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傭兵⑰

 レミアが再びリギンに斬りかかった。フィアーネ、フィリシはそれを黙って見守る。アディラも構えていた弓を下ろす。


 レミアは一瞬で間合いを詰めると首と足に同時に斬撃を放つ。リギンは同時に放たれた斬撃に対し、首はそのまま躱し、足への斬撃は自身の長剣で防いだのだ。


 初撃を見事に躱されたレミアであったがそこに動揺はない。躱された所でレミアの技にとっては大したものでは無い。なぜなら、これは取っ掛かりに過ぎないからだ。最初の構えの段階が一番安定しているものなのだが、首と足の斬撃によりリギンの体勢は構えの段階から大きく動いている。

 レミアは首に放った斬撃の角度を変えると今度はリギンの膝を狙って斬撃を繰り出す。


「くっ……」


 リギンの口から劣勢に立たされた者が発する言葉が漏れ出る。何とか躱す事に成功したのだが、体勢がまたも崩れる。それを見たレミアはそのまま回転し新たな斬撃、いや、刺突をリギンの首に放った。


 レミアは回転の途中で順手に握っていた双剣を逆手に持ち替えて、首の横から突き込んだのだ。その刺突をリギンは何とか躱す事に成功する。リギンの首筋わずか1㎝前をレミアの剣が通り抜けたのだ。


 レミアはそこからさらなる斬撃を放ちリギンの喉笛を狙う。


 シュン……。


 リギンはかろうじて後ろに跳び、かろうじてレミアのその斬撃を躱す事に成功する。が、レミアはそれを狙っていたのだ。


(よし……予定通り…今が攻め時ね……)


 リギンが着地し体勢を立て直す前にレミアが間合いを詰め、凄まじい斬撃を連続で放ち始めた。


 首、胴、肘、膝、太股のありとあらゆる箇所にレミアの斬撃が休むことなく放たれる。リギンは一度失った流れをまったく取り戻す事無く防戦一方になっていく。


「う~ん……やっぱりレミアの方があの魔族よりもはるかに強いわね」

「そうね。あの魔族は頑張っていると褒めるべきかしら。レミアを相手にしてまだ戦闘が可能なんですからね」

「確かに雑魚という感じじゃないけど、このままなら時間の問題よね」


 フィアーネとフィリシアがレミアとリギンの戦闘を見て意見を交わす。2人の見たところ、レミアが圧倒的に押しているが戦いに絶対は無い以上、いつでも動けるように備えていたのである。

 

「やっぱり、レミアさんは凄いですね」


 フィアーネとフィリシアから少し離れた所でアディラの護衛のエレナが言う。


「うん、やっぱりレミアは強いわね」

「確かにレミアさんの強さも並外れてますよね」

「さすがに『アインベルクの四美姫』の一角ですよね」

「ん? ちょっと待ってエレナ……その四美姫って何の事?」


 エレナの口から出た単語にアディラは首を傾げながら問いかける。その問いかけにエレナはニンマリと笑って答える。


「最近、巷でアディラ様達を呼ぶもう一つの異名です♪」

「え?」

「だって4人とも二つ名に姫が付いてるじゃないですか、しかも4人ともアインベルク侯の婚約者となれば『アインベルクの四美姫』と呼ばれるのも当たり前です」

「う~四美姫なんて、私には不相応だよ……」

「何言ってるんです!! アディラ様も確実に入ります!! ねぇメリッサ?」


 エレナに話を振られたメリッサも満面の笑みを浮かべて頷く。


「もちろんです。他の方々も美しいですが、アディラ様が外れることはございません」

「そうかな~あの3人と比べれば私なんて全然だと思うけど」

「ふふふ、皆様似た者同士ですね」


 メリッサの言葉にアディラは首を傾げる。メリッサもエレナも苦笑いを浮かべる。アディラ達4人はそれぞれ他の婚約者の美しさに及ばないと考えているため、四美姫などのグループに自分が入っていることに対して気後れしてしまうのだ。


 このような話をしながらも全員の視線はレミアとリギンとの戦いから外れることはない。


 レミアは舞うようにリギンとの剣戟を展開している。横に回り込みながら剣を振るう。


 シュパァ!!


 レミアの双剣がリギンの頬をザックリと斬り裂く。それを見たフィアーネ、フィリシア、アディラは頷くとそれぞれ行動に移す。


 リギンはレミアに集中する余り、フィアーネ、フィリシア、そしてアディラから完全に意識を外していた。レミアに対峙する事に集中したリギンはあろうことかフィアーネ達に背を向ける形になっていたのだ。


 パシュン!!


 アディラの放った矢がリギンの右肘を射貫く。本来であれば頭部を射貫いて終わりにするのが良かったのだが、フィアーネ、フィリシアもリギンに向かって間合いを詰めており頭部、心臓の位置は死角になっていたため、右肘を射貫くしかなかったのだ。


 アディラが右肘を射貫いたのはこの矢で致命傷を与える事が出来ない以上、次に武器を奪うことが最も効果的という考えからだ。


 そして、その効果は最大限に発揮されたのだ。右肘を射貫かれたリギンは剣を落とし、驚愕の表情を浮かべ背後から自分を射貫いたアディラを睨みつける。リギンにしてみればレミアとの一騎打ちを穢された気持ちだったのだろう。


 だが、後ろを振り向いたリギンの表情はすぐに驚愕に変わる。フィアーネ、フィリシアがもう目前に迫っていたからだ。

 フィリシアが突きを放つ。音を置き去りにしたかのような凄まじい突きありリギンの反射速度を遥かに超えていた。当然躱せるはずもなくフィリシアの突きはリギンの喉を貫く。


 フィリシアがリギンの喉を刺し貫いたとほぼ同時にレミアの双剣もリギンの腹に刺し込まれ、フィアーネの貫手がリギンの背後から心臓を穿った。リギンの体から力がダラリと抜け、それぞれが刺し貫いた武器や腕を引き抜くとリギンはそのまま崩れ落ちた。


「ふぅ……」


 レミアが剣を振り剣についた値を払い落とすとフィアーネ、フィリシアに笑いかける。


 そこにアディラとメリッサ、エレナもやってくる。


「それにしても、ここまで上手くいくとは思わなかったわ」


 レミアの言葉に全員が頷く。


「本当にそうよね。これは別にレミアとの一騎打ちじゃないのにね。何勘違いしたのかしら?」


 続いてのフィアーネの言葉にまたも全員が頷いた。レミアは確かに「私がやる」といったが、一騎打ちを申し込んだわけではない。1人で斬りかかったからリギンが勝手にこれは一騎打ちと思い込んだに過ぎない。フィアーネ達はレミアとリギンの戦いを見ながら決定的な瞬間を待っていたに過ぎないのだ。


 人によっては汚いという意見が出るかも知れないが、この場にそんな事を気にするものなどいない。負ければ命を失うこの国営墓地において表面上の正々堂々という言葉など何の意味も無いのだ。

 負ければ命を失う戦いに正々堂々などという言葉を持ち込む者こそ戦いを甘く見ているに他ならないのだ。


「まぁ、リンゼルなんて武器を持たない者にしか強くでられない卑しい連中だと言う事は前回でわかってるじゃないですか。当然、その辺りの覚悟も足りてないんでしょうね」


 フィリシアの意見は辛辣だった。前回のリンゼル達が自分達に言った暴言についてフィリシアはそうとう怒っていたのだ。


「まぁ、これで後はリンゼルの団長だけね」


 アディラの言葉に全員がクギル達に目をやると、アレン達、カタリナ達がそれぞれの敵を撃破して歩いてくるのが見えた。


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