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傭兵⑯

「じゃあ、みんな行くわよ!!」

「ええ」

「行きましょう!!」


 フィアーネの言葉にレミア、フィリシアが答える。


「みんな、気を付けてね。一応、魔族が相手なんだから」


 アディラが3人に声をかける。


「うん、アディラこそ援護を頼むわよ」

「当てにしてるわよ」

「アディラこそ頼みますよ」


 フィアーネ達はアディラに朗らかな表情と声で返答する。彼女たちの実力を知らない者達からすれば、可憐な美少女達がこれから魔族と一戦交える事に絶望を覚えるだろう。だが、彼女たちの実力を知る者達からすれば魔族こそが絶望を、いや生贄として捧げられた哀れな子羊でしかないと考えるのは間違いなかった。


 アディラは弓を構え、矢をつがえる。その流麗な動作は一部の淀みもなく機能美の極致と言って良いほどのものだ。


 フィアーネ達はアディラの流麗な動作に見惚れてしまう。


 ピシュン!!


 弦が鳴り蓄えられた力を放出し矢が放たれた。リンゼルの団員達との距離はわずか60メートル程だ。アディラにとっては目を瞑ってても射貫く事の出来る距離である。


 首筋を射貫かれた団員の1人が崩れ落ちる。アディラの放った矢は首を貫通し、矢羽根のあたりまで刺し込まれている。とんでもない強弓であるのは間違いなく、リンゼル達は矢が放たれた方向を一斉に見る。


「な…」

「あ、あの女が、今の矢を?」

「そんなバカ……な…あんな威力の矢をあんなガキが…」


 呆然としながらリンゼル達の口から戸惑いの言葉が発せられていた。アディラの体格は年齢相応のものだ。要するに華奢な少女そのものの体格なのだ。ところがアディラから放たれた矢の威力は筋骨逞しい大男の放った強弓に匹敵、いや、それ以上だった。容姿との乖離が甚だしかったのだ。


 そのアディラが二射目を射た。団員達は一射目と違いすでに射手のアディラを捉えている。彼らの実力からすれば余裕で躱す事が出来る。



 ……はずだった。


 だが、彼らはアディラの弓に反応出来なかった。気付いていたのは団員の1人が人中を射貫かれ崩れ落ちてからである。団員達にはアディラがいつ矢を放ったかがわかっていなかったのだ。


 どさ……。


 また1人、団員が眉間を射貫かれ崩れ落ちる。ここで団員達はアディラがとんでもない弓術の使い手である事をようやく認識した。


 恐慌状態に陥りかけた団員達はリギンが手を振ることである程度収まりを見せる。リギンはほとんど言葉を発する事はない程の無口な男であるが、手の振りで部下達を指揮する。


 リギンが発した指揮は盾を構えてそのまま突っ込むというものであった。単純だがこのような場合に奇策は必要ない。まずはあの弓を使うガキを始末するのが重要なのだ。


 リギンの指揮に従い巨大なカイトシールドを構えた団員が最前列に立つと突っ込んできた。その後ろにリギンと他の部下達が続く。総勢19名が一丸となってアディラ目がけて突っ込んでくる。


「う~ん……あれで大丈夫と思ってるのかしら?」


 アディラの言葉にフィアーネ達も首を傾げる。盾を構えて突っ込んでくると言うのはそれほど間違ったものでは無いのだが、それは通常の射手が相手の場合だ。


 アディラは矢を番えると、ほとんど狙いも付けずに放つ。アディラの矢は団員達の盾に突き刺さり、鏃が盾を貫いたが何とか止める事に成功する。団員達は盾に魔力を流し強化していたため本来であれば貫く事すら出来ないために驚愕したのだが、同時にこれで大丈夫という意識も芽生えた。


 だが、これはアディラの作戦だった。相手に大丈夫という安心感を与えてそれを次に打ち砕くことで敵の心を折る事が出来ると考えていたのだ。


 アディラが再び矢を番えると迷い無く放った。狙った箇所は最前列の団員の足首だ。足首を射貫かれた団員はもんどり打って倒れる。そしてその背後には安全と思い込んだ団員の顔がある。


 アディラは次の瞬間にはその団員の眉間を射貫いた。眉間を射貫かれた団員はまたももんどり打って倒れる。そしてこれは団員達に再び死の恐怖を呼び起こしたのだ。安全と思っていた次の瞬間全く真逆の結果がもたらされたのだからその動揺は大きかったことは間違いない。


 だが、これは序章に過ぎなかった。なぜならフィアーネ、レミア、フィリシアという新たな理不尽を体現する者達が動き出していたからだ。


 団員達はフィアーネ達の容姿を見てすっかり侮っている。今、その常識を覆す事例に遭遇し仲間達が殺されていったばかりというのにである。そして団員達は次の瞬間にその報いを受けることになったのだ。


 フィアーネが盾を構えて突進する団員の1人に拳を見舞った。フィアーネの拳は魔力によって強化されたはずの盾を紙のように突き破ると。その後ろにあった団員を殴り飛ばした。人中の位置に正確に叩き込まれた拳により団員は宙を舞っている間にその命を終えていた。


 ゴギィィィィ!!


 フィアーネはそのまま横を通り抜けようとした縦を構えた団員の脇腹を正拳で突いた。骨の砕ける異様な音が響き脇腹を打たれた団員はそのまま横に吹き飛び隣の仲間を巻き込みながら地面に転がる。


 盾という自分を守るものが無くなった事に団員達の動揺は一気に高まる。いや、フィアーネの常識はずれの強さがその主な原因だったのかも知れない。


 その動揺をさらに存在が2人団員達に襲いかかった。もちろん、レミアとフィリシアだ。


 レミアは双剣を抜き放つとと倒れ込んだ盾を持つ団員の首を刎ねると後ろの団員に斬りかかったのだ。

 

「死ねぇぇぇぇえっぇ!!!」


 1人の団員がレミアに斬りかかるが、レミアのその斬撃をあっさりと双剣の一本で受け止め、それと同時にもう一本で団員の腹を貫く。レミアは刺し込んだ剣を横に払うと団員の腹は当然の如く斬り裂かれ団員は地面に倒れ込んだ。

 レミアは倒れ込んだ団員の首に剣を突き立てトドメを刺してから次の相手に向かう。一見残酷であるがこうしておかないと不意を衝かれる可能性がある以上、レミアに戸惑いはない。


 フィリシアの目の前には盾を持った団員が迫っているがフィリシアは動じることなく。剣を振り上げると容赦なく振り下ろした。


 シュパ……


 フィリシアの剣は盾毎、団員の頭部を両断した。魔力による盾の強化などまったく意味をなさないような斬撃だった。盾は当然ながら剣、槍、斧などから身を守るという設計思想の元に作られているのだが、フィリシアはその設計思想ごと、ただの一振りで斬り伏せたのだ。

 倒れ込んだ団員の後ろに射た男は驚愕の声を上げようとした瞬間にフィリシアの剣が顔面を刺し貫いた。


「ぎゃあぁぁぁ!!」

「がぁあぁっぁぁぁ!!」

「お、俺の腕……がっ」


 フィアーネ、レミア、フィリシアという理不尽極まる存在に団員達は次々と討ち取られていく。そして、アディラは敵味方入り乱れる中に容赦なく矢を射かけた。恐るべき事にアディラの矢は3人の背後にいる者を容赦なく射貫いたが、フィアーネ達3人に当たることはなかった。


 団員達が容赦なく命を失い地面に転がっているのを見て、リギンはレミアに襲いかかった。剣を水平に構えると凄まじい速度で突きを放つ。


 レミアは体捌きとそう権威よって凄まじい突きを躱すと後ろに跳び、間合いをとった。


「ふ~ん……あんたはこいつらとは違うみたいね。そういえば氷蓮魔人リラムスを斬り刻んでたっけ」


 レミアはニヤリと嗤うと全員に声をあげた。


「みんな、私がやるわ」


 レミアはフィアーネ達の返答を待たずに斬りかかった。

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