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挨拶⑥

「う~ん…今夜は荒れるかもな」


 ヴォラメルを斃した所で、アレンが言葉を発する。内容の『荒れる』という言葉に全員がアレンに視線を送る。


「ヴォラメルは本当に珍しいアンデッドでな。2~3年に1回出るか出ないか…と言った所なんだ」


 アレンの言葉にレミアが返答する。


「まぁ珍しいアンデッドなんでしょうけど、それでどうして荒れるという言葉が出てくるの?」


 レミアの質問に対し、アレンは困ったような顔を浮かべる。


「いや…今までの経験上、ヴォラメルが発生したときは、他に強力なアンデッドが発生する事が多いんだ」

「例えばどんな?」

「有名どころだと首無し騎士(デュラハン)だな」

「じゃあレアケースだと?」

「【骸骨悪魔(ボーンイビル)】、【エグラ】かな」


 アレンの告げた名前に全員が視線を交わす。骸骨悪魔(ボーンイビル)はまだ名前から悪魔のスケルトンバージョンだろうと予測はつくのだが、エグラというのは名前からでは想像がつかないのだ。


「あの…アレンさん、そのエグラというのはどんなアンデッドなんですか?」


 フィリシアがアレンに尋ねる。他の者達も同じ気持ちなのだろう、もしフィリシアが質問しなければ自分が聞いたと言った感じだ。


「ああ、エグラってのは体長5メートル程の大きさで、下半身はムカデ、上半身は人間、頭は猛禽類のような奴だ。体を構成するのは瘴気だ。核が有している瘴気の量は膨大なために面倒くさいアンデッドだ」


 アレンの言葉にレミアが不快気に呟く。


「そんなアンデッドがいるのね…」

「ああ、俺も今まで2回しか見たことのない奴だ」

「ちなみに戦闘経験は?」

「1回だけある。もう1回は父上が斃してたな」

「その時は一人で戦ったの?」

「いや、その時はアルフィスと一緒にだな」

「ちなみにいくつの時?」

「確か…4年ぐらい前だから……14か5ぐらいだった気が」


 アレンの言葉に全員が視線を交わす。アレンの口から語られたエグラというアンデッドを王太子と共に斃すというアレンの戦歴の長さを思い知らされた感じだった。


「それじゃあ、とりあえず今夜はそんなレアケースな日の可能性が大きいのね」

「ああ」


 フィアーネの言葉にアレンは簡潔に答える。


「そうそう、さっきのヴォラメルだけど、楽な相手だと言ってたけど…あれって戦闘状態になるまでに斃せば楽って事なの?」


 カタリナがアレンに尋ねる。カタリナは好奇心が強いために気になっていたのだ。


「ああ、楽って言うのはな…ヴォラメルは骨格がやっぱり基礎なんだ。だから骨ごと断ってしまえば再生しない。その点で楽っていう意味さ」

「なるほどね」


 アレンの返答にカタリナは満足気に頷いた。


「じゃあ、行こうか。みんな今夜は気を付けような」

「うん」

「はい」

「了解」


 アレンの言葉に全員がそれぞれの言葉で返答する。ただし、その声にも表情にも緊張感は一切無い。油断しているのではなく、周囲のメンバーの顔ぶれを見る限り、絶望するような状況でないのは確実だったからだ。



 それからアレン達は各区画を注意深く見回りを続けた。


「おや…デスナイトか」


 ヴォラメルを斃して5分程すると、いつものアンデッドが登場する。数は2体、普通の感覚では2体のデスナイトに出会った場合は神の怠慢に呪詛の声を上げたくなるものなのだが、この場においてデスナイトを恐れる者など誰もいない。


 むしろ、デスナイトに意思があれば、アレン達に出会ってしまった不運に神への呪詛の声を上げたかもしれない。


「いくぞ…」


 アレンの声に全員が頷くと全員が行動を起こした。その行動とは当然、デスナイトの排除である。アレンとフィアーネ、レミアとフィリシアの二手に分かれ、デスナイト一体ずつに相対する。


 ジュセルとカタリナも、またそれぞれ魔術を放つ。


 ジュセルの放った魔術は、【聖矢ホーリーアロー】だ。対アンデッド用の魔術として一般的な選択だった。だが、威力は一般的というにはほど遠い。ジュセルの放った【聖矢ホーリーアロー】はデスナイトの両膝を撃ち抜いた。両膝を撃ち抜かれたデスナイトは膝から下が塵となり地面に倒れ込んだ。


 デスナイトは、すぐさま両足を再生し立ち上がろうとしたのだが、すでにアレンとフィアーネが間合いを詰めている。


 シュパッ!!


 アレンの剣が一閃するとデスナイトの右腕は手に持った大剣とともに塵となって消え去る。

 突如、片腕を失ったデスナイトはバランスを崩し倒れ込む。そこにフィアーネがデスナイトの顔面を掴み、そこを基点としてデスナイトの背中に回り込むとデスナイトを押さえつけると同時に無防備なデスナイトの背中に容赦ない一撃を叩き込んだ。


 今回のフィアーネの容赦ない一撃は貫手であった。魔力を込め放ったフィアーネの貫手はデスナイトの背中から核を貫くことに成功し、デスナイトは消滅する。


 アレンとフィアーネがもう一体のデスナイトがいた場所を見た時、フィリシアがデスナイトを袈裟斬りにより核を斬り裂き、消滅させている所であった。デスナイトが消滅する時に右腕と頭部が消滅していたところをみるとレミアが斬り落としたと思われる。


 レミアとフィリシアがもう一体のデスナイトを斃した流れはこうだった。


 カタリナが、まず【呪縛鎖スペルチェーンバインド】を放ち、デスナイトを捕縛する。

 カタリナの【呪縛鎖スペルチェーンバインド】は、デスナイトに一瞬で絡みつき動きを奪ったが、デスナイトはその膂力で鎖を引きちぎった。カタリナの放った鎖は見事に弾けとんだのだが、カタリナ本人には全くと言って良いほど衝撃を受けていない。


 なぜなら、カタリナはデスナイトに鎖を引きちぎらせるのが目的だったからだ。当然ながら鎖を引きちぎった時に大きく隙を生じさせることこそが目的だったのだ。デスナイトはそのカタリナの企みに見事に踊らされ、生じた隙をレミアとフィリシアに衝かれたのだ。


 鎖を引きちぎり、大きく開かれた両腕はレミアとフィリシアにとって大きすぎる隙である。レミアはその隙を逃すことはせずに、左手に握った剣でデスナイトの右肩から腕を斬り落とすと、間髪入れずに逆手に持ったもう一方の剣でデスナイトの首を刎ね飛ばす。


 あまりにもレミアの斬撃の速度が速かったためだろう、端から見ていた者の目には同時にデスナイトの右腕と頭部が斬り飛ばされたようにしか見えない。


 そこに続けてフィリシアがデスナイトを袈裟切りして消滅させたのだ。


 デスナイト2体を斃すのにアレン達が駆けた時間は7~8秒といった所だろう。もちろん、これはそれぞれがそれぞれの役割を十二分に果たした結果であり、もし、一対一でデスナイトに相対すれば30秒ほどになる事は間違いなかった。


 デスナイトを斃したアレン達一行だが警戒を解くような事は誰一人としてしない。


 全員の視線の先に一体のアンデッドがいたからだ。


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