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傭兵⑨

 駆け出したアレンに続いてフィアーネ、レミア、フィリシア、アルフィス、ジェドが続く。


 続かなかった者達はそれぞれ遠距離攻撃でアレン達を支援するつもりだったのだ。またその護衛として残った者達だ。


 遠距離攻撃をしようとしたのは、アディラ、シア、カタリナだ。メリッサ、エレナはアディラの護衛のため、レナンとアリアはシアの護衛のため、ジュセルはカタリナの護衛だった。


 打ち合わせしたわけではなかったが、みなが自分の役割を理解しているために最善の方法と信じる行動を取ったのだった。


 遠距離攻撃を選んだ3人はそれぞれの攻撃を開始する。


 アディラは狙いを付けるとまず第一射を放つ。見事に顔面に命中し射貫かれた魔族は崩れ落ちた。


 シアはほとんど詠唱を行わずに【魔矢マジックアロー】を放つ。シアの放った十数発の【魔矢マジックアロー】は魔族達の足下に着弾する。直撃した魔族はいなかったがシアの狙いは苦達にダメージを与える事ではなく、敵の陣形を乱すことだったのだ。

 シアの狙い通り魔族達は陣形が乱れお互いがフォローしづらい距離をとらされたのだ。


 カタリナは土人形ゴーレムを召喚すると地中を移動させ魔族達の足を掴ませる。思わぬ攻撃に魔族達の混乱はさらに高まった。そこにアディラが容赦なく魔族達を射殺していく。


 いきなりの攻撃に魔族達は浮き足立ったが、この攻撃はまだまだとっかかりに過ぎないことを魔族達は知らない。すぐそこに人の形をした理不尽な存在が迫っていたのだ。


 遠距離攻撃を行った3人のおかげで迎え撃つ事の出来なかった魔族達はアレン達に備えることが出来なかった。その状態でアレン達と戦う事になった別働隊は本当に不運だったといって良いだろう。彼らはリンゼル結成以来の不運を最初に受けることになった。


 アレンの剣が振るわれると魔族の首が落ちる。その落ちた首をフィアーネが容赦なく蹴飛ばし別のリンゼルの顔面に激突し、どちらの頭部も砕け散った。


 レミアの双剣の片方が魔族の腹を斬り裂き、激痛に叫び声を上げようとしたところに、もう片方の剣が喉を刺し貫く。


 フィリシアの魔剣セティスが振るわれ、袈裟斬りにされた魔族の上半身が地面に落ちる。


 アルフィスが人知を越えた速度で間合いを潰すとそのまますり抜ける際に脇腹を斬り裂き、背後に回った瞬間に背後から心臓を貫く。


 ジェドが魔族の両太股を斬り裂き、返す刀で喉を斬り裂く。


 瞬く間に魔族達はアレン達の理不尽な戦闘力の餌食となっていく。初撃でそれぞれ敵を葬ったアレン達はそのまま次の敵に容赦ない攻撃を加えていく。魔族達は叫び声を上げることなく次々と討たれていく。


 しかも、アレン達に意識を向けた瞬間に、遠距離攻撃組が容赦ない攻撃を仕掛けてくるのだ。アレン達に意識を向ければ遠距離攻撃の餌食となり、かといって遠距離の方に意識を向ければ今度はアレン達の餌食になるという状況となったのだ。


(な……なんだこれは? どちらに意識を向ければ良いのだ)


 ジルムは混乱の極致にある。彼の長い戦歴でもあり得ない出来事だ。普通、このような乱戦になれば同士討ちを恐れて、遠距離からの攻撃は行わないというのに、今度の敵は構わず矢や魔術を打ち込んでくる。しかもその精度は凄まじくリンゼルだけが被害を被っているのだ。

 加えて、斬り込んできた者達も凄まじい強さで、部下達はまったく抵抗することが出来ない。


(話が違うではないか、テルクの話では……まさか、テルクは裏切ったのか…?)


 ジルムの中に芽生えた疑念は急速に成長し花開く。テルクのもたらした墓守達の強さと実際の強さには天と地ぐらいの差があることから、当然にたどり着く結果だった。


「全員散れ!!! 1人でもこの場を逃れて団長にこの事を伝えろ!!」


 ジルムは決断する。この状況でこの人間達に勝利を収めるのは不可能だ。それよりも1人でも団長に事の次第を伝えて対策を取ってもらうしかないと考えての指示である。


(ほう……状況判断がそれなりの奴がいたか…だが、その指示は確実に悪手だ)


 アレンはジルムの指示を耳にして皮肉げに嗤う。この国営墓地にやって来る前に油断することなく行動していれば違った結果になったかも知れないが既に詰んだ状態でそのような指示を出しても意味が無いのだ。

 増してその指示では戦うという意思を根こそぎ奪ってしまう。完全に悪手と言うべきものだった。


「みんな、1人も逃すな!! 本隊にこちらの情報をわざわざ漏らす必要は無い!!」


 アレンの指示に全員が頷く。


 ジルムの指示により部下達は戦うという思考から逃走に比重が置かれた事により、アレン達はもはや戦闘と言うよりも狩りという状況になった。逃げ惑うリンゼル達をアレン達は容赦なく斃していく。


 ジルムはその光景を見て、自らの失敗を悟る。近くにいた部下に伝令を命じて足止めに専念すべきであったとジルムは悔やんだのだ。

 アレン達の規格外の強さにジルムは完全に動揺しており、指示を誤ってしまったのだ。


(くそ……俺としたことが…)


 ジルムが悔やんでいたところに銀髪、黒髪、赤髪の美しい少女達がこちらに駆けてくるのが見える。もちろん、その少女達とはフィアーネ、レミア、フィリシアの事である。


 3人は魔族達を斬り伏せながらジルムに向かってきていた。その姿を見たときににジルムの中で何かが弾けるのを感じる。それは死を受け入れた結果だったのかも知れない。


「くそがぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ジルムは剣を抜き叫びながらフィアーネ達に斬りかかった。完全に冷静さを欠いた行動であり、フィアーネ達にとって警戒すべきものではない。

 対称的にフィアーネ、レミア、フィリシアは落ち着いた精神状況でジルムを迎え撃つ。


 フィアーネとレミアは左右に散り、フィリシアがジルムを迎え撃つ形となった。


 ジルムが上段から振り下ろすために剣を掲げた瞬間にフィリシアは動き、突きを放つとジルムの喉を貫いた。


「が…」


 ジルムの口から血が吐き出された瞬間にレミアが右肘を双剣の一本で斬り落とし、間髪入れずに腹部にもう片方の剣を刺し貫いた。

 フィアーネもまたトドメを刺すために動いていた。フィアーネのトドメは心臓への強烈な打撃である。内部に衝撃を通す打撃で打ち付けたことによりジルムの心臓は破裂したのだ。


 ジルムの体から力が抜け地面に崩れ落ちる。


 ジルムが斃された事に対してリンゼルの部下達に動揺はなかった。すでにアレン達の手により全員が討ち取られていたためだ。


 ジルムの指揮する別働隊はここに消滅したのだ。

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