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傭兵⑦

 アディラの鏃に込められた【爆発エクスプロージョン】が発動し爆発が起こる。


「な……なんだ…」


 ジルムの口から半ば呆然とした言葉が紡がれる。そして、爆風が収まった時に事情を察する。爆発の中心点はクルゴスが倒れ込んでいた場所だ。ということはクルゴスを射貫いた矢に何らかの仕掛けがあったということだ。

 そして、治癒をするために近付いた者、それを庇おうとした者を吹き飛ばしたのだ。


 これで、矢に射貫かれた者を治癒することは実質出来なくなった。治癒魔術を行えば助かる者も見捨てるしかないのだ。治癒のために近づけばその者も吹き飛ばされ被害が増えるだけなのだ。

 その事に気付いたジルムは戦慄する。苦しむ仲間が死んでいくのを見続けるしかないという状況にジルムはゴクリと喉をならす。今回の相手はひょっとして今まで自分達が相手してきた者達などより遥かに恐ろしい連中なのではないかという思いがジルムに生じる。


 爆発に巻き込まれた部下のうち、数名は苦痛に呻いていたが何とかまだ生きており、治癒魔術を行えばまだ助かるのは明らかだが、ジルムは治癒の指示を出すことが出来ない。ひょっとしたらこれ自体が罠ではないかという考えが芽生えていたのだ。


「ジルム隊長、指示をお願いします」


 部下の1人がジルムに指示を請う。


「敵の位置を探れ!! 矢が飛んできた方角は向こうだ。何人か偵察を出せ!!」


 ジルムの言葉に部下が頷くと矢が飛んできたと思われる方向へ走り出す。5人程の団員が駆けていくのを見て苦痛に呻く部下達を見やる。


「治癒魔術をかけろ」


 ジルムは決断する。罠の可能性は当然想定したが、このまま部下を失えば敵につけ込まれるのは確実だ。


「はっ!!」


 1人の部下が治癒魔術を行う為に進み出る。


「がっ」


 しかし、次の瞬間に進み出た部下の眉間に矢が突き刺さっていた。眉間を射貫かれた部下はその場に崩れ落ちる。


「危ない離れろ!! 爆発するぞ!!」


 ジルムの言葉に全員が射貫かれた団員から距離をとる。


「なんて悪辣な奴等だ…」


 ジルムは呻く。治癒魔術をかけようとすればそれを射殺し、しかもいつ爆発させるかわからないという状況を作りこちらの思考を縛る。


「隊長……矢を放った位置が…」


 部下の1人がジルムに最初の狙撃から移動している事を告げる。確かに2人目は最初に射貫いた位置とは違う方向から射られている事を全員が察した。


 ジルム達はその事実に打ちのめされようとしていた。現状は絶望的に悪いと言って良かったからだ。






「さすが……」


 アディラがただ一射で1人の魔族の首を射貫いた事にフィアーネが感歎の声を上げる。その感歎の声に全員が頷く。今アディラが射貫いた魔族との距離は250メートル程だ。いくら魔力で強化したといっても射抜ける者がどれほど居るというのか。


「本当に出来るなんて……」


 ジュセルが呆然と呟く。アレンの指示をアディラは見事に成し遂げたのである。アレンの指示とは『致命傷を与えるが即死させないで欲しい』というハードルの高すぎるものであったのだ。


 そのため、アディラは首筋を射たのだ。間違いなく致命傷だが即死はしない。実際に首を射貫かれた魔族は即死はしていない。それを治癒するために他の団員が治癒に向かい、それを援護するために他の者が盾で守るように立ちふさがったのだ。


 そして……鏃に込められた【爆発エクスプロージョン】が大爆発を起こす。


 ドゴォドゴォゴォォォォォォォォォォ!!!!


 爆発が起き、周囲の団員達を吹き飛ばした。


「よし!!」


 アディラの口から上手くいった事を喜ぶ声が漏れる。一見、残酷に思えるかも知れないが、アレン達にとって情けをかけた結果、自分達の仲間が殺される危険性がある以上そこに一切の逡巡はない。

 そもそも、この国営墓地に侵入し危害を加えようとしているのはあちらの方なのだ。アレン達に殺されるのが嫌だというのなら国営墓地に来なければ良いのだ。


「さて…それじゃあ、移動しようか」


 アレンの言葉に全員が頷く。生き残った者達がこちらに向かってくるのは明らかであったためにアレンは移動を提案したのだ。今ならアディラによって狙撃し放題だ。この好機を逃す理由はどこにもないのだ。


「アレンさん」


 そこにジュセルがアレンに声をかける。


「どうした?」

「えっと、どうやらあいつらはこちらに少人数を送り込むみたいなんで、俺はそいつらを始末しておきたいんですが」


 ジュセルの言葉にアレンは頷く。


「ジュセルの実力ならまず問題無いが…1人というのは不測の事態が起こったときに厄介だな…」


 アレンの言葉にフィアーネが声を上げる。


「それなら私がジュセル君と一緒に送り込んできた連中を叩くわ」

「却下!!」


 フィアーネの提案をアレンは即座に退ける。この間の事でアレンは懲りたのだ。フィアーネとジュセルを混ぜるのは今回は無しにしようと考えたのだ。


「ど、どうしてよ」

「お前、前回の事を忘れたんじゃないのか?」


 アレンの言葉にフィアーネは明らかに狼狽する。


「そ、そんな、大丈夫よ…私だって何度も同じ失敗なんかしないわよ」


 フィアーネは反論するが露骨に目を逸らしているあたり、アレンは『また』こいつはやるなと結論づける。


「とにかくダメ、お前はすぐにテンションが上がっちゃうんだから俺の側にいろ」


 アレンとしては何が何でも阻止するつもりだったのだが、フィアーネはアレンの言葉を聞いてあっさりとアレンの指示を受け入れる。


「ふふふ♪」


 妙に嬉しそうなフィアーネに対してアレンは首を傾げる。それを見てアルフィスが苦笑しながらアレンに言う。どうやらアルフィスはフィアーネの心変わりの理由を察しているらしい。


「まぁ…俺が行けば良いか。アレン、俺がジュセルにつくから早く移動してくれ。送り込まれた奴等を始末したら合流するから」


 アルフィスの言葉にアレンは頷く。


「わかった、それじゃあ2人とも頼むな。みんな移動しよう」


 アレンの言葉を受けてその場にアルフィスとジュセルだけを残し移動していく。それを見送り後ろ姿を眺めながらジュセルがアルフィスに尋ねる。


「ところで、フィアーネさんはどうしてあんなに機嫌が良くなったんですかね?」


 ジュセルの言葉にアルフィスが苦笑しながら返答する。


「ああ、フィアーネ嬢はアレンの『俺の側にいろ』という言葉が嬉しかったんだろうな」

「え?」

「普通に意味を考えれば、甘い言葉じゃないんだがな。アレンは普段は甘い言葉を囁くような事はほとんど無いから嬉しかったんじゃないかな」


 アルフィスの言葉にジュセルも苦笑を浮かべる。


「でも、アレンさんって結構、婚約者の方々といちゃついてますよね?」


 ジュセルの言葉にアルフィスは頷く。


「ああ、言葉には滅多にしないが、普通にいちゃついてるな」

「まぁ、何にせよ。みなさんが幸せそうで何よりです」

「そうだな、アレンに対する風当たりはかなり落ち着いたけど根深いからな」

「はい」

「お……それはそうともうすぐ来るな。話は終わってからにしようか」


 アルフィスの視線の先を見ると5人の魔族がこちらに向かってきている。その距離は30メートル先だ。どうやら、こちらの気配を掴んでいるらしく一直線に向かってきている。


「それじゃあ、アルフィス様は俺がやられそうになったら助けてくださいね」


 ジュセルがそう言うとアルフィスは笑って頷く。どう考えてもあの程度の連中にジュセルが遅れをとるとは思えない。


 魔族達は敵意を込めた視線を殺気と共にアルフィスとジュセルに向けるが、2人は全く動じた様子もない。


 ジュセルはゆっくりと魔族達に向けて歩き出した歩き出す。その余裕のある歩き方に魔族達は不快感を持ったようだった。人間如きが自分達を恐れていないのが気にくわないのだろう。


「てめぇら、ぶっ殺してやる!!」


 魔族の1人が叫んだ瞬間にジュセルは突如、駆け出すと間合いを潰すのであった。

  

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