挨拶④
「いや~斬新な発想だ。カタリナ!!どうやってその発想に至ったか教えてくれるか!!」
ジュセルは興奮したようにカタリナに話す。ジュセルの反応に気を良くしたのか、カタリナはニンマリと笑う。いや嗤う…。
「まず私が注目したのは、あの術式は基本魔術を複雑に組み合わせてあれほどの遠隔操作を実現してるわよね?」
「ああ、さっきアレンさん達にも伝えたけど、あれは基礎魔術を組み合わせただけだ」
「そう、なら基礎魔術の組み込み次第なら様々な事象を引き起こせるかも知れないと思ったのよ」
「なるほど、それで俺にその術式を作って欲しいという訳か?」
「ええ、それと術式の組み込み方のコツを教えて欲しいのよ」
「なるほどな…ちなみにカタリナはいくつまで組み込める?」
「試しに自分でやってみたけど9個までしか組み込めないのよ」
「すごいな…俺でも15までしか組み込めないんだぞ。ちなみにカタリナの計算でホムンクルスを作るためにはいくつの術式が必要だ?」
「最低でも…30…」
「ほう…30…今の倍か…燃えてきたな」
「協力してくれる?」
「もちろんだ!!そんな面白い事をやっていることを知って参加しないなんて出来るわけないだろう。俺も混ぜろ!!」
カタリナの差し出した右手をジュセルは即座に握りしめる。
(あれ?異性同士の握手ってこんな戦友っぽい奴だったけ?)
(美少年、美少女なのに…ここまで色恋を感じさせないのはどうしてかしら?)
(えっと…カタリナの同好の士が見つかった事を喜ぶべき何だろうけど、なんか残念な感じがするのは私だけかしら…アレン、フィアーネ、フィリシアも私と同じ気持ちよね?)
(…カタリナもジュセル君も仲良くなれそうで良かったんだけど…何故かしら、頭を抱えたくなる自分がいるわ…)
アレン達はカタリナとジュセルの握手を見ながら、それぞれなにかしら不安を感じるのであった。何となくだが混ぜたらいけないカップルが出来上がってしまうような漠然とした不安だった。
「あ、二人とも…」
アレンが二人に声をかけると二人は揃ってアレンを見る。
「あ、はい。アレンさん、どうしました?」
「何、アレン?」
「ああ、二人ともその話はあとでじっくりやってくれ。それよりもジュセルは今夜は泊まるか?」
アレンの言葉にジュセルは頷く。
「はい、泊めてくれるというのは正直助かります」
「それじゃあ、今夜はジュセルは泊まってく…と」
「ありがとうございます」
アレンの言葉にジュセルはアレンに礼を言う。
「さて、それじゃあ挨拶は終わりね。それじゃあジュセル、早速だけど、私の研究室に来てちょうだい」
「おう」
「アレン、ジュセルを借りるわよ」
「アレンさん、墓地の見回りまでには戻ってきます」
「ああ、カタリナ」
「何?」
「夕食はいつもの時間だから、それに夢中になりすぎないようにしてくれよ」
「うん、18時ね」
「それじゃあ、アレンさん、みなさん、またあとで」
カタリナとジュセルはアレンの言葉が終わるとサロンを二人で出て行った。見ようによっては恋人同士の逢い引きにも似た感じなのだが、アレン達はそれが決して甘いものでないことを察していた。
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その後、二人は18時きっかりにアインベルク邸の食堂に現れ、キャサリンの食事を全員で摂ることになった。
カタリナとジュセルは、かなり気が会うようですっかり意気投合していた。
キャサリンの美味しすぎる食事を摂ってから、20時になるとアレン、フィアーネ、レミア、フィリシア、カタリナ、ジュセルの6人がアインベルク邸のエントランスに集まり、国営墓地に向けて出発する。
「久しぶりだな…」
ジュセルの言葉にレミアが尋ねる。
「ん?ジュセル君は国営墓地に行った事あるの?」
「はい、5年くらい前ですけどね」
「という事は11歳ぐらいには国営墓地に?」
「ええ、親父の方針でアインベルク邸合宿が1年に1回組まれてましたね」
「合宿?」
聞き慣れない単語にレミアが続きを促す。
「ええ、アンデッドを斃せるぐらいの戦闘力ぐらいは持っとけいう親父の方針です」
「…」
ジュセルの言葉に全員が言葉を無くす。10かそこらの子どもを国営墓地に送り込むエルヴィンの教育方針に若干引いていたのだ。
「まぁ…ジュセルだけじゃなく、俺もアルフィスも一緒だったからそんな、大事じゃなかったけどな」
アレンの言葉はフォローのようでフォローになっていない。現在のアレンの実力なら危険はないと言い切れるだろうが、当時のアレンやアルフィスもわずか13歳だ。
「えっと…アレンさんのお父様や国王陛下は?」
フィリシアの言葉にアレンは首を振る。
「俺もアルフィスもあの時は一人でもデスナイト、リッチは斃せてたし、ついてこなかったな」
アレンの何でもないという言葉に全員が苦笑する。
「さて…ジュセル」
国営墓地の扉の前でアレンは立ち止まりジュセルに言葉をかける。
「はい」
「今回の見回りではお前の戦い方をフィアーネ、レミア、フィリシア、カタリナに教えるのが目的だ」
「はい」
「でもな…」
アレンが一端そこで切り、言葉を続けた。
「あんまり、やりすぎるなよ」
「うん、努力するよ」
アレンの言葉にジュセルは頷く。
ジュセルはアレンに返事をすると空間に手を突っ込むと、一つの手甲と棍を取り出す。ジュセルの空間魔術により、自分の家に置いてあった手甲と棍を取り出したのだ。
「ジュセル君の戦闘スタイルは、棍術と無手術なんですか?」
フィリシアの言葉にジュセルは首を横に振る。
「一応、専門は魔術だったんですけどね。最近はどうもこっちの方が性に合ってるような気がしてきてまして…」
ジュセルの言葉に全員が笑う。
「さて…それじゃあ、行こうか」
アレンは全員に声をかけると国営墓地の扉を開けた。




