表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
401/602

戦姫Ⅲ①

 今回はレミアが主役です。

「アレン、明日の休みなんだけど、私ちょっと森に採集に行こうと思ってるの」


 国営墓地の見回りを終えてアインベルク邸に戻る途中にレミアがアレンに言った。


「それは構わないが、1人で行くのか? 」


 アレンが少し残念そうな表情を浮かべながら言う。明日は王城へ出仕しなければならないためにレミアの採集に付いていくことが出来ないのだ。そして、フィアーネ、フィリシア、カタリナもそれぞれ用があるために付いていくことが出来なかったのだ。


「うん、そのつもり」


 レミアとすればアレンが王城に出仕する日を狙って採集に出かけるつもりだったのだ。アレンが仕事で屋敷にいないと言う事はアレンとの時間を過ごせないという事であり、レミアとしてみればその時間を使って採集にいくというのは至極当然だったのだ。


「そうか、一緒に行きたいがそれも叶わないな。レミアの実力なら余程の事がない限り問題無いだろうがそれでも十分に注意してくれ」


 アレンの言葉にレミアも頷く。確かにレミアの実力は桁違いに高いのは間違いないのだが、戦いに絶対が無い以上、油断するわけにはいかないのだ。


「わかってるわ。いざとなったら転移魔術で逃げ出すからその辺りは安心して」


 レミアの言葉にアレン達は一応納得する。全員がレミアの事を信頼している事がその背景にあるのは間違いなかった。


「レミア、気を付けてね。どうも最近私達が1人になるとそれを狙ってちょっかいを出す傾向にあるわ」

「確かにフィリシアもこの間に襲われたし、魔族も狙ってくるだろうから気を付けないとね」


 フィリシアとフィアーネがレミアに注意を促す。ここ最近、アレン達を狙って周囲で騒がしいのは事実だったのだ。


「わかったわ。確かにそれは言えるわね。それだったらアレン達もそうね。みんなも十分に気を付けてね」


 レミアの言葉にアレン達も頷く。王都の外にでるレミアよりかは危険性が少ないとはいえ、アレン達も単独行動をする以上、注意するに越したことはないのだ。


「それじゃあ、明日は私は森に採集に行ってくるわね」


 レミアの宣言にみんなが頷いたのだった。


 * * *


 翌日、レミアは朝食をとるとキャサリンから弁当を手渡される。キャサリンにお礼を言いレミアは早速採集に出かける。


 レミアの装備はいつもの双剣に革鎧を身につけた簡素なものに加え、採集用の小さな籠、投擲用のナイフを十本と直径1~2㎝の鉄球を左右のベルトポーチに入れていた。


(今日はアバノスの葉とイクワズの根だけだからそんなに時間はかからないわよね。その後にキャサリンさんのお弁当を食べる……最高だわ)


 レミアの頬はついつい緩んでしまう。レミアはキャサリンの料理が大好きなのだ。キャサリンの料理は素朴だが非情に美味しく。一流の料理人と比べても決してひけを取る者でではない。


 レミアは王都を出てそのまままっすぐ目的の場所に向かう。アバノスの葉は消毒作用が、イクワズの根には解熱作用があるのだ。レミアが採集に出かける理由は傷薬を作るのがその主な目的だったのだ。


 街道を逸れて森の中をどんどんレミアは歩いて行く。途中でゴブリン、オーク、オーガなどと出会ったが、レミアが殺気を放って威嚇するとあっという間に逃げ出していった。別に今回は彼らの討伐が目的でないためにわざわざ斃す事もないと思っていたのだ。


 他の人の安全を考えれば斃すべきだったのかも知れないが、ここでレミアが片っ端から斃してしまえば王都の冒険者が収入の方法を一つ失う事になるため、すべきではないとレミアは考えたのだ。

 

 レミアは魔物が現れれば殺気を放って追い散らし、目的の場所に向かっていく。


「ついた……」


 レミアは目的の場所につくとさっそく採集を始める。アバノスの葉を投擲用のナイフで切り取り、採集用の駕籠に入れる。目的のアバノスの葉を採集すると次はイクワズの根を掘り出す。


 わずか30分程でレミアは目的の採集を終える。それほどの量が必要ではなかった事もあり、今日の目的の一つは果たした事になる。あとはもう一つの目的であるキャサリンの作ってくれた弁当を食べてのんびりしてアインベルク邸に戻るだけだ。


「えへへ、キャサリンさんは何を作ってくれたのかしら♪」


 レミアはニコニコしながら弁当を食べるためにお気に入りの場所に移動する事にする。レミアは森に採集によく訪れているので、当然お気に入りの場所をいくつかもっていたのだ。


「今度はみんなでピクニックっていうのもいいかもね」


 レミアの口から楽しそうな声が漏れる。だが、次の瞬間にレミアは表情を引き締める。


(誰かが私を見ている? はぁ……しかも結構な実力者という事かしら…)


 レミアは自分を見ている何者かの視線に気付いた。レミアが察知した視線の数は3つだ。


(どうしようかしら……さっさと撤退すべきかしら…それとも迎え撃つべきかしら…)


 レミアは心の中で自分を見る相手が敵であると断定して思考を巡らせ始めた。レミアに視線を送っている相手は気配を殺していたことからレミアに対して害を及ぼそうとしているとレミアは判断したのだ。


 レミアは口に手をやり考え始める。安全策をとるのならば間違いなく現時点で転移魔術でアインベルク邸に戻ることであるが、それでは相手に作戦を考える時間を与えることになる。撤退するにしても相手の情報を仕入れる必要があるのだ。


 結局の所、レミアは戦闘という選択肢を採用する事にしたのだった。


 レミアは森の中を歩きながら相手の視線から外れる死角を探し始める。追跡者との距離は大体200メートル程だ。ほぼ真後ろの位置して気配を殺しながら付いてきていた。


(ここね……)


 レミアは樹齢2~300年はあろうかという巨木の陰に入った瞬間にレミアは跳躍する。追跡者達からすれば巨木の陰という死角のためにレミアの姿は見えない。レミアは静かに巨木の上に身を隠す。追跡者からすればそのまま先に行ったと勘違いする

レミアは思ったのだ。やりすごしてから背後をとるというのがレミアのとった作戦だったのだ。


 レミアは気配を殺し、追跡者を確認する。


(ゴルヴェラ? どうしてこんな所にゴルヴェラが……)


 レミアの視線の先には3体のゴルヴェラが歩いてくるのが見えた。以前戦ったゴルヴェラの身体的特徴である側頭部にある角、蠍のような尻尾が見える。魔族にもにたような身体的特徴を持つ種族がいるが、放つ気配が魔族特有のものではないことからレミアはゴルヴェラであると判断したのだ。


 3体のゴルヴェラは立ち止まるとレミアの方に嘲りを含んだ視線を向ける。その視線を見てレミアはゴルヴェラが自分の居場所を把握していることを察する。


(……ばれた。感知能力は以前戦った連中よりも上ということ?)


 レミアがそう思った時にゴルヴェラ達から声がかかる。


「そこにいるのはわかってる。出てこい」


 ゴルヴェラの言葉にレミアは籠と弁当を巨木の上に置いてからゴルヴェラ達の前に姿を見せる。ゴルヴェラ達はレミアが姿を見せた事にニヤリと嫌らしい嗤いを浮かべる。ここまで彼らの想定内なのだろう。

 一方でレミアはゴルヴェラ達の立ち位置を確認する。ゴルヴェラ達はお互いがフォローし合えるような立ち位置であった。


「降りてこい」


 ゴルヴェラ達の声にレミアは巨木から飛び降りた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ