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傭兵⑱

 魔人が消え去ったところで、アレン、アルフィス、ジェドはそれぞれ剣を抜くと呆然としているリンゼル達の元に歩き始めた。


 炎獄魔人エメンアゴルが猛威を振るい所々にすでに焼け死んだリンゼルの団員達の死体が転がっている。アレン達が団員達の方に向かって歩いてくるのに気付いたミュリムは残った部下達に命令を下してアレン達を迎え撃つ。


「敵は3人、しかも人間だ。全員で嬲り殺してやれ!!」

「ああ、言われるまでもねぇ、ぶっ殺してやる!!」

「俺にやらせろ!! 汚え手さえ使われなければ人間如き相手じゃねえんだよ」


 ミュリムの言葉に団員達はいきり立ち雄叫びと凄まじい殺気をアレン達に向けて放つ。


 アレン達は歩きながら苦笑する。ミュリム達の雄叫びは自らが劣勢に立った事を自覚しての虚勢であることをアレン達は見抜いていたのだ。

 リンゼル達は、この国営墓地を戦場ではなく狩り場ととらえており、リンゼル達の中では獲物はアレン達だったのだ。ところがここは狩り場ではなく戦場だったのだ。いや、リンゼル達にとってはやはり狩り場だったのかも知れない。ただし、狩られるべき獲物は自分達であり、当初とはまったくの真逆に感じていたのだ。その落差がすでに彼らから冷静さを失わせていたのだ。


「汚い手……か、あいつら傭兵としては三流だが、人を笑わせるのは一流だな」

「アルフィス、笑わせるというよりも『笑われる』というのが正しいな」

「ああ、そう言われればそうだな。似て非なるってやつだな」

「まぁ、この土壇場でズレた事をほざけるんだから、よっぽど甘い戦いしかしてこなかったんだろうな」


 アレンとアルフィスの会話は不自然な声の大きさだった。ミュリムの率いる部下達は13名、アレン達からすればまったく数が足りないのだ。


 ジェドはアレンとアルフィスが近くにいるという安心感から他の戦いの様子を伺う余裕がありそちらに目を移す。


(シア達のところ……おいおい、なんだ? あの竜……)


 ジェドはシア達の方向に目をやると三つ首の竜がリンゼル達に襲いかかっているところが見えた。ジェドの目にはシア達の場所はもはや勝負が決したように思われる。


(フィアーネ達の……うわぁ…容赦なく射殺されているな…)


 次いでフィアーネ達の戦闘の方向に目をやるとアディラが容赦なくリンゼル達を射殺しているのが目に入る。そして、盾を持った魔族達が前面に立ち陣形を整えているのが見える。そこにフィアーネ、レミア、フィリシアがアディラ達の前に立っている。


(ああ、あの連中……可哀想にな…あの3人と白兵戦って…)


 ジェドはフィアーネ達と白兵戦を行う事になるリンゼル達に正直なところ同情する。どう考えても理不尽な暴力に晒されているのはこちらなのだが、現実は非情だと思わざるを得ない。


「ジェド、とりあえず他のみんなも始めたようだから俺達も始めよう」


 アルフィスの言葉にジェドは頷く。先程までフィアーネ達と白兵戦を行う事になったリンゼル達に同情したのだが、こちらのアレンとアルフィスと戦うことになる魔族達も大概不幸だと思ったのだ。


「アレン、ジェド、とりあえず急ごうか。じゃないと待たせることになるからな」

「そうだな……あんまりノンビリやってるとみんなに悪いからな」

「えっと……2人の足手まといにならないようにするよ」

「何言ってんだよ。お前が足手まといになるわけないだろ」

「お前が足手まといなら、冒険者のほとんどは足手まといだぞ」


 ジェドの言葉にアレンとアルフィスが苦笑しながら言う。オリハルコンクラスの冒険者であるジェドが足手まといに何かなるはずがないのだ。だが、それはアレンとアルフィスから見た話であり、ジェドからしてみればアレンとアルフィスとの間には大きな力の差がある事を察しているために足手まといという替えを持つのも仕方の無い事だった。


「まぁ、とにかくさっさとやってしまおう」


 アレンはそう言うと同時にリンゼル達に斬りかかり、続いてアルフィス、ジェドが駆け出す。


 アレンの剣が振るわれると魔族の首が二つ落ちる。刎ね飛ばされた魔族の首は自分の身に何が起こっているか全く理解していないようで、地面に転がりしばらくしてから自身の身に起こった事を理解すると驚愕の表情から恐怖の表情を浮かべることになった。


 アルフィスの拳が無造作に振るわれるとまたも魔族の首が飛ぶ。首を斬り落とされた魔族達も先程アレンに首を落とされた者達同様に最初は自分の身に何が起こっているか理解できていないようだったが、理解した瞬間に口をパクパクさせ恐怖の表情を浮かべる。


「くそがぁっぁぁっぁあ!!!」


 仲間が殺された事を理解したリンゼル達はアレン達に斬りかかった。だがアレンとアルフィスは足を止める事無くミュリムの元へ駆けていく。その時に進行方向にいたリンゼル達は斬り伏せられていく。


(うわぁ……気の毒だな…)


 ジェドは心の中で敵とはいえ魔族達に同情していた。アレンとアルフィスにとって斬りかかってくる魔族は歯牙にもかけない存在である事は間違いなかった。ミュリムという目的にたどり着くために立ちはだかったから斬ったのであって、そうでなければ放置されていたのかも知れない。

 最終的に斃す事になるのだろうが、それでも片手間に斬られるという屈辱を味わうことはなかったかも知れない。


 ジェドがそんな事を考えているとリンゼルの2体がジェドに斬りかかってきた。


(……おっと、同情してる場合じゃないな…)


 ジェドに斬りかかってきたリンゼルは二手に分かれる。どうやら挟み撃ちにするというのが根本的な作戦らしい。その事を察したジェドは視線をジェドから外した方をまず狙うことにする。

 挟み撃ちにすることに意識を集中しているためにジェドから意識を逸らすというこれ以上無い隙を自ら作ってくれたのにそれを見逃すなどと言う事はジェドにとってあり得ないのだ。

 アレンやアルフィスのような規格外の実力を有していない以上、ジェドにとって隙を突くのは当たり前すぎることだったのだ。


 ジェドは気配を殺し、静かに意識を逸らしている魔族との間合いを一瞬で詰めると腹に突きを放つ。ジェドの魔剣ヴァルバドスが腹に深く刺し込まれる。


「が……」


 腹を貫かれた魔族は口から苦痛の息を吐き出し、その口から血が溢れ出した。ジェドは剣を横に払うと腹を斬り裂かれた魔族は崩れ落ちる。崩れ落ちた魔族の延髄にジェドは魔剣を突き刺すとビクビクと痙攣していた魔族はやがて動かなくなった。


「てめぇ!!」


 仲間をやられたもう1人の魔族は剣を振り上げてジェドに斬りかかってきた。かなりの腕前なのだろうが、仲間を次々とやられた彼は完全に冷静さを失っておりまったく隙だらけだった。

 結局の所、精神状態によって運動能力というのは大きく左右される。それゆえに平常心で事に望むことが求められるのだ。平常心と対極の心理状態にある魔族などジェドにとっては警戒すべき敵でないどころか単なるカモでしかない。


 ジェドは振り下ろされた剣をまともに受けることはせずスルリと横に避けすれ違い様に首に剣を走らせる。首筋を斬り裂かれた魔族は呆然としながら倒れ込み、やがて目が虚ろとなっていき光が失われる。


 ミュリムの部下達13人はこうしてあっさりと全員が命を失った。


「やるな……だが、俺をそいつらと同じと考えない方がいいぞ」


 最後に残ったミュリムがアレン達に強気な口調で言葉を発する。この言葉にアレンとアルフィスは訝しがる。この状態でまだアレン達にコレダケの啖呵が切れることを訝しんだのだ。


「そっか……何かしらの手段があるようだな」


 アレンの言葉にアルフィスは頷くとアレンに向かって言い放った。


「それじゃあ、俺達は安全策をとって3人でやることにしよう」


 アルフィスはさも当たり前の様に言うとアレンはニヤリと嗤って返答する。


「もちろんだ。というよりも最初からそのつもりだったぞ」



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