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皇女

 ベルゼイン帝国の帝都『ヴォルゼイス』にあるリオニクス邸に何者かが転移してきた。


 転移してきたのは6人、もちろんアルティリーゼ一行だった。


「ふぅ…」


 無事に転移を終えアルティリーゼの口から安堵の息が漏れる。イリムや他の者達も安堵の息を吐き出す。


「それにしても…恐ろしい奴等だったな」


 エルカネスが呟く。優秀な魔剣士であるエルカネスの弱気な発言であったがその事を責めたり、笑う者はいない。フィアーネとジュスティスの放つ威圧感に直に触れてしまえば笑う事など出来るはずもなかった。


「ええ、あの二人は確かにトゥルーヴァンパイアという話だったけど…並じゃないわね」


 ディーゼの言葉は一行に沈黙で迎えられた。答えないがそれは誰しもディーゼの言葉を否定するものでない事を知っていたのだ。


「そして…アレンティス=アインベルクという男もあいつらと同じぐらい強いんだろ?」


 エルカネスの言葉からは頭を抱えるかのような感情が噴き出している。


「いや…アインベルクにはさらに婚約者が3人いるという話だ。全員がすさまじい実力者とのことだ」


 イリムの言葉にエルカネスが口を開く。


「その3人はさすがにあのレベルじゃないだろうな…」


 エルカネスの欲しかったのは否定の言葉であったが、イリムの口から発せられたのはまったくの真逆の言葉であった。


「いや、エシュゴル殿の話では双剣、長剣の婚約者の剣士はトゥルーヴァンパイアと実力的にはそう変わらないという話だ。加えて最後の婚約者の弓術は神業と呼んでも差し支えないらしい…」


 イリムの言葉に全員の顔が凍る。フィアーネレベルの実力者が5人いて、うち一人の弓術は神業というのは反則という気分だった。フィアーネに直に触れるまではイリムの用意周到さに呆れていたのだが、イリムこそが正しかった事を思い知らされた。


「アルティ…」


 イリムがアルティリーゼを呼ぶ。アルティリーゼが愛称で呼ぶことを許しているのは父以外ではイリムだけだ。


「残念だけど今の私達の戦力ではアインベルクと戦えば間違いなく全滅よ」


 アルティリーゼの言葉に全員が沈黙する。


「しかし、戦わないという選択肢はないわ。問題はいつ戦うかという事よ」


 続くアルティリーゼの言葉に全員が声の主に視線を向ける。


「私達がやるべきことは、個々の実力を上げること、もう一つは配下となる実力者を集めること」


 アルティリーゼの言葉に全員が頷く。確かに挑む相手があれなのだからこちらもそれに応じた準備をしなくてはならないのは明らかであった。


「イリム」

「ああ」


 アルティリーゼの言葉にイリムは簡潔に答える。


「あなたには今よりも強くなってもらう必要があるわ」


 アルティリーゼの言葉にイリムは頷く。


「そしてそれはあなた達もよ」


 アルティリーゼは次にエルカネス達に視線と言葉を向ける。エルカネス達はそれぞれ力強く頷いた。


「アインベルクと戦う事が私が帝位を継ぐために最も近道…やるしかないわ」


 アルティリーゼの言葉に全員が頷く。アルティリーゼはベルゼイン帝国の帝位を継ぐ条件が『最も瘴気を集めた者』という条件を満たすために国営墓地の瘴気を利用するつもりだったのだ。

 だが、そこにはアレンティス=アインベルクという墓守の高すぎる障害があったのだ。イリムの父イグノールが万全の態勢で臨んだにもかかわらず敗れた事は記憶に新しい。


 今回、そのメンバーの一人と直にあった事はアルティリーゼにとって僥倖だった。フィアーネは力だけで物事を解決するような単純な相手ではなかった。あの短い会話のやり取りだけでこちらの意図はかなり察せられたはずだった。

 そして、アルティリーゼの目的とフィアーネの目指す地点が異なっている事も両者は察していたのだ。でなければあの段階で自分達を見逃すことなどあり得ないのだ。


(彼女は私達に何かをさせるつもりだ…そして、その事は決して私達にとって悪い話では無いのだ…)


 アルティリーゼはそう考えていたのだ。


(でも…そのためには一度雌雄を決する必要があるわ)


 アルティリーゼは戦闘狂ではない。だが、戦闘には2種類の観点があることを知っているのだ。一つは単純に戦いたいという欲求に基づく戦い。そしてもう一つは何かを得るための戦いだ。


 アルティリーゼは皇位を得るための手段としてアインベルクと一戦交えるつもりだったのだ。


「アインベルクと戦うために必要な人材を見つけるのは私がやるわ。あなた達はその情報をもとに動いてもらうわ。今までよりも実力の高い者を引き込むことになるから、あなた達は個々の戦闘力を上げる必要があるからしっかり頼むわ」


 アルティリーゼの言葉は全員の心に響く。やるべき事を与えられた彼らにもはや戸惑いはない。それぞれの思惑はあるが、それはアルティリーゼの目的と合致、もしくは敵対するものではなかったのだ。


(それにしても、アレンティス=アインベルク…あれ程の実力者を束ねるという墓守…一体どんな男なのかしら…)


 アルティリーゼは自分が帝位に就くための最大の障壁が人間の墓守であることに苦笑するのであった。

 次回から新章です。

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