傭兵⑤
アレン達は国営墓地の見回りをしている。
リンゼルがいつ襲撃してくるかわからないので、アルフィス達にはいつでも駆けつけてもらえるように手を打っていた。そして今夜は最初からアルフィス達も墓地の見回りに参加しているのだ。ジェド達も助太刀を要請したら快く受けてくれ毎晩見回りに参加してくれている。
というわけで、今夜のアレン達一行は、アレン、アルフィス、フィアーネ、アディラ、レミア、フィリシア、カタリナ、ジュセル、ジェド、シア、レナン、アリア、メリッサ、エレナという14人という大所帯になっている。
この一行の戦闘力は現段階で一国を落とすことも可能なものである。しかも、アレン達はその気になればアンデッドを大量に召喚する事も出来るし、斬った者達をアンデッドにしてこちらの戦力に取り込む事も出来るという、もはや理不尽を体現するような一行だったのだ。
そんな一行が墓地を見回るのだから、今夜発生したアンデッド達は不運としか言いようがなかった。なぜなら、見つかった瞬間に瞬く間に駆除されてしまうのだ。デスナイトだろうがリッチだろうが、死の聖騎士だろうがお構いなしである。
今夜のアレン一行は確実に戦力過剰であると言って良い。それにも関わらずアレン達に油断という者は一切無い。常に周囲を警戒し、遠距離特化のアディラを周囲の者達がフォローしていた。
「そうそうジェドとシアは『オリハルコン』クラスに昇格したんだったな」
アルフィスがデスナイトを葬ってすぐに話しかける。一見無駄話をしているように見えるが周囲の警戒を怠るようなことはしていない。
「はい、アレン達が色々な仕事を持ってきてくれたおかげで評価が高まった結果です」
ジェドが言うとシアも頷く。アルフィスがジェドとシアに出会ったのはゴルヴェラ討伐においてであったが、それから何度か墓地の見回りで一緒になっていたために現在ではお互いに気心が知れていた。
「それだけじゃないと思うがな」
アルフィスはニヤリと笑って2人に言う。アルフィスの言葉と表情にジェドとシアは首を傾げる。まったく悪意を感じなかったために不愉快さは一切無かったが意味深な発言に不思議に思うのも仕方のないことだった。
アルフィスは実際の所、2人の実力を高く評価しており2人の実力にやっと周囲の評価が追いついてきたと思っていたのだ。ところが本人達はアレンがたくさんの難しい依頼を持って来てくれたから評価が高まっていると思っている所を笑ったのだ。
アルフィスの笑いの意図するところをアレンは察しており、アレンとアルフィスは視線を交わすとお互いに苦笑する。
「しかし、ジェドさんもシアさんもその歳で『オリハルコン』なんて凄いですね」
ジュセルの感心したような言葉にジェドとシアは苦笑する。ジェドとシアはジュセルと初対面であったが一目でジュセルの実力の高さを察した。ジェドとシアの見立てでは一対一ではまず勝てないというものである。
チームで当たれば互角の戦いが出来るがジュセルに勝利を収めるというのは中々、ハードルが高いのを感じていた。
「そういうジュセルだって、その歳で魔術の開発をおこなっているんでしょう?」
シアの言葉にジュセルはてれたように頭をかく。
「……すごいと思う」
「私も…」
レナンとアリアもシアの言葉に同意してジュセルを褒める。少しずつだがレナンとアリアは意思表示をするようになってきたのだ。まだまだ饒舌とは言い難いがコミュニケーションの幅が広がっていることをアレン達は感じていた。
「あっ、そういえばアレン様」
アレンにアディラが声をかける。
「どうした?」
「えっと……そのリンゼルという傭兵団なんですが、対話をするつもりですか?」
「?」
アディラの言葉の意図がわからずアレンは首を傾げる。フィアーネ達もアレンと同じ意見らしい。
「どのみち、リンゼルの目的はアレン様達の命ですよね。要件がわかっている以上、見つけ次第、先手を打とうと思ったんです」
アディラの言葉にアレンは考える。アディラの言うとおりリンゼルの要件はわかっている。誰がアレン達にリンゼルを差し向けたかは生き残りから聞けば良いのだ。
(…そうだな、先手を打って流れを掴むとしよう)
アレンはそう結論づけるとアディラに答える。
「そうだな、アディラの言うとおり。要件はわかっているから先手を打って攻撃してくれて構わない」
「はい♪」
アレンの許可が出たことでアディラは嬉しそうに答える。アレンの役に立つことが出来るという事はアディラにとって嬉しい事でしかないのだ。
「しかし……アディラはすっかりお前の考えに染まったな」
アルフィスの言葉にアディラは首を傾げる。アルフィスにとって妹のアディラはアレンとの婚約が決まってから随分と変わったと思っている。昔から思い切った事をする性格だったのだが、それが最近特に顕著になっている。
「それはもちろんです!! お兄様、アレン様の妻になるんですから夫に寄り添うのは当たり前です!!」
アディラの宣言にアルフィスは苦笑する。アディラのそれは寄り添うと言うよりも染まったという感じの方が強いのだ。
「でも、アディラってこんな感じだったわよね」
「はい、初めて会ったときからアレンさんのためなら何でもするような感じでしたよね」
レミアとフィリシアの言葉にフィアーネも頷く。
「確かにそうね。アレンが絡むとアディラって途端に大胆になるのよね」
婚約者達の言葉にアディラは頬を膨らませて反論する。
「何言ってるのよ、みんなだってそうじゃない。アレン様が絡むとみんな大胆な行動をとるじゃない」
アディラの指摘にフィアーネ達は目を逸らす。アディラの指摘はもっともであり、フィアーネ達もアレンが絡むと大胆な行動を取ることが多々あったのだ。結局の所、似た者同士だったのだ。
「……結局の所、婚約者の人達はアレン様の事が大好き」
「私もそう思う…」
レナンとアリアの呟きは小さいものであったが、たまたま話の間に発せられており妙に全員の耳に入ったのだ。
「あのさ……その手の話は後にしてくれ…その、恥ずかしい」
アレンが頬をわずかに赤くして言う。どうやらアレンは婚約者達の言葉を惚気と受け取っていたらしい。友人達の前で自分の婚約者達に惚気られるのは想像以上に恥ずかしかったようだった。
「と、言う事は後だったら……大丈夫と言う事ですか?」
アディラの護衛兼侍女のエレナがそう言うと顔を赤くして悶え始めている。
「ちょ……エレナ、アインベルク卿に失礼よ」
それをメリッサが窘めるが、何かしらスイッチでも入ったのだろうかエレナは止まらない。
「ひょっとしてアインベルク卿は戦いによって昂ぶった……きゃ~」
エレナの妄想に今度はアディラ達が食いつく。
「アレン様が望むのなら……ぐへへ~」
「大丈夫よアレン、私はどんな要望だって答えてみせるわ」
「…アレンが…その…」
「アレンさん……」
妄想に足を突っ込んだ婚約者達にアレンは軽くチョップをして妄想から現実に引き戻した。
「何度も言ってるだろ、結婚まではみんなには手を出すつもりはない」
アレンの言葉に婚約者達は露骨に残念そうな顔をする。その様子を見て全員が苦笑した。
「申し訳ありません、アインベルク卿……」
常識人のメリッサが妄想のきっかけをつくった同僚の不始末について謝罪する。
「気にしないでください。ある意味いつも通りですよ」
アレンは苦笑しながらもメリッサに話す。
「さて…」
アレンが真面目な声を上げると全員が頷く。先程までの妄想につかっていた婚約者達も真面目な表情を浮かべている。
「約8~90の侵入者……しかも魔族…どうやら来たようだ」
アレンの言葉を全員が黙って聞いている。
「とりあえず逃げられないようにしておこうか……」
アレンはそう言うと懐から魔石を取り出すと地面に投げる。地面に落ちた魔石から魔法陣が描き出されて地中に消えていった。
「それじゃあ…リンゼルとやらを潰そうか」
アレンの声に全員が頷く事で答えた。




