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挨拶⑮

「やぁ、みんなしばらく」


 隠者ハーミットらしからぬ気さくな挨拶に全員が生返事で返す。


「さて…何か困った事が起こったと聞いたけど?」


 エルヴィンの言葉にフィアーネが答える。


「実は私が調子に乗って墓地の結界発生装置を壊しちゃったんです」


 フィアーネの言葉にエルヴィンは何でもないというような声で返答する。


「あ、そうなの…まぁ、これぐらいの結界なら私でも張れるから任せといてくれ」

「ありがとうございます」


 エルヴィンの言葉を聞き、フィアーネはぺこりと頭を下げる。


「ただし、無料タダというわけにはいかんな」


 エルヴィンはニヤリという嗤いをアレンに向ける。その表情を見て、アレンは「また始まった」と心の中でため息をつく。


「で、今回は何をすれば良いんです?」


 アレンの言葉にエルヴィンはニヤリと嗤う。


「それはもちろん。アレン坊やが…痛い!!」


 エルヴィンの言葉はジュセルによって中断される。ジュセルがエルヴィンの頭を棍で殴ったのだ。


「何をするのだ?息子よ」


 殴られた頭を撫でながらエルヴィンは加害者である息子を見る。


「それを言わないとわからないほど親父はアホだったのか?」

「何を言う。『あらゆる事に機会があり、それを逃すような事をするな』とお前には教えていただろ。私はその人生哲学に基づいて行動しているに過ぎん」

「あのな。格好良いことを言ってるけどそれただ単に開き直っているだけだからな」

「バカな事を言うな。私は開き直ってなどいないぞ。この程度の事、開き直らなくても出来るのだ」

「なお質が悪いだろ」


 ジュセルの言葉は正論なのだが、エルヴィンにはまったく通じないようだ。


「ジュセル、気持ちは嬉しいがこのままでは、話が進まないからここは堪えてくれ」


 アレンの言葉にジュセルは頷く。その表情には申し訳ないという感情が色濃く浮かんでいる。


「ふ…それでは、私の目の前で婚約者達にハグするのだ」

「は?」

「だから婚約者達にハグするだけだ」


 エルヴィンの言葉にアレンは「へ?」という顔をする。一方でフィアーネ、レミア、フィリシアは嬉しそうだ。


「それだけ?」

「ああ、それだけだ」


 アレンは拍子抜けしてしまう。これでは別にアレンに対するバツでも何でもなく単なるご褒美に他ならなかったからだ。


「どうだい?」


 エルヴィンの言葉にアレンは頷く。アレンにしてみても婚約者達を抱きしめるのは嬉しい事だ。照れを吹っ切ればの話だが…。


「わかった。フィアーネ、レミア、フィリシア…いいか?」

「「「もちろん!!」」」


 3人は凄い勢いで同意する。


「じゃあ…フィアーネ」

「うん♪」


 アレンはフィアーネの前に立ち、フィアーネを抱きしめる。フィアーネは嬉しそうにアレンの胸元に頬を当てる。フィアーネは本当に幸せそうな表情を浮かべている。しばらく抱き合ったがアレンがフィアーネの体を離した。

 フィアーネの顔は蕩けきっておりアレンに抱きしめられた余韻に浸っているようだ。


「レミア」

「うん♪」


 次にアレンはレミアを抱きしめる。レミアもこれまた嬉しそうな表情を浮かべている。普段の凜としたクールビューティー的な美しさではなく。年齢相応の柔らかい幸せそうな表情だ。

 レミアも体を離された後、しばらく余韻に浸っていた。


「フィリシア」

「はい♪」


 最後にフィリシアをアレンは抱きしめる。フィリシアは照れと幸せが混在している表情を初めは浮かべたが、徐々に幸せが勝り最後の方は幸せの表情しか浮かんでいなかった。

 フィリシアも体を離された後、余韻に浸っていたようだった。


 そしてしばらくして余韻が冷めた所で、フィアーネ達はエルヴィンの元に行くと頭を下げお礼を言う。


「「「ありがとうございました♪」」」


 婚約者達のお礼にエルヴィンは満足そうに頷くとアレンに向けて言う。


「よしよし、それじゃあ約束通り。結界を張るか…ああ、ジュラスには私から報告しておくから安心してくれ」


 エルヴィンの言葉にアレンは驚き、エルヴィンへの感謝の心が湧き起こる。最もハードルの高い報告をしてくれるというのだから、これ以上の嬉しい事はない。


「さて…これでいいか」


 エルヴィンは落ちていたフェーベンの持っていた錫杖を拾い上げると結界発生装置があった場所へ歩き、そこに錫杖を突き刺した。


 突き刺した錫杖の根元から魔法陣が現れた。その魔法陣は直径を増していく。最初は少しずつ、そして徐々に速度を上げ直径を増していった。


 魔法陣はあっという間に直径30メートルを超える巨大なものとなり、一瞬光を放つと魔法陣は消失する。


「はい、終わり」


 エルヴィンはアレン達に振り返ると事も無げなく言う。


「さすがだな…」


 アレンの口から賞賛の言葉が発せられる。


「これで性格がまともだったらな…」


 次いでジュセルの言葉が発せられたが、こちらの意見に賛同したのはアレンのみである。フィアーネ達は恩恵を受けていたので賛同しなかった。


「さて、アレン坊や…明日は私と一緒にテルノヴィス学園に行ってもらうよ」


 エルヴィンの言葉にアレンは「は?」と呆けた声で返答する。


「どうして?」

「そりゃ、もちろんアディラちゃんを抱きしめてもらうためだ」

「は?」


 エルヴィンの言葉にアレンは戸惑う。そしてアレンは先程の「婚約者達を抱きしめる」という条件をまだ達成していないという事を突きつけられたのだ。


「アディラちゃんもアレン坊やの婚約者だ。と言う事は抱きしめるべき条件にあてはまるだろう?」


 エルヴィンはニヤニヤしながらアレンに言う。この流れでは学園でアディラをハグすることになる。しかも、退学した学園までわざわざ出向きそこで婚約者を抱きしめるという溺愛っぷりをさらす事になるのだ。いわゆるバカップルという行動そのものだ。


「あ、そうそうフィアーネちゃん、レミアちゃん、フィリシアちゃんも一緒に行ってくれればもう一回、アレン坊やにハグさせるよ」


 エルヴィンの言葉にフィアーネ達も飛びつく。


「「「行きます!!!」」」


「カタリナちゃんはどうする?」


 エルヴィンの言葉にカタリナは苦笑いをして誘いを断る。さすがにアレンが少し気の毒になったのだ。


「おい、親父…」


 ジュセルの言葉をエルヴィンはさらりと無視する。


「それじゃあ、明日、10時ぐらいにアインベルク邸に行くからよろしくね」


 エルヴィンはそう言うと転移魔術を発動するとふっと消える。


 後に残されたアレン達はその光景を呆然と眺めることになった。


「えっと…アレンさん…」


 ジュセルの申し訳なさそうな声にアレンは苦笑いしながら答える。


「まぁ気にするな。約束は約束だし。明日は俺も学園の方に一緒に行くよ」


 アレンはそういうとジュセルも頷く。


(まぁ…あの人もやっぱり父親なんだな…)


 アレンはエルヴィンの意図するところを正確に把握していたために苦笑していた。ジュセルやフィアーネ達はアレンの苦笑を不思議そうに眺めていた。



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