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雪姫⑦

『見返り』というフィアーネの言葉にアルティリーゼ、イリム以外の者達の目は険しくなる。


「まぁ見返りと言ってもそんなに難しい事じゃないのよ。少しお話ししましょうという事よ」


 フィアーネの次に放たれた言葉に今度はアルティリーゼとイリムも戸惑ったような視線をフィアーネに向ける。


「話?」


 アルティリーゼの短い返答にフィアーネはニッコリと微笑むと満足そうに頷く。フィアーネほどの美少女の笑顔は本来であれば性別に関係なく見惚れるのだが、この時のイリム達は本能的な恐怖を刺激されただけである。


「ああ、そうそう私はフィアーネ=エイス=ジャスベインというのよ。あなたは?」


 フィアーネが名乗るとアルティリーゼも即座に名乗る。


「これはご丁寧にどうも、私はアルティリーゼ=クレリア=ヴェルゼインよ。ベルゼイン帝国の皇女よ」


 アルティリーゼの名乗りにフィアーネもジュスティスも驚く。予想以上の大物だったのだから当然の事である。


「そう、それで皇女様あなた達はこの魔人をどうするつもりなの?」


 フィアーネは転がっている魔人にチラリと視線を移すとアルティリーゼに視線を戻し言う。


「私は今、配下を集めているの。そのためにその魔人に会いに来たのよ」


 アルティリーゼは隠すつもりはないようであっさりと答える。


(…なるほど、ベルゼイン帝国はお家騒動の真っ最中…この皇女も名乗りを上げたという訳ね…そして、彼女の基本方針は…少数精鋭というわけね)


 フィアーネは今までのベルゼイン帝国の情報を統合し、アルティリーゼとの会話から状況を推測する。


「なるほどね、でも私達の目的は魔人の無害化だから渡すわけにはいかないわね」


 フィアーネはそう言うと殺気を隠そうともせずアルティリーゼ達に放つ。フィアーネの殺気を受けてアルティリーゼ達は緊張を高める。だが、アルティリーゼは表面上、一切変化を見せない。


「そのようね…それじゃあ、私達が魔人を諦めてこのまま帰ると言ったら…見逃してくれるかしら?」


 アルティリーゼの言葉にフィアーネは頷く。この段階でアルティリーゼ達と雌雄を決するつもりはフィアーネにはなかった。6対2という状況、しかも強者揃いだ。遅れをとるつもりはまったくないが、それでも不安要素が多いのも事実だったのだ。


 一方でアルティリーゼ達もフィアーネがあっさりと了承した事を訝しがる。


「フィアーネ…俺は反対だ。こいつらは戦力を集め今よりも強大になってかこちらに挑んでくるぞ」


 ジュスティスの言葉は正論であった。配下を集めていると言う事は時間が経てば経つほど強大な存在となり自分達を脅かす事になると思ったのだ。


「いいえ、確かにお兄様の言う事は正論ですが…私はもう一つの可能性を考えています」


 フィアーネの言葉にジュスティスは少し考えると納得の表情を浮かべる。


「そうか…」


 ジュスティスの言葉にフィアーネは頷くとアルティリーゼに視線を移すと口を開く。


「さて…それじゃあ、話は終わりです。このまま帰ってくれるなら追いませんよ」


 フィアーネの言葉にアルティリーゼは頷く。これで戦闘は終わりという事を思わせる。


「それではお言葉に甘えて退散させていただくわ。エルカネス、ビ・バルを連れて行ってちょうだい」

「はっ!!」


 アルティリーゼが声をエルカネスに指示を出すとエルカネスはビ・バルを肩に担ぐとアルティリーゼの元に移動する。


「それではこれで失礼するわね…また会いましょう…」


 アルティリーゼはニッコリと笑うと転移魔術を起動させる。転移魔術が発動し転移が行われる前にイリムがフィアーネとジュスティスに言葉を発する。


「今回は俺の負けだ…。だがこれで終わりと思わないで欲しい」


 イリムの言葉にフィアーネはニヤリと嗤うと返答する。


「ええ、用意が出来たらいつでもどうぞ。ただし、今度はアレン達も一緒に戦うからそのつもりでね」


 フィアーネの言葉にイリムは頷く。そこで転移によりアルティリーゼ達の姿は消える。完全に気配が消えた事を確認するとフィアーネとジュスティスは警戒をとく。


「しかし、良かったのか。アレン君達を危険にさらす事になるぞ」


 ジュスティスの言葉にフィアーネはまったく気にしていないような声で答える。


「ええ、でもアレンなら私の行動を褒めてくれるわ」

「そんなもんか?」

「うん♪ むしろ私が一人であいつらと戦う事を選択する方がアレンにとってつらいと思うわ」

「アレン君にとって婚約者は守るだけの対象というわけではなく。共に戦う存在という訳か」

「そういうこと、アレンは一方的に何かされるというのは嫌なのよ」


 フィアーネの言葉にジュスティスは苦笑する。フィアーネの言葉にはアレンへの確かな信頼を感じさせる。フィアーネはアレンと共に戦えば負ける事はないという絶対の自信を持っている。それは確かなのかも知れない。アレンと婚約者達が組んでいる限りジュスティスでさえ勝つビジョンが浮かばないのだ。


「なるほど…お前は本当にアレン君を信じているんだな」


 ジュスティスの言葉にフィアーネは腰に手をやり、えっへんと胸を張って宣言する。


「もちろんよ。妻として…いえ、私はアレンを信じてるのはもはや世界の真理に匹敵するぐらいの事なのよ!!」


 フィアーネに宣言にジュスティスはがっくしと肩を落とす。自分の妹はどうしても最後を上手く決める事が出来ないのだ。


(これさえなければ残念令嬢と呼ばれないんだがな…)


 ジュスティスが肩を落とした所で、兄の落胆に気付かなかったフィアーネが声を発する。


「それじゃあ、あの魔人を無害化しましょうか」


 フィアーネはそう言うといつもの行動制限の魔術を行った。






 アインベルク邸のサロンでフィアーネが事の顛末をアレンに伝えていた。レミアとフィリシアはあいにく外出中という事であったために、まずはアレンに伝える事にしたのだ。


「なるほど、イグノール殿の息子と戦ったか…しかも、お前とジュスティスさんが戦って持ちこたえる事の出来る程の腕前か」


 アレンの言葉にフィアーネは頷く。そこにアレンが尋ねる。


「なぁフィアーネ…お前が一対一で戦えば勝率はどれぐらいだ?」

「そうね…6対4と言ったところかしら」


 フィアーネの言葉にアレンは考え込む。


「そうか…かなりの腕前だな」

「ええ、そして皇女のアルティリーゼという少女も相当な腕前よ」

「…でフィアーネはその危険な一行を見逃したのは魔神に噛みつかせるためだろう?」


 アレンの言葉にフィアーネは微笑むと頷く。


「ええ、さすがね。私の考えはお見通しか。やっぱり愛のなせる業ね♪」


 フィアーネの言葉にアレンは苦笑する。


「でも噛みつかせるにしたってどうやるんだ?」


 アレンはフィアーネに尋ねる。直に会っていない以上、アレンには魔神との戦いに巻き込ませる方法が思い浮かばない。フィアーネは会話をする事で為人を少しは掴んだのだろう。妙に自信たっぷりな表情をしている。


「今は内緒…でもね」


 フィアーネはそこで言葉をきる。


「俺達が戦って勝つ必要があるというわけだな…」


 アレンの言葉にフィアーネは頷く。どのような手段をとるにしてもイリム達とはもう一度戦って勝つ必要があることをフィアーネは察していたのだ。


「うん」


 フィアーネの肯定にアレンはニヤリと笑う。


「それじゃあ、対イリム殿達の準備も進めなくちゃならんな」

「うん♪」


 アレンとフィアーネは笑い合う。決して油断できるような相手ではない事は理解しているが二人は自分達の頼りになる仲間を思い浮かべれば勝算は十分に高い事を知っていたのだ。


(イリム=リオニクス…俺は決して負けない。俺は一人で戦うのではないからな…)


 アレンは心の中でイリム=リオニクスという男に向け自分の決意を呟くのだった。


 『雪姫』編は今回で終了です。次回はアルティリーゼ達の方になります。それから新章となります。

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