笑い合う。2人とも別に相手を甘く見ているわけではない。だが、2人は負ける気が一切しなかった。信頼する仲間達の顔を思い浮かべると負ける気が一切しないのだ。


「さて、それじゃあレミアはゆっくりと休んでてくれ」


 アレンがそう言うとレミアは言い辛そうな表情を浮かべた。その表情を見たアレンはレミアに尋ねる。


「レミアどうしたんだ?」


 アレンの言葉にレミアは意を決したように口を開く。


「ね、ねぇアレン、絶対に邪魔しないからアレンの仕事しているところ見ていて良い?」


 レミアの言葉にアレンは微笑むと頷く。それを見てレミアはぱっと顔を輝かせた。アレンはせっかくの休みの日にレミアが自分と少しでも一緒にいたい気持ちでいることを察したのだ。


「レミア、ちょっと待っててくれ。すぐに仕事を終わらせてサロンでゆっくりしよう」

「うん」


 アレンの言葉にレミアは微笑む。午後の時間はアレンと過ごせることなり、どんな話をしようかとレミアはアレンが仕事を終えるまでに考える事になったのだ。


(えへへ~嬉しい休日になったわ♪)


 レミアはアレンの仕事をする姿を見て心からそう思うのだった。

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