挨拶⑨
命を刈る者…
アレンがレアと称するこのアンデッドは、言葉通りほとんど発生報告のないアンデッドだ。様々なアンデッドが発生するこの国営墓地においても、ほとんど発生報告はない。
このアンデッドが発生しない理由は、発生に膨大な瘴気が必要であるというのがその大きな理由だ。国営墓地では何年かの割合で、妙に高濃度の瘴気が墓地に満ちると言う時があるのだが、その時ぐらいにしか発生しないのだ。
今夜の命を刈る者は、フェーベンが召喚した者であるために自然発生的に生まれたものではないだろうが、それでもレアケースである事は間違いない。
『やれ』
フェーベンの命令が下されると命を刈る者は動く。動いた先はトロルを襲うデスナイト、死の聖騎士達である。
命を刈る者は一瞬で移動するとデスナイトの一体の首を持っている鎌で刈り取った。刈り取られた首はすぐに塵となって消え失せ、デスナイトが首を再生させる前にデスナイトの胸にある核を斬り裂く。核を斬り裂かれたデスナイトは塵となって消滅する。
「速い…」
レミアの口から賞賛の言葉が発せられる。命を刈る者がデスナイトを葬った動きはそうそうアレン達に劣るものではなかったのだ。
『私を侮った罪、万死に値する。貴様らの心を絶望で塗りつぶしてくれる』
フェーベンはすっかり得意気になっているようだ。そして再び召喚の魔法陣を展開し始める。
(今度はどんなレアなアンデッドを召喚するのかな?)
アレンは呑気にそんなことを思っている。この間合いである以上、フェーベンの召喚術を制止することは不可能であった。そのために制止するための行動はとらない。とったのは次に召喚された者に対する備えだ。
アレンの執った備えとは闇姫の作成である。その数は6体、瞬く間に闇の美姫達がアレン達の周囲に形成される。
アレンは魔神の活動が確認されるとすぐに、闇姫の作成に対して鍛錬を開始した。かといって目新しい能力をつけるとかではなく、作成時間の短縮、複数同時作成、コントロールの精密さというようなシンプルな能力を磨くことである。
アレンは伸び悩んだり、今よりも強くなる必要があると考えた時にはいつも基本に立ち返るのだ。基本を疎かにする事ほど成長への遠回りはない事をアレンは知っているのだ。
フェーベンは召喚術で次に呼び出したのは、スケルトンだった。だが、その骨格は人間のものではないのは明らかだ。フェーベン同様に尻尾が生えており、悪魔の骨格である事が十分に察せられる。
「【骸骨悪魔】…か、本当に珍しい奴ばかりが今夜は現れるな」
アレンの言葉に先程、レアなアンデッドとして名前が出てきた【骸骨悪魔】であることを全員が察する。予想通りの風貌をしており、フィアーネ達にそれほどの驚きはない。
骸骨悪魔は瘴気を集めだし、自分の体に纏っていく。瘴気を纏っていくうちに骸骨悪魔の骨格に瘴気で作られた肉体が形成されていく。
「さっきのヴォラメルを途中で斃さなかったら、こんな感じになってたのね」
レミアの言葉にアレンは頷き、返答する。
「ああ、さて…さすがに打ち止めだろうな」
アレンがそういうと、フィアーネ達に向けて言う。
「フィアーネ、ジュセルはトロルをやってくれ」
アレンはフィアーネとジュセルにトロルをやることを指示する。フィアーネとジュセルならトロルというパワーファイターに対して相性が良いと考えたからだ。
「わかったわ♪」
「わかりました。フィアーネさんよろしくお願いします」
「ええ、こっちこそ」
アレンの指示をフィアーネとジュセルは快諾する。アレンの意図するところを把握している以上、反対意見を出すような事はしない。
(ん? あれ…なんだろう…俺は何か見落としている気がする…)
アレンはフィアーネとジュセルを組ませた事に対して何かしら不安を覚えた。戦力的にまったく問題ないはずなのに、一抹の不安を消すことが出来ないのだ。
(…だが、二人を組ませた方が良いのは間違いないと思うんだよな)
アレンはその不安を打ち消すと次にレミアとフィリシアに指示を出す。
「レミアとフィリシアは命を刈る者を頼む」
「ええ、了解♪」
「わかりました。任せて下さい」
アレンの指示にレミアとフィリシアも快諾する。
(…う~ん、やっぱり二人に対しては一抹の不安はないな…)
アレンはレミア、フィリシアのコンビには、フィアーネとジュセルに感じた不安は感じられなかった。
「カタリナは全員をフォローしてもらって良いか? 俺は骸骨悪魔をやる」
アレンの言葉にカタリナは頷く。
「みんな…それぞれの相手を斃したら、その後は自由にやっても良い」
アレンの言葉に全員が頷く。アレンの言う自由とは、次に誰を狙うかという事である。フェーベンを狙うのも良し、他の仲間の応援をするのも良しと言う事だった。
「まかせて♪ がんばりましょう。ジュセル君♪」
「ええ、やりましょう」
フィアーネとジュセルの言葉にやはり不安が持ち上がるアレンであった。




