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傭兵④

 ダギム達がアレンの圧倒的な実力の前に為す術無く潰された3日後に生き残った魔族はベルゼイン帝国の帝都『ヴォルゼイス』にあるリンゼルの宿泊している屋敷に転移してきた。


 リンゼルが宿泊している屋敷はエルグド第一皇子が用意したものである。その魔族が帰ってきたときに仲間達は墓地に向かった他のメンバーがいない事に対して訝しがる。


「お、おい、テルク……他の奴等は?」


 団員が帰ってきた魔族…テルクに尋ねる。


「全員、殺られた……」


 テルクの言葉に全員が息を呑む。まさか人間如きに自分達の仲間がやられるとは思ってもみなかったのだ。


「くそ……あいつら…汚い手を使いやがって……」


 テルクの口から悔しそうな声が漏れる。その事にリンゼルの仲間達は反応する。


「その人間はどんな汚い手を使いやがったんだ?」


 団員がテルクに尋ねるが、テルクは首を横に振る。


「その話は後だ。まずは団長に報告させてくれ」


 テルクの言葉に全員が頷く。そのままテルクは団長であるクギルの元に通される。クギルの元に通され、クギルが声をかけようとしたときにテルクが先に言葉を発する。


「団長……みんな殺られた」


 クギルの顔を見た瞬間にテルクが口を開く。悔しそうな表情はまったく演技に見えない。


「どういうことだ? 墓守はそれほどまでに強いのか?」


 クギルの言葉にテルクは首を横に振る。


「いや、個々の能力はそれほどでも無い。だが奴等は連携して個々の戦闘力の低さを補うことが出来るんだ」


(みんな、あの墓守は異常だ!! あんな化け物に勝てるわけはない!! 手を出すな)


 テルクの口からアレンから指示されたとおりの言葉が紡ぎ出される。しかし、テルクは心の中で、口から出る言葉はまったく別の事を叫んでいた。だが口にはまったく表れない。その事がテルクの心に絶望を加速度的に増していた。このままではあの墓守の狙い通りにリンゼルが動かされ潰される未来しか見えなかったのだ。


「連携か…」


 クギルの言葉に全員が視線を交わす。連携をする事により送り込んだ仲間達を退けたという事実は無視できるものではない。


「あいつらはアンデッドをうまく利用するんだ」


 続いてテルクはもう一つの仕掛けに入る。すなわち連携によって互角に戦っていたところに横槍が入ったと思わせる事でアレン達を過小評価させるという仕掛けだ。


「アンデッドを使役すると言う事か?」


 クギルの問いかけにテルクは首を横に振る。


「いや、あの墓地はアンデッドが当たり前のように発生する。発生したアンデッドの中にはデスナイトがいたんだ」

「ほう…」

「そのデスナイトをあの野郎はこちらにけしかけやがった!!」


 テルクは悔しさを滲ませた声でクギルに告げる。


「そのデスナイトに俺達が対処した所にあの墓守達が襲いかかったんだ。あの時デスナイトが来なけりゃ負けなかったのに……」


 テルクの言葉をクギルは黙って聞いている。


「テルク、その墓守に一対一で勝てるか?」


 クギルはテルクに尋ねる。個々の能力の基準を作ろうとしたのだ。この段階でクギルはテルクが操られている可能性を考えてはいたが、テルクの様子からその可能性を排除していた。


 これはテルクの演技が優れているというわけではなく、術の効力によってアレン達に不利益な行動を摂ることが出来ないという事であった。すなわちアレンからの指示はリンゼルを国営墓地に誘い込む事だ。そのためにテルクは疑いをもたれるような事はアレン達の不利益になる。そのためにテルクの演技に術による補正がかかっていたのだ。


 フィアーネはアレンのためになると行動制限の術に改良を続けており、以前のものに比べて不利益をさせないという行動制限に幅が出来ていたのだ。


「俺が勝つのは正直厳しい……。でも団長達なら間違いなく勝てる」


 テルクの言葉にクギルは頷く。


「そうか…なら、俺が行って墓守を始末するか……」


 クギルの言葉にテルクは思いとどまらせるために動き出す。リンゼルを完全に潰す事が目的なのだから、あくまでも墓地には全員で行かなくてはならないのだ。


「ま、待ってくれ、団長!! 俺も連れて行ってくれ!!」


 テルクの言葉にクギルは沈黙する。


「あの野郎の最後を、団長があいつを始末する最後を見せてくれ!!」

「ふむ……」


 テルクの言葉にクギルは沈黙する。


「俺達はやつらの連携とアクシデントにしてやられた……俺も連れて行ってくれ」


 テルクの懇願に副団長のミュリムがクギルに声をかける。


「団長、テルクの話では墓守は連携が得意という話だ。何も奴等に優位な状況で戦う必要はないだろう。それに国営墓地にはデスナイトというそれなりに強いアンデッドが発生する。露払いを俺達がした方が良い」


 ミュリムの言葉に隊長のジルム、ミザーク、リギンも同意する。3人の隊長達も仲間を殺られた事に怒りを持っているのだ。


「……そうだな、確かに墓守共の肝は連携、そしてアンデッドを嗾ける……ならばそれに対応するにはこちらもそれなりの人数が必要だな…」


 クギルの言葉にその場に居た全員が頷く。そこにテルクは最後の仕掛けを行う事にした。


「団長、すまない……」


 テルクの謝罪にクギル達は訝しがる。単純に敗れた事を謝罪すると思っていたのだが、その後に続くテルクの言葉は違っていた。


「俺は他の仲間に仲間が汚い手で殺された事を伝えちまった。ほとんどの奴等は敵討ちに参加したいと申し出るはずだから、人選は面倒な事になると思う」


 テルクの言葉に全員が苦笑する。恐れおののき参加しないという事ではなくまったく逆の展開だった事にクギル達幹部はニヤリと嗤う。


「団長…いっその事全員で墓守達を始末しに行くと言うのはどうだ。ついでにローエンシア王都の人間達で遊んで帰ろうじゃないか」


 ミュリムの言葉に全員が嗤う。


「そうだな…第一皇子に費用は出させれば良いしな」


 クギルの言葉によりリンゼルが全員で国営墓地に向かう事が決定された。


(違う!!! あの化け物に勝てるわけない!! 止めてくれ!!)


 テルクは心の中でまったく真逆の事を思っていた。そして、3日後を指定した事の意味を把握していた。アレン達はすでに準備を始めている。戦力の増強か、罠かは現時点ではわからない。だが、準備の面で大きく遅れを取っているのは明らかだ。


 自分の報告によってリンゼルは相手を過小評価するという結果になった。すなわち、準備、心構えの量だけでなく質の面においても大きくアレン達より劣るのは間違いない。


 テルクはあの墓守達は一切油断も容赦もしない事を察している。でなければテルクに術をかけて送り込むような事はしないだろう。


 リンゼルは滅亡への道に踏み込んだことをただテルクだけが理解していたのだ。


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