傀儡②
「アレン!!」
デスナイトの剣に斬られたアレンにフィアーネが叫ぶ。
アレンはデスナイトの大剣に左肩から斬られ鮮血が舞ったが、かろうじて致命傷には至らなかった。アレンの剣に大剣がめり込んだ時にアレンは重心を後ろに移し、バックステップをしようとした所を斬られており、思ったよりも浅手で済んだのだ。
「大丈夫? 痛くないの?」
フィアーネの心配する声にアレンは苦笑する。
「大丈夫だ。問題ない」
アレンの言葉に全員が安堵の息を漏らす。
「でぇぇぇぇぇいい!!」
アレンの言葉にフィアーネは安心するとデスナイトへ殴りかかった。フィアーネの拳がデスナイトに放たれる。だが、その拳はデスナイトの盾によって阻まれる。
「キャア!!」
デスナイトが盾を振り回すとフィアーネが弾き飛ばされる。
「フィアーネ!!」
フィリシアがデスナイトの前に立ちふさがると剣を振るいデスナイトを食い止める。フィリシアはまともにデスナイトの剣を受けるような事はせずに剣を逸らす方向でやっていくがデスナイトの剣の速度と膂力により上手く逸らす事が出来ずにあっという間に防戦一方に追い込まれていく。
「く…」
フィリシアの口から追い詰められた者が発する声が漏れる。フィリシアはデスナイトの斬撃を何とか躱しながら反撃の機会を狙うがその隙を突くことが出来ない。
「う~目が回る…」
フィアーネが立ち上がるとデスナイトとフィリシアの戦いに入り込む。フィアーネは間合いを詰めると顔面に拳を放った。デスナイトはフィアーネの拳をまともに受けるが何ら痛痒を与えたようには見えない。
デスナイトはフィアーネに狙いを絞り斬撃を放つ。その隙を突きフィリシアはデスナイトの腕に斬撃を放った。
シュパ!!
フィリシアの斬撃はデスナイトの腕を斬り落とすことは出来なかった。一瞬後にはフィリシアが斬りつけたデスナイトの傷口は回復しそのままフィアーネに斬撃が放たれたのだ。フィアーネは両手を交叉し、魔力で両腕を交叉しデスナイトの大剣を受け止める。
ドガァァァァァ!!
デスナイトの大剣がフィアーネの魔力で強化した腕を斬り落とした。交叉の際に上にしていた左腕がその場にゴトリと落ちる。
「く…」
フィアーネの口から漏れたのは悔しさを感じさせるものだった。
(もっと上手くやれると思ってたんだけど…思った以上に難しいわね)
フィアーネは心の中で自嘲する。デスナイト如きにここまでいいようにやられるとは思っていなかったのだ。
フィアーネは何とか止めた大剣の側面を掴むと思い切り引っ張りデスナイトの大剣を横に払う。そのまま懐に入り込むとデスナイトの顔面に肘を叩き込んだ。
ガギャ!!
凄まじい打撃音であったがデスナイトはよろめくことすらしない。フィリシアとアレンはフィアーネの肘打ちのあと間髪入れずに間合いに踏み込む。デスナイトが剣を横に振るいフィアーネの胴を両断しようとしたところにアレンは折れた剣で受け止める。
「ち……」
デスナイトの剣はアレンの剣を断つとそのままの勢いでアレンの腹を斬り裂く。またもかろうじて身をよじって躱すことで致命傷は避ける事に成功する。
フィリシアはその隙をついてデスナイトに突きを放つ。狙った場所はデスナイトの核のある場所だ。だが、その突きがデスナイトの核を貫く前に、デスナイトの盾が振るわれるとフィリシアの脇腹に直撃し、フィリシアは吹き飛ばされた。
フィリシアは数メートルを飛ばされ地面に叩きつけられると、そのまま地面を転がった。
かなりの痛手のはずであったがフィリシアはすぐに起き上がり剣を構える。
ドゴォォォォ!!
そこに爆発音が響く。アレン達が爆発した方向を見るとレミアとカタリナが地面に伏している。レミアは左足、左手首を失っており、どう見ても戦闘は不可能である。カタリナも四肢を失っているわけではないが両足の脛が折れており、あらぬ方向を向いている。
レミアとカタリナはリッチに挑むために間合いをつめていた所にリッチは魔術で迎撃し、その魔術を凌ぎきれなかったのだ。
アルフィスはスケルトンソードマンと剣戟の応酬をしている。だが、アルフィスの技をスケルトンソードマンは難なく躱していた。
アルフィスの斬撃を躱すとスケルトンソードマンはすぐさま反撃に転じ、アルフィスに斬り刻む。
スケルトンソードマンは突きを放つ。放った場所はアルフィスの右太股だ。
ザシュ…
スケルトンソードマンの突きによりアルフィスの足は貫かれる。当然、痛みが発し、その行動に大きな制限が生まれるはずだ。だが、アルフィスは何でもないように前進すると突きをスケルトンソードマンの核を貫く。核を貫かれたスケルトンソードマンは自然の断りに従い、物言わぬ死体へと戻る。
「う~ん……これは失敗したな…」
その時、ジュセルの口から呑気な声が漏れる。アディラもジュセルの言葉に頷くとこれまた呑気な声で答える。
「慣れてないという可能性はあるんですか?」
アディラの言葉にジュセルは首を横に振る。
「慣れてないというのは確かにあるんですが、反応が想定しているよりも一枚、二枚落ちます。あと、魔力の伝達の面でも悪いです…」
ジュセルは首を傾げながら言う。
「実験はここまでにしましょう」
ジュセルの言葉がまたも呑気に響くと、転移の魔法陣が発動すると、アレン、フィアーネ、レミア、フィリシア、カタリナが現れる。
先程のデスナイトに斬られた傷もなければ、リッチの魔術に吹き飛ばされたケガも一切無い。全くの無傷の姿だった。
アレン達が現れると今まで戦っていたアレン達が木製の人形に変わる。人形達は糸が切れたように地面に倒れ伏す。
「う~ん…操作が難しいな…ちゃんと練習しとかないといけないな」
無傷のアレンの言葉に全員が呑気に頷くのであった。




